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第百十三話 金剛石(ダイアモンド)の兵士たち

本日で、毎日投稿を終わりにいたします。

長らくおつきあいいただきありがとうございました。

来週から、火曜日、金曜日の週二回投稿で頑張るつもりです……、頑張れるだろうか…………?

引き続きミーアの活躍を楽しみにしていただけると幸いです。

 政府施設を無血開城、戦闘に及ぶことなく、町の守備兵を武装解除。

 それは、革命派の主導部に指示していた理想的な形だった。

 レムノ王国の地方都市の守備軍は、ほとんどがその町出身の者で構成されている。

 敵国が攻めてきた際には守備軍で遅滞戦闘を行うとともに、王国軍中央即応部隊を直ちに派遣して防衛するというのが、基本的な戦術構想だ。

 王都から派遣された兵を守備軍とした場合、劣勢に立たされれば逃亡する恐れがある。逃亡はしないまでも、士気は高くなりようがない。

 けれど、そこが自分の故郷で、愛する家族がいる場所であったとするならば、死に物狂いで戦うに違いない。

 そのような考えから造られた体制ではあるのだが、これは逆に民衆蜂起に対してはもろさを見せる。

 重税により、あるいは飢餓により、身内である町民が苦しんでいることを知っていて、その彼らが不平を訴えて立ち上がる時、果たして、守備兵は剣を向けるものだろうか?

 相手が苦しんでいる家族で、友人で、兄弟なのに?

 愛する者を苦しめる王侯貴族を守るために、愛する者たちに剣を向ける?

