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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第九部 世界に示せ! ミーア学園の威光を!
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第二十七話 ツンデレイジョウ、襲来す!

 白月宮殿を、一人のご令嬢が歩いていた。

 胸を張ってずんずんと、腕を振って意気揚々と、髪を揺らしてウキウキと、廊下を進んでいく。

 案内に出てきたメイドを置き去りに、専属メイドのニーナのみを引き連れて……。

 エメラルダ・エトワ・グリーンムーンは、やってきた。

 夏休みで帰国中の、ミーアと遊ぶべくやってきたのだ!

「ミーアさま、遊びに来ましたわよ!」

 元気よく声を上げつつ、ミーアの部屋のドアを開ける。けれど……部屋には親友、ミーアの姿はなかった。

「あ……あ、れ……?」

 キラッキラと花のように輝いていた顔が見る間に、しょんぼりとしおれていく。

 ……そうなのだ。残念なことに、ミーアたちは、すでにベルマン子爵領に旅立って……旅立って……?

「僭越ながら、エメラルダお嬢さま。いただいたお手紙のほうには、空中庭園にてお茶会を、と書かれておりますが……」

 よかった! 旅立っていなかったっ!

 メイドのニーナの指摘に、エメラルダの顔が再び、ぱぁあっ! と輝いた。

「そういえば、そうでしたわね。ありがとう、ニーナ」

「恐縮です。ですが、できれば私のことは、メイドとか、そこの、とか、もう少しその……ぞんざいに扱っていただけると、大貴族のご令嬢としての品格というものが……」

「さ、行きますわよ!」

 ニーナの言葉を華麗にスルーし、エメラルダは空中庭園に向かった。


「ミーアさまっ! 遊びに来ましたわよ!!」

 ばばーんっと音を立てつつ現れたエメラルダに、ミーアは思わず苦笑いを浮かべる。

「ああ、エメラルダさん。来ましたわね。やっぱり帝都にいたんですのね」

「とーぜん、ですわ! 今年こそ、ミーアさまからお誘いがかかるって信じておりましたもの!」

 ニッコニコ、上機嫌に笑うエメラルダを見て、ミーアはそっと胸を撫でおろす。ああ、覚えていて良かった、と。

 ――あっぶないところでしたわ。なにも言わずに聖ミーア学園に行っていたら、また不満をぶつけられてしまうところでしたわ。

 もっとも、エメラルダを呼んだ理由はもちろん、それだけではない。

 彼女は他ならぬ、グリーンムーン公爵家の娘。グロワールリュンヌ学園との関係は深いし、彼女の弟たちも、学園に通っているはずなのだ。

 なおかつ、グリーンムーン家で預かるエシャール王子は、ミーア学園のほうに通っている。

 すなわち、エメラルダは、バリバリの関係者なのだ。

 ――正直なところグロワールリュンヌのことはどうすればいいのか、まーるっきり思いつきませんし……、ここは力を借りられそうな方をどんどん巻き込んでいきましょう。

 そうなのだ。ルードヴィッヒに言われて、ミーアは反省したのだ。

 やはり、貴族を排除しては駄目だ。悔い改めさせて、仲間にしてしまえば、きちんと使えるのだ。そして、悔い改めた仲間にはちゃんと情報を共有して、力を使ってやらなければならない。それこそが、楽をするコツなのだ!

 ということで、ミーアはエメラルダの協力を得るべく、こうしてお茶会に誘ったのだ。

 もちろん、ブルームーン家のサフィアスにも忘れずに、要点をまとめた手紙を出していた。ちなみに……手紙の結びに、またレティーツィアと一緒に、お料理会などどうだろう? という誘いの一文を入れてしまったがゆえに、サフィアスが震え上がることになるのだが……それはともかく。

「あら? ところで、そこのお二人はどなたですの? 見たところ、ラフィーナさまに似ておられるような気がしますけど……」

 小首をかしげるエメラルダに、レアとリオネルがそれぞれ挨拶する。

「なるほど、ルシーナ司教伯家といえば、ヴェールガの名門ですわね。それに、神聖図書館長まで同行しているだなんて、さすがですわね、ミーアさま」

 エメラルダは感心した様子で微笑んでから、腕組みした。

「ですが、いったい何をなさるおつもりですの?」

「そうですわね……。エメラルダさんは、パライナ祭というのをご存じですの?」

「技術の祭典パライナ祭。ヴェールガ公国の古いお祭りですわね。各国の様々な技術を共有し、人間すべての生活を発展させていこうという……。ずいぶんと古臭い物が出てきましたわね」

「ふふふ、知ってましたのね。さすがは、外交のグリーンムーン家ですわ。実は、今度、そのパライナ祭を再び開催しようという話になっておりますの。かつてと違い、教育の分野で、ですけど……。とりあえず、座ってお茶にしましょう」

 率先して席に座り、それから口を滑らかに動かすために紅茶を一口。クッキーをサクリ、ペロリ、うーん美味しい。

 それから、ミーアは、これまでの流れを説明する。

 セントバレーヌでの一件、そして、ユバータ司教の件、さらには、これを機に、グロワールリュンヌ学園に、逆侵攻をかけよう、というあたりまで。

「なるほど、そういうことでしたのね。確かに、グロワールリュンヌ学園には、反農思想が根深く残っておりますわ。うちの弟たちも、現在、教育中ですけど……」

 頬に手を当てて、悩ましげに眉間に皺を寄せるエメラルダ。

「とても厄介な思想ですわ。私自身、ミーアさまやエシャール殿下との出会いがなければ、同じような思想に囚われたままであったと思いますし……」

「ほとんどの帝国貴族は、そのように教え込まれておりますもの。仕方のないことではありますけれど、いつまでもそれを放置しておくこともできませんわ。この機に、わたくしは、その辺りのことを変えていきたいと思いますの」

 それから、ミーアはがっしとエメラルダの手を握りしめる。

「だから、エメラルダさん、あなたにはぜひ、協力していただきたいと思っておりますの! わたくしに、力を貸していただけるかしら?」

 将来、楽をするために! 気合が入るミーアであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ミーアさまは自身が楽したいが故の行いがそのまま善政になりますね 叡智はさておき天性の女帝なのでは? (褒めすぎw) [一言] ツンデレイジョウw ミーアさまがエメラルダさんにそんな真剣に…
[良い点] エメラルダちゃんが幸せそうでよかったです! [気になる点] という訳で単行本書き下ろしではミーア学園に入学(転校生?)してた事が明らかになってたエシャール殿下!何を研究してるのか楽しみ。王…
[良い点] >>ばばーんっと音を立てつつ現れたエメラルダに、ミーアは思わず苦笑いを浮かべる。 このなんとも言えないTAKE.2感(笑)。 >>「だから、エメラルダさん、あなたにはぜひ、協力していた…
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