第三十四話 皇女の町isFNYミーアランド
皇女の町の前につき、馬車を降りたミーアは、思わずソレを見上げる。
「お、おお……。なっ、なんですの、これは……」
ミーア一行を出迎えたもの、それは、七色に輝く木でできたアーチ状の門だった。
……まぁ、それは良い。町の入口に門を作るのは、まぁ、おかしなことではない。けれど、その門、遠目にもわかるほど磨き抜かれ、七色の輝きを放っているのが、実になんとも気になってしまう。しかも、表面には極めて精緻な彫刻がされていて……。
――この……なにやら、背中に羽が生えている天使は……いえ、でも、まさか、ねぇ……。
「おお、この門、素晴らしい仕事がしてあるな。これは、ミーアではないか?」
背後に立つ父の声が、ミーアのすがろうとした希望を粉々に打ち砕く! そうなのだ、その天使の表情、髪形なども実に上手くミーアを表現していて……。
皇帝マティアスは、七色に輝く立派な門を見て、ニコニコと上機嫌に笑った。
「こちらは、ルールー族より寄贈されたものでございます」
門のすぐそばから声が聞こえた。そちらに目を向ければ、見覚えのある少年がそこに立っていた。
「あら、あなたは……ワグルではありませんの?」
新月地区で出会った、ルールー族族長の孫、ワグルは嬉しげな笑みを浮かべて頭を下げた。
「おひさしぶりです。ミーア姫殿下!」
「ふふふ、そうですわね。ずいぶんと、背も伸びたみたいで。立派になりましたわね。元気そうでなによりですわ」
ミーアは愛想よくそれに応えてから、
「それでえーと、この門のことなのですけど……」
早速、本題に入る。
「はい。ルールー族の者たちみなで造りました。ミーアさまが以前ここにいらっしゃった時の出来事を刻んであります」
じゃあ、この羽はなんなんだ! っと問い詰めたいのを堪えつつも、ミーアは言った。
「そ、そう。ルールー族のみなさんが……しかし、ルールー族にとって、この木は神より与えられた財産なのでは……?」
ミーアの記憶が確かであれば、あの木は戦争の原因にもなるほど、貴重なもののはず。そのような木で門を作るなど、良いのだろうか? と疑問に思うも……。
「はい。大恩あるミーア姫殿下へのお礼の気持ちを表すために、最も大切な宝をささげさせていただきました」
それから、ワグルは、ちょっぴり照れくさそうにはにかんで、
「そこのミーアさまの彫刻は僕が彫りました」
「まぁ! そうなんですのね……」
「はい。ミーア学園では、木材の加工について学んでいて……。ルールー族に伝わる技法と帝国式の新しい技法について学んでいます。先日、筋が良いって褒められました」
「確かに、この彫刻は見事な出来ですものね」
まぁ、その、なんというか……若干、ミーアが飛んでいるように見えるというか、見ようによっては天使か妖精に見えてしまいそうなのが、少々気になるところではあるが。
「むっ? ところで、この弓矢を射かけられているような、彫刻だが……これは、以前、ミーアが来た時の記録ということだが……ということは……」
眉を顰めるマティアス。それを見たミーアは、慌てて口を開く。
「と・こ・ろ・で! その門の上のほうに書いてあるのはなんですの……? ええとなになに……Forest New Yard ミーアランド……?」
「この場所の名前です。学園都市聖ミーア学園はあくまでも全体の名称。学園部分ではない、こちらの町には独自の名前を付けるのが良いのではないかと……。みなは略して、皇女の町FNYミーアランドと呼んでいます」
「フニイミーアランド……。まぁ、フォレストニューヤードというのは、森にできた新しい町と言う感じではありますけど……ミーアランドというのは、いかがなものかしら?」
それに、略し方が、こう……フニィッとしてる感じが、いまいち不吉と言うか……。
思わず、二の腕を確認するミーアである。が……。
「この町は、ミーアさまによって造られた町なので……。そう名付けるのが適切なのではないか、とみなが言っています。それに、聖ミーア学園と対になる町なので……、ミーアさまのお名前を冠するのがよろしいのではないか、と……」
そうまで言われてしまえば、ミーアとしても言い返すこともできない。ただ、一つ、疑問があったのは……。
「ところで、この命名をしたのは……」
「ベルマン子爵です。町を建てる資材のお金はベルマン子爵が出されましたから。もちろん、僕たちルールー族も賛成しましたけど」
「うむ、ミーアランド。ミーアの国か。なかなか良いではないか!」
皇帝マティアスの満足げな頷きを横目に、ミーアは、ぐぬぬっと胸の内で歯ぎしりする。
――おっ、おのれ、ベルマン子爵。まともな方かと信用しかけたところで、この仕打ち……許せませんわ! これは、過去のあの方を思い出させますわね!
チラリ、とそちらに目を向けると、んっ? と小首を傾げるエメラルダの姿が見えた。目が合ったことが嬉しかったのか、ひらひらっと手など振っている!
まぁ、それはともかく……。
「え、えーと、それは、ともかく学園のほうに向かいましょうか」
「ミーアよ、せっかく、ベルマン子爵が建設した町だ。まだ完成していないとはいえ、見てやらねば可哀想ではないか」
「いや、しかし……」
っと、ミーアはヴェールガから来た一行のほうに目を向けた。
立派な門の彫刻に興味津々の子どもたち。それを見て微笑ましげな顔をしているユバータ司教とリオネル、レアの兄妹……否! リオネルは、むしろ、その彫刻の仕上がりに関心があるらしく、ワグルから熱心に話を聞いていた。年が近いワグルがそれを作ったことに、衝撃を受けたようで……。
「これと同じものをラフィーナさまでも……」
なぁんて話が聞こえてきたりしたが、まぁ、それはどうでもよくって。
――ふぅむ、確かに、町のほうにも興味があるかもしれませんわ。まぁ、皇女の町とか、ミーアランドとか言っても、基本的には普通の町でしょうし……それならば、まぁ、行ってみても、よろしいかしら……。
ミーアは深々とため息を吐き、
「まぁ、そうですわね。みなさんも興味がありそうですし、それならば、少し寄って行きましょうか」
仕方ないな、と思っていたミーアであったが……町に入ってしばらくしたところに建っていた建物の前で、思わず口をあんぐーりと開ける。
「……こっ、皇女ミーア……記念館?」
ちなみに、ベルマン子爵肝いりの建物である。
名前の由来は、某有名遊園地ではなく、かつて伊豆にあったテーマパークです。
四輪バギーが上手く運転できなかったけど、楽しかった思い出……。




