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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第九部 世界に示せ! ミーア学園の威光を!
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第五十一話 忠臣アンヌは見逃さない

 さて、アンヌが砂糖一個入り(ミーア的ノンシュガー)ミルクティーを持ってきたところで、ミーアは話を再開する。

「それで、具体的には、どう動きだしたんですの?」

「サフィアス殿から連絡が入りました。ちなみに、ミーアさまは、紫月花の会をご存知ですか?」

「聞いたことがございますわ。帝国貴族夫人の集まりですわね。いろいろな方面に強い影響力を持っているとのことですけど……」

 その答えに満足した様子で頷いて、ルードヴィッヒは言った。

「実は、グロワールリュンヌの後援団体が、その紫月花の会なのです」

「なるほど、ありそうな話ですわね。なんといっても帝国貴族の子弟が集まる学園ですし……」

「それで、サフィアス殿の報告によると、その紫月花の会の会長であるブルームーン公爵夫人のところへ、グロワールリュンヌ学園の講師がやってきて、なにやら話し込んでいたとか……」

「ほほう、それは重要な情報ですわね。つまり、聖ミーア学園をパライナ祭の代表校にするためには、グロワールリュンヌのみならず、紫月花の会まで相手にしなければならない、と……そういうわけですわね?」

「現状では、その可能性は非常に高いかと……」

 ミーア、そこでミルクティーを一口。その中に含まれる微量の糖分を抽出し、濃縮し、脳みそに送り込む! ミーアの脳が、ぎゅんぎゅんと動き出した!

 ――それは、下手をすれば中央貴族を軒並み敵に回すことになりそうですわね……。レッドムーン公、イエロームーン公には協力してもらえるでしょうし、サフィアスさんたちの援護も期待できるでしょうけれど……。それでも、あまり気が進みませんわ。それに、グロワールリュンヌ学園の生徒たちには、この機会に聖ミーア学園と交流し、反農思想の払拭に繋がればと思いますし……そのためには、紫月花の会が少々邪魔くさいですわね。

 ミーアは小さく唸った。

「ふうむ、できれば、問題を切り離したいですわね……」

 というか、できれば紫月花の会とは、まともに争いたくないミーアである。貴族夫人と言うのは総じてプライドが高い。ゆえに、彼女たちを説得するのは、なかなかに骨の折れる作業なのだ。

 となれば……どうするか。

「ここは、せっかく、一緒に来ておりますし、お父さまのお力を借りるのがよろしいかしら?」

「皇帝陛下の、ですか?」

 目を瞬かせるルードヴィッヒに、ミーアは大きく頷いた。

「ええ。グロワールリュンヌと紫月花の会は実際には別物ですから。そして、貴族夫人たちの動きの牽制には、やはり、皇帝たる父上に一言言っていただくのが効くのではないかしら?」

 ルードヴィッヒは、なるほど、と頷いて……。

「現状、グロワールリュンヌ校本体より、確かに、紫月花の会のほうが、面倒が大きいように思います。ミーアさまのおっしゃられるとおり、そちらを押さえられれば、案外簡単に済んでしまうかもしれません」

「まぁ、あくまでもとりあえず、ですわ。他にも手を考えておくに越したことはないでしょうけど……」

 とは言いつつも、ミーアは、概ねこれで問題が片付くと高をくくっていた。のだが……。


「紫月花の会……ヨハンナが長をやっている会か……」

「ええ、そうですわ。ぜひ、聖ミーア学園の邪魔をしないよう、お父さまのほうからガツンと言ってやっていただきたいんですの。こう、ガッツーンと……」

 翌朝の朝食時。ミーアは、早速、父に話を持ち掛けたところ、

「ううむ……それは、なかなかに、難しいかもしれんなぁ」

 非常にしっぶーい顔をされてしまった! 思わず面食らってしまうミーアである。

「どっ、どっ、どうしましたの? お父さま……そのような弱気な……」

「いや……なぁ。ヨハンナは、うーん……」

 実になんとも、歯切れが悪い!

 ――どういうことですの、お父さまが、わたくしのお願いをこんなに渋るだなんて……はっ! ま、まさか……!?

 瞬間、ミーアのピンク色の脳細胞が唸りを上げた!

 ――もしかして、お父さま……ブルームーン公爵夫人のことを……?

 そうなのだ。ミーアとて、もう子どもではない。

 いや、まぁ、そもそもの話、断頭台にかけられた時点で子どもではないのだが……それはさておき。

 そんな大人のお姉さんミーアだから、父にいい人がいても、取り乱したりはしないし、なんだったら、自分への愛情が若干分散して良いので? とすら思っている。

 パパ呼びの回数が減ったりするのではないか? と期待すらしている。しているが……。

 ――けれど、さすがに人妻……それも、ブルームーン公の奥さまなど、言語道断! あり得ぬことですわ。下手をすれば、帝国を二分する内戦に突入して……。とてもドラマチックなことになってしまうかも……。

 ちょっぴり見てみたい、だなんてまったく思わないミーアである。ドラマチックなのは物語の世界のみにしてほしいわけで、波乱万丈な人生など自分で経験したくもないミーアなのである。

 平穏、平和、安定がモットーなのである。

 さて、妄想をたくましくしているミーアに、父、マティアスは苦り切った顔で言った。

「ヨハンナはなぁ、アデラの親友だったのだ」

「……へ?」

 思わず、目をパチクリさせるミーアであったが……。

「それに、母上とも懇意にしていてな。本当の娘のような関係を築いていて……だから、なぁ……こう、今一つ言いづらくてな……」

「なんと……。帝国内に、お父さまが頭が上がらない方がいるだなんて、思いませんでしたわ!」

 てっきり、自分がお願いすれば、大抵のわがままは通してくれるものと思っていたのだが……。とミーアはそこで苦笑いを浮かべて……。

「しかし、焦りましたわ。てっきり、ブルームーン公爵夫人が、お父さまのいい人なのかと誤解してしまいましたわ」

 その答えに、マティアスは、ははは、と乾いた笑い声を上げた。

「いやぁ……ブルームーン公には申し訳ないが、あのように気の強いのは、ちょっと……なぁ」

 苦り切った顔をする父に、ミーアは、ふぅむっと唸る。

 ――意外ですわ……。お父さまに苦手な方がいるなんて……。

 ともあれ、今回は、父の権威は、どうやらあてにはできなさそうだった。

 ――仕方ありませんわ。なにか別の手を考えなければ……。しかし……。

 ミーアは、父の言葉の中に聞き捨てならない言葉を捉えていた。それは……。

「ところで、お父さま、そのヨハンナさんは、お祖母さまと仲が良かったという話は、本当なのかしら……?」

「ああ、そうなのだ。母上とは、よくお茶会を開いていた。アデラも交えてな」

「とすると……」

 腕組みしつつ、唸るミーア。

 その目の前のお皿の上、いつの間にやら、山盛りになっていたパンが消えているのを、背後に立つ、忠臣アンヌはきっちり見逃さずにいるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 皇帝とミーアの会話の場所と時間帯がわからないですわ。
[良い点] >>砂糖一個入り(ミーア的ノンシュガー)ミルクティー ふだん紅茶はそのまま飲むのでミルクティーはまず飲みませんが、一個じゃ確かに負けますね。 まあ、奥さんのお友達で母親とも親交がある女…
[気になる点] 「それで、サフィアス殿の報告によると、その紫月花の会の会長であるブルームーン公爵夫人のところへ、グロワールリュンヌ学園の講師がやってきて、なにやら話し込んでいたとか……」 「ほほう、そ…
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