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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第九部 世界に示せ! ミーア学園の威光を!
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第三十五話 皇女ミーア記念館

 その建物の前に立ち、ミーアは、わなわなと唇を震わせる。

「こっ、皇女ミーア……記念館?」

 建物の名前を見て気付いたのだが、この建物、入口のところにオシャレなアーチがあるのだが……よく見るとそれは、ミーアが付けているティアラを象ったものらしかった。

 ちょっぴりシャレた感じなのが、微妙に腹立たしい!

「ここは、ベルマン子爵の肝いりの建物なんです」

「べっ、ベルマン子爵が……っ!?」

 ミーアは、カッと目を見開く!

 ――くぅ、あ、あいつ、またしても……。何たる裏切りですの……。

 っと、そこまで考えた時、ミーアはふと思う。

 ――っていうか、正気ですの? わたくしの行動を記録するということは、ベルマン子爵自身の悪行をも明らかにすることですのに!

 ミーアの疑問に気付いたのだろう。ワグルは神妙な顔で頷いて、

「確かに、ミーアさまの功績を讃えるということは、裏を返せば、ベルマン子爵の過ちを世に明らかにすることです。でも、ベルマン子爵は、これをご自分のお金で建てられたのです」

 ワグルはそう言ってから、建物を見上げた。

「この建物は、悔い改めの心を表すためだって、ベルマン子爵はおっしゃっていました。自分の過ちを決して忘れないようにって……。その言葉に、族長も打たれたみたいで、和解に至ったんです」

「そっ、そう……なんですのね」

 それにしちゃあ、ずいぶん入口がシャレてますけど!? とツッコミを入れたいミーアであったが……なるほど、ルールー族とベルマン子爵との関係改善にも役に立っているらしい。

 ――それならば、まぁ、仕方ない……のかしら?

 ううむ、っと唸るミーアに、ワグルは続ける。

「村の中には、まだベルマン子爵に複雑な気持ちを持っている人もいます。でも、このミーアランドを作ろうというベルマン子爵の姿勢を見て、だんだんと態度を軟化させています。祖父ちゃんなんかは、あの時のことがあったおかげで、ミーア姫殿下との縁ができたし、それに、ぼくがルールー族の村に帰れたのも、もとはと言えばベルマン子爵の行動がきっかけでしたから、ベルマン子爵の謝罪を受け入れています」

「なっ、なるほど……」

 ますます、こんな建物壊しちまえ! という悪役ムーブを封じられるミーアである。まぁ、もともと、そんなことをするつもりはないが……。

 そんなわけで、ミーアは自然と、流されるように建物の中へと入った。

 ミーアは海月。生まれた流れに逆らうことは、ない。

「あっ、それでは、これをどうぞ」

 っと、入口のところでワグルが渡してきたものに、ミーアは首を傾げる。

「はて、これは……?」

「来館記念の髪飾りです。簡単なものですが、記念館に訪れたお客さんに渡すようにしていて……」

「ああ、確かに髪飾りというのは、あの時の出来事にちなんだものですけど……しかし、この耳は、いったい……」

「そちらは馬の耳を模したものになります。ミーアさまといえば馬ですから」

 ベルマン子爵の悔い改めを表現してるにしては、やたらと楽しそうじゃねぇか! とツッコミたくなるミーアである。

 それはさておき、この耳のこだわり……まさか、アンヌも、この記念館に関わっているんじゃ!? などと疑心暗鬼に陥りかけるミーアであったが。

 ――いえ、アンヌだけは裏切らないはずですわ。問題は、これが裏切りではなく、溢れ出る忠義から出た可能性ですけど……。馬の耳の形に並々ならぬこだわりを持つアンヌですし……こういったものを提案した可能性も……。

「セロのお姉さん……ティオーナさまからお聞きしました。馬術大会のこと。あ、そこのところに、ちょうど絵が飾ってありますね」

 ティオーナよ、お前かっ! と心の中でツッコミを入れるミーアである。

 なんだか、頭の中で、グッと親指を立てるティオーナの満面の笑みが見えたような気がした。

 それはともかく……。

「むっ! ここにも、ミーアのすぐそばに矢が刺さった絵が……」

 突如聞こえて来た声に、ミーアは慌てて、

「お父さま! その、これ、どうかしら?」

 シュシュっと馬耳カチューシャをつけて、父を呼ぶ。

「おおー! ミーア、なかなか良いではないか!」

 途端に、満面の笑みになる皇帝マティアス。その変わりようをそばで見つめていたパティが、どこか複雑そうな顔で、スッと目を逸らしたが……。まぁ、そんなパティもしっかり馬耳をつけているので、楽しんでいるようではあった。

「ミーアさま、この馬の耳、造詣がとても深いですね!」

 アンヌも、実になんとも嬉しそうだ。指をクイックイッとさせるアンヌに曖昧に微笑み返してから、ミーアは改めて、その絵の前にやって来た。

「これは……なるほど」

 飾られていたのは、確かに、セントノエルでの乗馬大会の絵だった。

 騎手のミーアだけでなく、荒嵐の姿まで、なかなかに特徴を捉えて描かれている。

 他にも、セントノエルでの生徒会選挙の様子や、ミーアが全校生徒の前でなにかを語っている様子、さらには、なんと、無人島やペルージャンでの演舞の絵まで飾られていた。

「この……でっかい魚を殴り倒している絵は……まさか」

 ミーアはジトッとそちらに目を向けると、エメラルダWith馬耳カチューシャが意気揚々と胸を張り、

「それに関しては、わたくしの証言をもとにして描いていただいたものですわ!」

 まったくもって、悪びれる様子もないエメラルダに頭を抱えつつも、ミーアはさらに順路に従って進んでいく。

「それにしても、この絵は、なかなかに見ごたえがございますわね」

 描いてある内容が、若干、アレなのはさておき、それは見事な絵だった。

 シャルガールのような華やかさはない。されど、その絵には確かに、人々の心に訴えかける何かがあった。

 ……ちなみに、描いたのはペルージャン出身の絵描きで、例の坂を上る二人の姫君の絵を描いた人物でもある。

「絵だけではなく、僕たちの作った彫刻のコーナーもございます。どうぞこちらへ」

「ふむ……まぁ、一応は一回りしましょうか……」

 歯切れ悪くつぶやくミーアであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] もう 納得に納得を重ねて 流されるしかないミーア様.....長年の年功...いや 序盤から結構こんな感じだったな←
[一言] この話まで無事コミカライズされたら ティオーナ、アンヌ、ラフィーナのサムズアップのコマ切り取って並べてみたい。
[良い点] まだFNYで良かったね!MNYだったらギロちんが「ミーアをMNY(迎え・に・行くよ〜)」と手を振りながら……。
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