 それは、大いなる矛盾だ。

 ゆえに、守備兵たちは剣をとって反乱軍に加わる。愛する友人たちとともに戦おうとする可能性が非常に高い。

 守備兵は後々、反乱軍の戦力になる可能性が非常に高い者たちといえるだろう。

 だから、できるだけ殺さず、ケガも負わせずに捕獲したい。

 そして、言うまでもないことながら味方もあまり被害を出したくない。

 消耗戦となれば、非正規軍である反乱軍のほうが不利なのは自明の理である。

 そのような事情を鑑みての無血開城である。

 革命派の指導者たちはまさに、グレアムらの指示を忠実に守ったと言えるのかもしれないが……。

「あの計画は、全部、重税と国民の疲弊が前提になっていたのだが……」

 グレアムは、苦虫を噛み潰したような顔をする。

 そもそもの、前提が狂っている以上、計画が想定通りに動くはずもない。

 重税により、飢えで愛するものを失ったわけでもなく、王権への憎悪は醸成されるに至らず……。若干の不満がくすぶっているのみの現状で、一滴の血も流れない無血開城……。

「……茶番だな。茶番以外の何物でもない。何たるざまだ」

 報告書によれば、決起した革命派の連中は、まるでお祭り気分だった。

 いっそ町に派遣された王国政府の人間を惨殺したり、守備兵を皆殺しにしたりしてくれればよかったのだが……、当然のことながら、そんなことをするほどの怒りも憎悪もない。

 血なまぐさい騒乱を引き起こし、王権を覆すほどの破壊力を生み出すためには、憎悪という熱量が圧倒的に足りていないのだ。

 鎮圧に出てくるレムノ王国軍も、少し目端が利く指揮官が反乱軍のありさまを見れば呆れて解散を命じるか、説得に出るだろう。

 このままでは、王国全土に燃え広がらないどころか、町一つの騒乱程度で鎮火されてしまう勢いだ。

「だが、まだだ。挽回のチャンスはまだある……」

 大切なことは、反乱軍を徹底的に残酷に痛めつけ、民衆に王国政府への憎悪を植え付けることだ。

 そこまで考えた時、グレアムの頭に、帝国の静海の森の出来事が思い浮かんだ。

 かの帝国の叡智、ミーア・ルーナ・ティアムーンが起こした奇跡。

 熟練指揮官が開戦を止めている内に、ミーア姫がやってきて、強引に軍を撤退させて緊張を緩和。

 さらに、少女らしからぬ勇気を奮い、ルールー族族長のもとに少ない手勢で乗り込み直談判。

 なんの禍根もなく、すんなりと解決してしまったというあの一件である。

「あのようなことは、そう簡単に起こらないだろうが……」

 重要なことは、確実に戦闘を起こすこと。

 身内が殺されれば、少しばかりの言葉など、耳に入りようもない。

 いかに、帝国の叡智が暗躍しようとも、このまま平穏に元通り、などという奇跡は起こらない。否、起こさせない。

 同じ過ちは二度と犯さない。

 そうして、グレアムが目を付けたのが金剛歩兵団だった。

 民衆を虐殺する兵力、敵の状況を見極められるほどの経験を持たず、何よりも手柄が欲しい初陣の部隊。

 うってつけだった。

 王を交えた軍議の場で、グレアムは満を持して口を開く。



「反乱軍などという不逞な輩を打つのに、王の剣、金剛歩兵団以上に相応しい者がおりましょうか?」

 グレアムの発言に、軍議の場は一瞬騒然となった。けれど、すぐに、

「それは素晴らしい」

「確かに、その通りだ」

 賛成の声が上がる。

「国王陛下の誉れある金剛歩兵団の初陣ですな!」

 それに満足げに頷き、レムノ国王は言う。

「では、金剛歩兵団長ゴリアルよ、特別にお前に命ずる。見事、革命軍を僭称する不逞な輩どもを蹴散らして参れ!」

「御意!」

 国王直々の命令に、ゴリアルの心は沸き立った。

「必ずや、反乱軍の者共の首を取り、陛下のもとに参上仕ります」

「うむ、戦働き、期待しておるぞ……ところでな、ゴリアル」

「はっ!」

 ちょいちょい、と手で、ゴリアルを呼ぶ国王。

 すすす、っと音もなく国王のもとに行き、許しを得て顔を寄せるゴリアル。

「おぬしも知っている通り、金剛歩兵団は十年の歳月を経て、探し、鍛え上げた余の自慢の精兵部隊だ」

「お褒めにあずかり光栄です、陛下」

 その言葉に、ゴリアルの目頭が熱くなる。

 そこまでの信頼を王が寄せているのだと思うと、必ずやその信頼に報いたいと、体は自然と武者震いを始める。のだが……。

「うむ……、そういうわけだからな、ゴリアルよ。一兵も損なうことなく、見事に戦功をあげてこい」

「はっ! ……はっ?」

 一瞬、聞き間違いかと思い、ゴリアルは首を傾げた。

「一兵も損なうことなくだぞ。かすり傷ぐらいは構わぬが、命を落とすことはもちろん、戦士として再起がかなわぬような傷は決して負わせるでないぞ」

 続く国王のその言葉に、ゴリアルは唖然とした。


 それは、少し考えればわかることだ。

 例えば金剛石(ダイヤモンド)でできた鎧があったとする。

 とても固くて軽く、性能的には文句のつけようがないその鎧だが、では、それを戦場に着ていくだろうか?

 たぶん……着ていかない。

 なぜなら高価過ぎるから。

 傷つけたくないから。

 価値が下がるから。

 ……もっとぶっちゃけて言ってしまうと、もったいないから。

 

 では、ここに、世にも稀なる巨躯の持ち主のみを選抜し、長い年月をかけて鍛え上げた、とてもとても高級な! 金剛石の歩兵団が存在する。

 そんな彼らを地方の反乱に派遣して、一兵でも損なう危険性を冒すことができるだろうか? 

 一兵に金貨数千枚の価値があるのに?


 ゴリアルは、どうすれば兵を損なわずに敵を皆殺しにできるのか、知恵を尽くさなければならなかった。

 戦場において、そんな方法など、決して存在しないというのに……。


ちなみに、この金剛歩兵団なのですが「そんなバカなー!」と思われるかもしれませんが、実は元ネタがあります。

巨人ばかりを集めた最強の兵団だけど、実戦経験がものすごーく薄いという……。

でも、そりゃーそうです、だってもったいないのだもの。

元ネタの方だと、そもそも大きい男性と大きい女性をさらってきて、結婚させて子どもを産ませて、という交配のようなことまでやっております。さすがにそこまでやるとちょっと生々しいので、レムノ王国ではやっていませんが、確かにそこまでして育てた兵士を簡単に戦場で失うのはもったいないですよね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >一兵に金貨数千枚の価値があるのに? ミーア「そんなもったいないこと、わたくしには絶対できませんわ!」 ナレーター「金貨一枚につき何体のギロちんが徒党を組んで襲いかかってくることか」
[一言] ダイヤモンドの指輪を普段の生活でもつけようとする人はそんな居ないわよね... 伝家の宝刀なのだから壊したくはないわよね...
[一言] この王様はゲームでエリクサーを腐らせるタイプかw いいね、凄く面白い。
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