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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第九部 世界に示せ! ミーア学園の威光を!
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第六十一話 ドミニクはちょっとだけ混乱した!

 さて……ミーアたちが去っていくのを、ドミニクはポッカーンと口を開けて見送っていた。その背が見えなくなった瞬間、彼の顔にジワジワと笑みが広がっていき……。

「み、ミーア姫殿下に、褒められた……!」

 実感は遅れてやってきた。思わず、グッと拳を握りしめる。

 なんと……光栄なこと。なんと誇らしいことだろう!

 あの皇女ミーア学で学んでいる帝国の叡智に、数々の奇跡を成した帝国の聖女、否、大陸の大聖女に、あのようにお褒めいただくなどと……!

 かつて、皇帝陛下から「皇女の町」の建設を命じられた父は、屋敷に戻って来て小躍りしていた。あの時の嬉しそうな顔が、ドミニクの脳裏に甦る。

 ――そうか。父上は、きっと、このような気持ちだったんだな。

 踊り出したくなるのを懸命に堪えつつ、幸せを噛みしめるドミニクである。自分の行動は、間違っていなかった……と、心なしか涙ぐみ、感動に打ち震えていると……。

「あ……あの……」

 ふと見ると、先ほど突き飛ばされた女の子がこちらを見ていた。上目遣いに、なにかもの言いたげに、ドミニクを見つめてくる。

 一瞬、うん? っと考え込んだドミニクだったが、すぐに、ぽんっと心の中で手を打って、

「ああ、そうだったね。君、大丈夫だったかい?」

 この子は、大人の男に突き飛ばされたのだ。どこかにぶつけた、といったことはなかっただろうから、ケガはしていないだろうが、それでもショックは受けているだろうし、年長者として、上に立つ者として、気遣う必要があるだろう。

「君も、よく受け止めたね、カロン。さすが年長組の男子だ」

 それから、ドミニクはカロンのほうにも声をかける。カロンは、それで、照れくさそうに鼻の頭をかいた。

「あ、あの、ありがとう、ございました。ドミニクさま」

 その声に、少女のほうに目を向ける。っと、少女は途切れ途切れにそう言うと、ポッと頬を赤くして、いそいそとヤナの後ろに隠れてしまった。

 その、見ようによっては怯えているようにも見える態度を見て、ドミニクは眉をひそめる。先ほどのことが原因で、無闇に貴族を恐れるようになっては一大事だ。せっかく、褒めてもらったというのに、台無しになってしまう。

 フォローすべく、彼は口を開いた。

「帝国貴族が怖がらせてしまったのなら申し訳ないことをした。我が帝国の名誉のために言っておくが、帝国貴族はあのように非道な男ばかりではないと、それだけは覚えておいてもらいたい」

 頭を下げ、そんなことを言うドミニク。

 彼の顔と、それから、ヤナの後ろに隠れた少女とを交互に眺めていたパティが、なにやらもの言いたげな顔をしていたが……結局は、開いた口から言葉が出ることはなく。ただ小さくため息を吐くのみだった。

「ところで、どうかな? 気分転換に、食堂でオヤツにするというのは。無礼のお詫びに、とっておきをご馳走してあげようかと思うのだが」

 そんなドミニクの言葉に、ワッと沸く子どもたち。それを見て、満足げな笑みを浮かべるドミニクであったが……。

「ドミニク・ベルマン、殿?」

 その時だ。背後から、ドミニクに声をかける者がいた。

 振り向いた先に立っていた少女を見て、ドミニクは小さく首を傾げた。

「ん? 君は……?」

 確か、皇女ミーアの一行にいた少女だったか。特別初等部の関係者というわけでもないようだが、セントノエルの生徒だろうか。ということは、貴族か、あるいは、どこぞの商人の娘か……。どこかミーアに面影の似た少女だが、いったい、何者なのだろうか、と思っていると、不意に、少女が深々と頭を下げた。

「あの時は……母ともども、大変、お世話になりました」

「うん? ええと、母? 世話? なんのことだろう……」

 一瞬、意味が分からず、ドミニクは首を傾げる。

「無事に、帝都に行くことができました。あの時は、本当にありがとうございました」

 どうやら、詳しく説明してくれる様子はない。

 言葉から察するに、ベルマン子爵家でその母親ともども面倒を見たとか、そういうことだろうか? 例えば、帝都に行く途中に路銀が尽きたとか……。そんな事情で、ベルマン子爵家で面倒を見たということかもしれない。

 ――それは、父上に言うべきお礼で、俺が言われるべき言葉じゃないな。

 そう思ったドミニクは、口を開いて……。

「それは……」

 言い淀む。紡ごうとした言葉が……形を成さずに、溶けて消えた。

 ――え? どうして……。

 彼は……己が心の変化に、思わず戸惑う。

 理由はわからない。

 彼女になにを言われたのかも、詳しくはわからないはずだ。

 ……だけど、目の前の少女の言葉を聞いた途端、心に去来したのは、体の力が抜けてしまうような、深い安堵感だった。

 そうして、彼の口から、こぼれたのは小さな一言。

「それはよかった。安心した……」

 本心から、そう言っていた。

 まるで、自分ではない誰かに、心を乗っ取られてしまったような感覚。されど、他人の感情というにはあまりにも自分に馴染み過ぎているような、不思議な感覚だった。

 己が声にこもる感情の強さに、ドミニクは驚く。けれど、その疑問が解消される前に、目の前の少女は、パン、っと手を打った。

「あっ、とそうでした。パティ、申し訳ありませんけど、一緒に来てください」

「……私?」

 小さく首を傾げるパティの手を取って、

「ミーアお姉さまが呼んでいるので」

 ――ミーア……お姉さまっ!? どういうことだっ!?

 驚愕に固まるドミニクに、もう一度、深々と頭を下げてから、少女は小走りに行ってしまった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れさまです。 ドミニク・・・カッコイイですね。 しかし、断首台のときはどんな感じだったのか気になりますね。
[良い点] どんどんドツボにハマる発言を次々と……(笑)。 ドミニク君、ここから分不相応な称賛に肩身の狭い思いをする毎日が始まってしまうのかも? >>「あの時は……母ともども、大変、お世話になりまし…
[気になる点] 「あの時は……母ともども、大変、お世話になりました」 ふと思ったのですがミーア女帝後の安定したティアムーン帝国の未来ではミーアベルも皇女として平和に暮したはずですからまだ現時点ではまだ…
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