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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第九部 世界に示せ! ミーア学園の威光を!
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第十六話 一つの覚悟の形

「あの時は、まったくハラハラしましたわ」

 ミーアは、ふぅっとため息を吐いてみせる。

「ははは、そうだね。あの時は、君にもずいぶんと心配をかけてしまった」

 爽やかな笑みを浮かべてから、アベルは言った。

「あの時、シオンはボクに問うただろう? 腐った王権のために殉じるのか、と。ボクは腐っていても王権は必要だと……そう答えたんだ。そして同時に、王権が腐っていれば、中からそれを正すことが自分の責務だとも言ったんだ」

 アベルは淡々と、けれど、揺るぎない決意のこもった口調で続ける。

「ボクは母上や姉上の姿を見て……王宮での女性たちの扱いを見て……レムノ王国には確かに問題があると思っている。シオンに批難されても否定のしようのない、大きな問題がね。正すべきことがあるのは明らかで……だから、ボクはそれを為さなければならないと思ったんだ……」

 真剣な顔で語るアベルに、ミーアは……トゥックーンと胸が高鳴るのを感じる。

 ――アベル……なんだか、すごくたくましいと言うか……格好いいですわ!

 錆びついていたミーアの恋愛脳がぎゅんぎゅん回っていた!

「それは、ヴァレンティナ姉さまがなさろうとしていたことと、たぶん同じことだ。つまり、あのヴァレンティナ姉さまでさえ、失敗したことだ。でも……」

 アベルは一度、小さく息を吐いて……。

「なんとかしなければならない。レムノ王家に連なる者として、それを放置しておくことはできない。民を安んじて治めるために黙っているわけにはいかない」

「なるほど。レムノ王国を変えていくためにも、今度のパライナ祭が有用であると、そういうことですわね」

「ああ、協力を得たい人がいるんだ。情けない話だが、ボク一人ではどうにもならないからね」

「協力を……?」

 小さく首を傾げるミーアに、アベルは頷いてみせて……。

「そう。姉上の……、クラリッサ姉さまの協力をね……」

 それは、ヴァレンティナ・レムノの失敗を知ったからこそ、彼が辿り着いた答えだった。

 自分一人ではどうにもならない。がむしゃらさの力押しでは、どうにもならない。

 協力者を、得なければならない、と……彼はそう考えていた。

「なるほど、第二王女クラリッサ王女殿下ですのね。わたくしはお会いしたことがございませんでしたけど……確か、大人しい方だとお聞きしておりましたわね……」

 アベルは一つ頷いて……。

「本当は、兄上の協力を得られれば心強いんだが、お考えが読めないところがある。それにこれは、女性の王族の協力が、どうしても必要なことだと思うんだ」

 男尊女卑の思想が根強いレムノ王国。その在り方を問題視するなら、その解決は、王子たる彼が上から押し付けるのでは意味がない。

 王女であるヴァレンティナか、あるいは、クラリッサ王女が、改革の旗印として立たなければならない。

「クラリッサ姉さまの協力を得るために、ぜひともミーアと会ってもらいたいと思うんだ」

「あら、わたくしと……? それは、なぜですの?」

「皇女の身で、君が成してきたことを、クラリッサ姉さまに見てもらいたいんだ。クラリッサ姉さまは、幼い頃から、なにもできぬ無能者として扱われてきたから」

 ヴァレンティナ・レムノは極めて優秀な姫だった。あのゲインにすら、敵わないと言わしめた、才能あふれる王女であった。そんな彼女ですら、レムノ王国では、取るに足らないものとして扱われていたのだ。

 まして、才において劣るクラリッサ王女は、言わずもがなであった。

「クラリッサ姉さまは、昔のボクと似ていてね。いや、ボク以上に、その立場は厳しいんだ。だから、最初から諦めてしまっている。自分にはなにもできない、と」

 それから、アベルはミーアのほうを振り向いた。

「だから、君のことを見てもらいたい。君の声を、言葉を、聞いてもらいたいと思ったんだ。そうして、姉上にも勇気をもらってもらいたいんだ……ボクが君からもらったように……」

「アベル……」

 真っ直ぐに見つめてくるアベル。彼の熱い信頼を前に、ちょっぴり胸が高鳴りかけたミーアであったが……次の瞬間、ふと気付く。

 ――あら……これ、わたくしに対する期待値がものすごく、高いんじゃ……?

 いや、まぁ、確かに、自分の言葉がアベルを励まし、力を与えたというのは、嬉しい。嬉しいが……。

 ――こっ、これは、ますます、パライナ祭が大変なことになりそうな予感がしますわ。

 なぁんて、ミーアがちょっぴり焦っている時だった。

「そして……我が国の状況が改善され……後顧の憂いを断ったうえで……」

 不意に、アベルが顔を向けた。真っ直ぐに自身に向けられた目に、ミーアは、うん? っと首を傾げて……。

「君に伝えたいことがあるんだ……」

 その真剣な眼差しに貫かれてミーアは……、完全に油断していたミーアは……。

「…………はぇ?」

 目をまん丸くして、ちょっぴーり間の抜けた声を上げ、そして、荒嵐は……。

「ぶるるーふ」

 っと、鼻を鳴らすのだった。


 のどかな遠乗りの時間は、こうして過ぎていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 8人産む予定なんだから、頑張れアベル。 シュトリナも(ベルが生まれるために)応援してくれるぞ。
[良い点] やっと見れるもう一人の姉ですね。楽しみ……+レムノ王国に訪れるのかな? [一言] 他の方の感想返しにゲインの結婚相手なる字面を見て、 あれ?どこかのミーアフレンズじゃないのとか思ったりw
[良い点] 荒嵐上から目線で ミーア様に 「おいおい気ぃ抜いてんじゃねーぞ?  全くしっかりしてくれよヒメサマ」 そしてアベルには 「気合いい入れすぎっと失敗すんぞ?  ウチの舎弟は小心なんだからあま…
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