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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第九部 世界に示せ! ミーア学園の威光を!
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第十七話 ユバータ司教との出会い

 さて、ミーアが遠乗りデートに行ってさらに五日後、セントノエル学園にある男が現れた。

 年の頃は、五十代前半と言ったところだろうか。分厚い眼鏡に、ダボッとした司教服の男は、船着き場に目を向けて、おや、という顔をする。

 そうして、ゆっくりと船を降りてきた男を出迎えたのは、ミーアに加え、ユバータ司教に所縁の三人、ラフィーナとリオネル、それにレアだった。

「ご機嫌よう、ユバータ司教。ようこそ、セントノエルへ」

 はじめに声をかけたのは、ラフィーナだった。

 ユバータ司教が訪ねてくると聞いて、急遽、セントノエルへの滞在を延長したのだ。

 ……決して、お友だちと別れがたかったからではないし、生徒会のメンバーに囲まれて過ごす時間が、すごぅく楽しかったから……などではない。

 あくまでも必要に駆られてのことだ……本当だ! 本当だ!!

 さて、話しかけられた男、ユバータ司教は、分厚い眼鏡のレンズの奥、優しげな目を笑みの形に細めて……。

「これは、ラフィーナさま、ご無沙汰しております」

 穏やかな声で言ってから、彼は視線を転じる。

「それに、リオネルくん、レア嬢も、おひさしぶりだね」

 話しかけられ、リオネルがスッと背筋を伸ばす。

「はい。ご無沙汰しております。父、ルシーナから、くれぐれもよろしくお伝えするように、と伝言を預かっています」

 兄が、いささか緊張した顔で言えば、続くようにレアが深々と頭を下げる。

「わざわざ、お越しいただきありがとうございます。ユバータさま」

「なぁに、私にとっても興味深い提案だったのでね。ぜひ、直接話を聞いてみたいと思ったまでのことさ」

 そうして、彼はミーアのほうに目を向けた。

「お初にお目にかかります。ミーア皇女殿下。私は、ニコラス・ダ=モポーカ・ユバータと申します。神聖図書館の館長、並びに、ヴェールガ公国釈義院の議員を務めております」

「これは、ご丁寧な挨拶、痛み入りますわ。ユバータ司教。わたくしは、ミーア・ルーナ・ティアムーン。ティアムーン帝国の皇女ですわ」

 ミーアは、スカートをちょこんと持ち上げ、完璧な礼を返し、

「高名なユバータ司教とお会いできて嬉しいですわ」

「私のほうこそ、お目に光栄至極にございます……帝国の叡智よ」

 チラリ、と上目遣いで見つめてくるユバータ司教に、ミーアは、おほほっと誤魔化すように笑った。

「まぁ! 叡智だなどと、そのような、大仰な名で呼ばれるのは、恐れ多いことですわ」

「なるほど、ミーア姫殿下は、謙遜な方のようだ」

 目を閉じ、口元に笑みを浮かべながら、ユバータ司教は言った。

「ところで、なにやら、少々、思い切った提案をお送りいただきまして」

 眼鏡の位置を軽く直しながら、彼は鋭い視線を向けてくる。

「なんでも、パライナ祭を再開したい、とか」

 その問いに答えたのは、ミーアではなく、レアだった。

「いえ、ユバータさま。そうではありません」

 生真面目な、熱意のこもった声でレアは続ける。

「確かに、私はただ再開することを提案いたしましたが、ミーア姫殿下が、さらに素晴らしいものを提案してくださいました」

 そうして、自然に……そう、ものすごぅく自然に! レアはミーアに話を振って来た。

 視線をスッと振って、ささ! 出番です! っとばかりに。

 その、熟練の伝令兵もかくや、といった手腕にミーアは思わず瞠目する。

 それから、ごくごく自然に自分もパスの先を探そうとするも、自分に視線が集まってくるのを感じて……ふぅっとため息を吐いて……。

「ええ、そうですわね。ちょっとしたアイデアを思いついたので、提案させていただきましたの」

 諦め半分にそう言ってから、すかさず、

「ああ、でも、もちろん、わたくしが一人で思いついたわけではなく、特別初等部の子たちを見ていてヒントをいただいて……」

 自分の手柄ではないよ、と、抜かりなくアピール!

 ――ふむ、よくよく考えてみると、わたくしの功績をわかっていただくと同時に、功績を誇りすぎて謙遜さを失ってもダメというのは……いささか加減が難しいですわね。

 なぁんて、頭を悩ませるミーアであったが……。

「なるほど。神はこの世界のすべてのものを用いて、我ら人に導きを与えられることがあります。もしも、そのアイデアが善なるものであるならば、きっと、神はあなたに語りかけられたのでしょうね」

 ユバータ司教は、朗らかな笑みを浮かべた。。

 ミーアはそこで、おや? と思う。

 ――なんだか、思っていたより、敵対的ではないような……。いえ、逆に……好意的なような?

 まるで、神に語りかけられた聖人に対するような司教の態度に、ミーアは困惑する。

「それは、ミーアさまが、神に選ばれた人であるとおっしゃっているのでしょうか?」

 困惑した様子で問うリオネルに、ユバータ司教はあくまでも穏やかな顔で首を振った。

「そうではあるが、たぶん、君の言っている意味とは違う」

 それは、さながら、教えを請う弟子に語る、教師のような口調で……。

「もしも、その提案が真に善なるものであるならば、神はミーア姫殿下を選ばれたと言えるだろう。しかし、それは、別にミーア姫殿下が優れた知恵を持っているとか、慈愛の人であるとか、そういったこととは関係ない。神は、取るに足らぬ者に語りかけ、働きのために用いることもあれば、皇女殿下をお用いになることもある。善人を用いることもあれば、悪人ですら用いることがある。その選びの基準は我らには計り知れないが、一つ言えることは、その選びに間違いがないということだけだ」

 その言葉を聞き、ミーアは、ユバータ司教への評価を微妙に改める。

 ――この方は、敵対的というわけではありませんけれど、かといって好意的というわけでもなさそうですわね……。なんだかこう……冷静に観察されているような……そんな感じがしますわ。

 その推理を証明するように、ユバータ司教が分厚い眼鏡の奥、鋭い視線を送ってきているように、ミーアには感じられた。

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[良い点] 神は、取るに足らぬ者に語りかけ、働きのために用いることもあれば、皇女殿下をお用いになることもある。善人を用いることもあれば、悪人ですら用いることがある つまり、ポンコツ皇女に語りかけ、働…
[一言] >……決して、お友だちと別れがたかったからではないし、生徒会のメンバーに囲まれて過ごす時間が、すごぅく楽しかったから……などではない。 あくまでも必要に駆られてのことだ……本当だ! 本当だ!…
[良い点] >>……決して、お友だちと別れがたかったからではないし、 生徒会のメンバーに囲まれて過ごす時間が、すごぅく楽しかったから……などではない。 ぶっちゃけミーアと合った後しばらくの間はラフィ…
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