第四十一話 増殖する、聖ミーア学園
さて、挨拶もそこそこに、ミーアは学園の校庭へと向かった。その途中、ふと、学園校舎のほうに目を向けて……。
「報告には聞いておりましたけど、増えましたわね。しかも、あれは……」
建物は、メインとなる校舎の周りに、かなり数を増していた。しかも、なにやら、見たことのない、ちょっと変わった形状の建物だった。
セントノエルのように立派な建物ではない。帝都にある白月宮殿はおろか、一般的な貴族の邸宅ほどの大きさもない。
それは小さな建物だった。否、小さな建物群、といえばいいのだろうか。
それは平屋の、六角形の建物だった。六角形の建物をいくつかくっつけたようなものもあった。材質は木材だろうか……。そんなちょっと変わった建物が、あちらこちらに、ポコポコと建っていた。
「なにやら、変わった建て方をしてますわね」
「はい。これは異国の築城に範を得た作り方なのですが……曰く、木材を運ぶ前にすでに加工しておいて、現場では組み立てるだけで作るとか。それも、すべての建物を同じ形、同じ組み立て方にすれば手間を少なく建てられるということです。六角形なので、隙間なく増築していくこともでき、土地を無駄なく使えますし」
「ほほう、なるほど……。それはなかなか考えられておりますわね」
ミーア、思わず唸る。
確かに、聖ミーア学園は急場の学園だった。セロに植物学の研究を深めてもらい、新しい寒さに強い小麦を発見してもらうことこそが、その目的であった。
ゆえに、別に豪華な建物は必要ない。いずれ、聖ミーア学園が伝統的な学校になっていくのであれば、建物もそれなりのものが必要になるかもしれないが……。
それよりなにより、ミーアは、その形状がちょっぴり気に入ってもいた。
六角形の建物はどことなく、キノコの傘を想像させる。上から見ると、きっとキノコの形の建物が並んでいるように見えるのではないだろうか?
そうなのだ、畑アートを通して、ミーアは見る角度を変えることの大切さを身に着けていたのだ! 未だ、成長速度に鈍りが見えないミーアなのである!
「ちなみに、現在の学生は……」
「三百名ほどです。どんどん数を増やしていきたいと思っているのですが……」
「なるほど。生徒数の増加に合わせて、建物の増築が追い付かないかもしれない。だからこそ、このような建て方でやっておりますのね。良いのではないかしら」
ミーアとしては、セロの研究さえ結果が出てくれれば、他のことは後でも構わないわけで……。最悪、今のところは、雨風が防げて、寒さも防げる建物があれば問題はないのだ。
「では、その三百人をやる気にさせればよろしいということですわね……ふむ……」
ミーア、そこで黙考。それからレアのほうを見る。ミーアの視線を受けたレアはキリッとした顔をして……それから、ふと何かを思い出した様子で、頭に手をやり……、それからちょっぴり恥ずかしげに、馬耳カチューシャを取った!
ここまで外し忘れていたらしい。意外とうっかりなところがあるレアである。まぁ、それはさておき……。
――本来であれば、わたくしが先に出てあげたほうがプレッシャーを感じずに済むのかもしれませんけれど……。
後にレアを話させた場合、フォローができないのが一つのネックだった。
善意や好意が時に自らを窮地に立たせるのだということ、それを散々目の当たりにしてきたミーアである。
――レアさんだから、大丈夫だとは思いますけれど……でも、一抹の不安はございますわ。ならば、パライナ祭の説明がてら、先にしていただくのが、やはりよろしいのではないかしら……。
ミーアは、ふむ、と一つ頷いて、
「レアさん。できれば、先にお話ししていただきたいのですけど、よろしいかしら?」
「え……?」
驚きに目を見開くレアに代わって抗議の声を上げたのはリオネルだった。
「ミーアさま、さすがに、このような場所で妹からというのは……」
「兄さま、大丈夫……」
「え……?」
驚く兄に、レアは決意のこもった顔で頷いて、
「大丈夫だから。心配しないで。これは、セントノエルの生徒会長としての役割だから」
それから、ミーアのほうに顔を向ける。
「それに、もしかすると、ミーアさまは、私のことを鍛えようとされているんじゃないでしょうか?」
思わぬ指摘に、ミーア、目をパチクリ……。けれど、すぐに態勢を立て直し……。
「え……ええ、さすがレアさんですわ。とってもご慧眼ですわね。おほほ」
などと、ちょっぴーり口調がおかしなことになってしまうミーアであったが、レアは特に気付いた様子もなく……。
「わかりました。では、私のほうで先にパライナ祭の概要や、その狙いについてお話しさせていただきます!」
レアは、心持ち緊張した顔ながらも、しっかりと頷いてみせた。ササッと眼鏡をかけたその……いささか気合が入り過ぎたような顔に、ミーアは一抹の不安を覚える。
――そこまで気合を入れなくとも良いのですけど……。ううむ、やはり少し心配ですわね……。これは、レアさんのお話を聞いて、しっかり何を話すのかを考えておく必要がございますわね。




