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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第九部 世界に示せ! ミーア学園の威光を!
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第五十五話 いつかの蛇に、心重ねて

「神聖図書館への入館許可を……」

「ええ、そうですわ。ユバータ司教のご許可が必要とお聞きしましたわ」

 ミーアの言葉にユバータ司教は深々と頷き、

「その通りでございます。が……ちなみに、どのような知識をお求めなのでしょうか?」

 澄んだ瞳で、そう問うてきた。真っ直ぐに、探るように……見つめてきた。

 ――ああ、やはり、そうなりますわよね。

 ただ見学したいから、では、おそらくは通らないだろう。

 ユバータ司教は知っている。

 神聖図書館にどのような本が収蔵されているか、ミーアがラフィーナから聞いている、ということを。

 だからこそ、きっとこう考えているだろう。

 ミーアの目的は、神聖図書館に収められている、混沌の蛇に関連する書物なのだろう、と。

 それを踏まえたうえで、ミーアはしばしの逡巡を経て、口を開いた。

「地を這うモノの書に関連する書物、ですわ」

 その言葉に、ユバータ司教の目が、わずかばかり鋭さを増す。メガネの奥、瞳に宿ったその光、ミーアは悟る。

 ――ああ、この方は、ルードヴィッヒやガルヴ学長、ルシーナ司教なんかと同じ類ですわ。下手に言い訳をしたり、誤魔化そうとしたりしたら、却って印象が悪くなる類の人。となれば、嘘は厳禁ですわね。

 ミーアの直感の正しさを証明するように、ユバータ司教が厳格な口調で問いかける。

「なにゆえに、地を這うモノの書の知識をお求めになる、と?」

 わずかばかり、ミーアが施したワンクッション……「関連する書物」の部分はざっくりと切り捨てられていた。

 ――やっぱり、そうですわよね。嘘や誤魔化しは逆効果ですわね。

 小さくため息を吐いてから、ミーアは答える。

「答えは先ほど、あなたがおっしゃられていたことですわ。蛇と戦うためには、蛇のことを知らなければならないから、ですわ」

 幸い、答えはすぐに出る。

 蛇と戦うため。相手のことをよく知り、的確に戦うためである、と。

 それは、つい先ほど、ユバータ司教自身が口にした言葉でもあった。ゆえに、説得力がある。なにより、それは嘘でもなければ、口から出まかせでもなかった。ゆえに、ミーアは胸を張って堂々と答えた。

「わたくしが蛇と戦うために、その動きを抑制するために、どうしても、知識が必要なのですわ」

「彼らを炙り出すためでしょうか? あるいは、攻撃し、殲滅するためでしょうか?」

 ミーアは、問いの意味を吟味する。

 ――炙り出すにしろ、攻撃の手段にしろ、そんなものがあるなら教えろ、と言われてしまいそうですわね。なにより、嘘になってしまいますわ。

 ミーアは小さく首を振ってから、

「どちらでもありませんわ。詳しいことは言えないのですけれど……蛇の呪縛を解き、ある少女を救うため……ですわ」

 一切の嘘を交えず、ミーアは伝える。

 蛇に縛られ続けたパティを助けるため、ハンネスを人質に取られたパティが、自由に動けるようになるため。これから先、過去に戻り、たった一人で戦わねばならないパティの、少しでも援護になるために。

 ……まぁ……これで、自分もちょっぴり楽になるし? という意識がないではないのだが……さすがに、そこまで馬鹿正直に口に出したりはしない。

 後で自分が楽になるから! というのは、常に、ミーアが念頭に置いている概念ではあるのだが、わざわざ公言するようなことでもないのだ。

 まったくもって、そんな自分ファーストなこと、全然思ってもいませんよ? っというシレッとした顔で、ミーアは言うのだった。

 ……まぁ、実際のところ、今回に限って言えば「楽になったらいいなぁ」ぐらいには思っているが……三割から四割ぐらいはそう思わないでもないのだけれど……それ以上に、やはり、ミーアは「今」を守りたいのだ。

 苦労して、ここまで築き上げてきたものが、過去によって変えられるなどと、そんなこと、真っ平ごめんなのだ。

 ――そんな酷いことなんか、絶対させませんわ。ここまでわたくしが頑張って来た努力が水泡に帰するなど、絶対に許されることではありませんわ。

 そうなのだ……ミーアは、この時初めて……「混沌の蛇」の誰かさんと心が重なってしまったのだ!

 せっかく、成功したことを、過去に戻って覆されるとか! やってらんねーよ!! と……どこか遠くで叫ぶ蛇の声に、心の底から同意できてしまいそうな、そんな心持ちのミーアなのであった。

「いかがかしら……。神聖図書館に収められている本を、わたくしたちに読ませてはいただけないかしら?」

「重ねての問い、大変、心苦しく思います。されど、お聞かせください、ミーア姫殿下。あなたのお求めの知識は、具体的にはなんですか?」

 ユバータ司教は、けれど、頑強であった。

「私個人としましては、ミーア姫殿下は全幅の信頼に値するお方であると考えています。されど、神聖図書館館長として、問いたださねばならぬことがあるのです。地を這うモノの書は、危険な書物です。その誘惑は、人間であれば、誰でも揺らいでしまう、それほどに強力なものなのです。ゆえに……」

「そう……ですわね」

 刹那の逡巡……その後、ミーアはガルヴのほうに目を向けた。

 そう言えば、彼にも聞いたことはなかったかもしれない。智者二人がこの場に集っている現状、聞かずにいるのはもったいないかもしれない。

 ミーアは意を決して、口を開いた。

「ある病を治すための薬……その知識を求めておりますの」

「薬、ですか……」

「ええ。水土の薬、と呼ばれるものなのですけど、お心当たりはございますかしら?」

 その問いかけに、ユバータ司教は首を傾げた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >なにゆえに、地を這うモノの書の知識をお求めになる、と?  >「彼らを炙り出すためでしょうか? あるいは、攻撃し、殲滅するためでしょうか?」 ここにYESとは決して答えないのがミーアです…
[良い点] 私個人としましては、ミーア姫殿下は全幅の信頼に値するお方であると考えています。されど、神聖図書館館長として、問いたださねばならぬことがあるのです。地を這うモノの書は、危険な書物です。その誘…
[一言] >せっかく、成功したことを、過去に戻って覆されるとか! やってらんねーよ!! と……どこか遠くで叫ぶ蛇の声に、心の底から同意できてしまいそうな、そんな心持ちのミーアなのであった。 ギロちん君…
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