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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第九部 世界に示せ! ミーア学園の威光を!
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第十三話 おひさしぶり!

「ミーア、ちょっといいだろうか?」

 みなでラーニャを見送った後、ミーアはアベルに呼び止められた。

「あら、アベル、どうかなさいましたの?」

 きょとん、と首を傾げるミーアに、アベルはなにやら、ちょぉっぴり気恥ずかしげな顔で……。

「いや、その……ひさしぶりに遠乗りでもどうかな、と思ったのだが……」

「遠乗り……?」

 はて、なんのことかしらー? とポヤァッとした顔をしていたミーアであったが……直後、察する!

 自分は、今、デートに誘われているのだ! っと。

 そうなのだ、ここ最近、忙しさと美食の中に置かれていたミーアは、すっかり恋愛脳が退化しかかっていたのだ!

 これはいけない、と気合を入れつつ、ミーアは可憐な笑みを浮かべた。

「そうですわね。ふふふ、確かに、馬に乗るのは、ずいぶんとひさしぶりですわ。荒嵐、元気かしら?」

「相変わらずの暴れ馬のようだよ。そのせいで、あまり乗りこなせる者がいなくて、退屈しているらしい」

 冗談めかして言うアベルに、ミーアは、

「まぁ、それはよくありませんわね。それならば、ひさしぶりに、たっぷり乗って差し上げますわ」

 悪戯っぽい笑みで返した。


 さて、着替えて、ウキウキで厩舎に向かう。と、アベルが誰かと話しているのが見えた。

「よぉ、嬢ちゃん。元気だったかい?」

 ミーアのほうを見て、軽く手を挙げたのは、セントノエルを卒業したはずの林馬龍だった。ニヤリと豪快な笑みを浮かべるその顔に、ミーアは懐かしさを覚える。

「ご無沙汰しておりますわ、馬龍先輩。セントノエルにいらしてましたのね?」

「ああ、ちょうど近くに来てたところで、ラフィーナ嬢ちゃんが公都に帰る護衛を頼まれてな」

 なぁんて、世間話もほどほどに……。

「ところで……な」

 馬龍は、そこで、わずかばかり声を低くした。

 スゥッと目が鋭くなり……、まるで睨むような視線を送ってくる。

 ――あら、どうかしたのかしら、馬龍先輩……。わたくし、なにか怒らせるようなことをしてしまったかしら……?

 そんな彼の顔を見たのは初めてだったから、ミーアは思わず考えてしまう。

……思い当たる節は……ない!

そもそも、林馬龍と言えば、いつでも豪快で朗らかな笑みを浮かべている人物、多少、不快なことがあってもすぐに深い懐におさめて、笑い飛ばしてしまう人物、と……。ミーアはそのような印象を持っていた。

そんな人物が怒っている……いったい、なにがあったというのか?

 少しばかり、姿勢を正したミーアに、馬龍は言った。

「ちょいと小耳に挟んだんだが……。なんだか、帝国で面白いことをやったんだって?」

「面白いこと……はて?」

 なんのことやらわからずに、小首を傾げるミーアであったが……。

「あのレッドムーン家でのことじゃないかな。ほら、例の馬術大会……」

 アベルに言われて思い出す。レッドムーン家の私兵団と皇女専属近衛隊との馬術勝負、後の世にいうミーアピックのことを……。

「ああ……あれですのね」

 ポンッと手を叩いたミーア、であったが、直後、馬龍のほうに視線を向けて……若干、引く。

 馬龍は、ものすごく……ものすごぅく! 悔しそうな、口惜しさを噛みしめた顔をしていたからだ。

「酷いじゃねぇか! そんな面白そうなものがあるのに、俺たち騎馬王国に一言もないなんて!」

 グッと拳を握りしめて、嘆く、嘆く!

「しかも、速さ勝負だけじゃなく、馬上戦闘や、馬上弓術とか、いろいろやったんだろ? 嬢ちゃんだって、ホースダンスとかいうものを披露したそうだな」

「え? あー、ええ、まぁ……その……」

「そんな面白そうなことをやっておきながら、誘われないとは……。俺たちと嬢ちゃんとの仲は、そんなものだったのかよ……」

 ずぅん、っといじけた顔をする馬龍。

 ミーアは、チロリっとアベルのほうに目を向ける。っと、すすすっと視線を逸らすのが見えた。

 どうやら、情報源はアベルのようだった。しかも、ミーアの姿を、まぁまぁ誇張して伝えちゃった節が見て取れた。なにやら手を合わせて、ごめん、とやっているアベルに苦笑いを返してから、ミーアは、こほん、っと一つ咳払い。

「此度の馬術大会は、あくまでもレッドムーン家との関係で開いた余興。次に開く時には騎馬王国の方たちもぜひ、おねが……」

「本当か? 絶対だぞ!!」

 なにやら、やたらと気合の入った声で言う馬龍である。

「それに、他の一族の連中にも声をかけないとな」

 嬉しそうに微笑む馬龍を見て……。

 ――あら、これ、下手したら、騎馬王国の方が全員で帝国に押しかけてきてしまうのでは?

 なぁんて、そこはかとなく不安を覚えてしまうミーアであるが……それはさておき

「ああ、そうでしたわ。馬龍先輩、実は折り入ってご相談したいことがございましたの」

 ミーアはポンッと手を叩く。

「聖ミーア学園で、馬についての教育をしたらどうか、と思っているのですけど、どなたか適任の方は、いらっしゃいますかしら?」

「馬の研究……? それは、より良い軍馬を作るための技術とか、そういった話か?」

 一瞬、険しい顔をする馬龍だったが……。

「無論、それを目的とする貴族たちはいるでしょう。けれど、わたくしとしては、そのように限定的ではなく、もっと幅広く、総合的に馬のことを学べる場所があればよいと思っておりますの。馬の病気やケガの治療などの技術が進んでいけば、馬のためにもなると思っておりますわ」

 それから、ミーアは、厩舎のほうに目をやって……。

「荒嵐にもできるだけ元気で、いつまでも走れる馬であってほしいですもの」

 いざという時、乗ったはいいけれど、速く走れないのでは意味がない。後ろから追いかけてくる断頭台を振り切れる速さが必要なのだ。

 ――それに、危機的状況にあっては、若くて、まだよく知らない馬よりも、気心の知れた馬のほうが良いですし。

 死地を共に駆け抜けた荒嵐には、できるだけ健康で、長生きしていてもらいたいと思うミーアである。

「そうか……。なるほどな、そういうことならば、誰か良いやつがいないか、探してみよう」

 馬龍は、何事か感じ入った顔で、深々と頷くのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 馬の勉強、医療、動物福祉などさすがは動物とお話出来るミーア様なのです! [気になる点] ミーア学園では馬以外にもより美味しいソーセージの採れる豚さん、卵を産むニワトリ、ミルクの良く出る牛な…
[一言] >後ろから追いかけてくる断頭台を振り切れる速さが必要 この部分読んで、先日ニュースになっていた「ミーア姫ねんどろいど」を思い出してしまった。 ギロチンに追われてるのが笑えた。 確かに荒嵐が…
[良い点] >>――あら、これ、下手したら、騎馬王国の方が全員で帝国に押しかけてきてしまうのでは? これがきっかけで次々と参加国が増えて大陸中の国々による平和の祭典と化してしまうわけですね。 [一言…
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