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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第八部 第二次司教帝選挙~女神肖像画の謎を追え!~
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第百五十八話 冒険の終わりに……

 階段を下った先に広がっていたのは、思いのほか広い通路だった。それはまぁ、良いのだが……。

「な、なに、ここ……?」

 先ほどまでとは打って変わって、壁にはむき出しの岩肌が覗いていた。地面もゴツゴツとした岩が転がり、さらに天井からは尖った鍾乳石が伸びている。

「これは、自然の洞穴……でしょうか?」

 リオネルが、目を丸くして辺りを見回していた。

 館を建てる時に掘った人工の穴ではなく、もともと洞穴があるところの上に、館を建てた感じだろうか。

「それにしても、まさか、こんな空間が広がっているなんて……」

 唖然とした顔で辺りを見回すリオネルに、ベルはニッコリ笑みを浮かべた。

「まだまだ、冒険は終わらないみたいですね、リオネルくん。さ、行きますよ」

「あっ、ちょっと待って、ベルちゃん。足元注意して!」

「天井もです。頭ぶつけないように気を付けてください」

 追いかけてきたシュトリナとリンシャの声に、ベルは自信満々に頷き、

「大丈夫です。その辺りも抜かりは……あいたっ!」

 鍾乳石に頭をぶつけていた。

 まぁ……それはさておき……。

 一行は、曲がりくねった洞窟の中を進んでいく。

「それにしても、ここっていったいなんなんでしょうか? もしかして、海賊が使ってたアジトに繋がってて、財宝が眠ってたりして……」

 なぁんて甘々な予想をするベル。であったが……リオネルが、そっと声を潜めて……。

「あり得る……かもしれません」

 意外なことを言った。それから、彼は、通路の一点を指さして……。

「ほら、それ……」

 その指した先を見て……ベルは思わず目を見開いた。

「それって……」

 そこに、人が横たわっていたからだ。いや、正確に言えば、かつて人であったもの……かなりの大昔に人であったもの……すなわち骸骨が……。

 しかも、骸骨の首元には、黄金の首飾りがつけられていて……。

「こっ、これって……それじゃあ、本当にっ!?」

 なぁんて歓声を上げるベルの隣で、シュトリナがそっとしゃがみ込む。拾い上げたのは、今にも崩れ落ちそうな、赤い帽子だった。こう、いかにも海賊が被っていそうな……。

 そして、帽子の額には、なにかのエンブレムが刺繍されていた。

「これは……海賊団の文様、なのかな?」

 基本的には博識なシュトリナではあるものの、さすがに海賊の文様には詳しくない。けれど……。

「三本斧に船の家紋……これは、もしかすると……」

 紋章学に詳しいミーアと、同じぐらい知識を持つ令嬢がいた。すなわち、元貴族令嬢たる、リンシャだった。元レムノ王国の貴族令嬢であった彼女は、シュトリナよりもこの辺りの貴族の事情に詳しい。

 しばし、その文様を見つめていた彼女は……。

「確証はありませんけど、海賊公と謳われた、ゼデルストローム卿の家紋ではないでしょうか?」

「海賊公ゼデルストローム……」

 覚えがあるのか、その名を聞いて、ベルは、腕組みして唸ってから……。

「なんだか、冒険の匂いのする名前ですね!」

 ……いつものベルだった。まぁ、それはいいとして。

「かつて、この辺りを荒らしまわっていたレムノ王国の公爵にして、大海賊です。今から百年以上前の話だと思いますけど……」

「セントバレーヌが生まれる前の話ですか……? それじゃあ、この骸骨が、まさか……?」

「いえ、さすがに海賊公本人ではないかと。でも、その一団の海賊という可能性はあるかもしれません」

 慎重な口調で言うリンシャに……。

「じゃあ、ここが海賊公のアジトだったということは?」

 眉をひそめてリオネルが問うた。

「そうであっても不思議はないかもしれません。もしかしたら、本当に、この奥に財宝が眠っているかも……」

 リンシャの言葉に、ベルは、ぱぁあっと顔を輝かせて。

「これは、もう行くしかありませんね! さぁ、夜になる前に行きましょう!」

 声を弾ませた。のだけど……。


 それ以降、大きな発見はなく……。

 やがて、さー、ささー、っと遠くのほうから音が聞こえてきた。

「あれ……? この音って……」

 ベルがつぶやいた直後、風。同時に、強い潮の香りが届いて……。

 角を曲がった刹那、視界に真っ赤な光が広がった。

「あっ……」

 大冒険の終着点……そこは、海だった。

 夕日に、赤々と染まった、大きな大きな海だった。

 どこまでも、どこまでも続いていく、海だった。

 残念ながら、海賊公の財宝はそこにはなかったのだ。

 呆然と、波を眺めるリオネル。そんなリオネルに……。

「ふっふっふ、やりますね、リオネルくん。こんな大冒険、ボクもはじめてです」

 探検学の権威たる冒険姫ベルは、ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「そう……ですね。ただ、できればなにか……成果が得られれば良かったのですが……」

 残念そうな顔をするリオネルに、ベルはきょとん、と首を傾げた。

「そうですか? 大冒険のゴールが、こんなに綺麗な夕日だなんて、素敵だと思いますけど……」

 楽しげに笑ってから、ベルは続ける。

「それに、たった一回の冒険で、全部を明らかにしてしまうだなんて、もったいないですし」

 そうして、ベルは手を差し出した。

「また、いつか一緒に冒険しましょう! 今日みたいな、とっても楽しい冒険を」

 リオネルは、きょとんとした顔で、その手を見つめて、それから、自らの手を差し出そうとして……けれど、ベルの手を握ることなく、すぐに引っ込めた。

「いいえ、僕の冒険は……これでおしまいです」

 そう言って、リオネルはゆっくりと首を振る。

「え……? リオネルくん?」

「僕は、セントノエル卒業後に、すぐにツロギニア王国に派遣されて、そこで神父として働きます。その次の任地がどこになるかはわかりませんけれど……父の名を汚さぬよう立派に務めを果たし、そして、ルシーナ伯爵領に戻るか、あるいは、ヴェールガの中央正教会の本部で働くことになると思います」

 穏やかに微笑んで、続ける。

「いずれにせよ、世界を冒険して、神の御業をこの目で見るという夢は、もうありません」

 もしも、それが可能だとすれば、セントノエルを卒業してすぐのことだった。商船付きの神父として世界を旅する、まだ自分に体力があり、父もルシーナ伯として健在であったならば、できたかもしれないが……その道はすでに断たれた。

 ツロギニア王国に行き、父の無念を晴らすこと……そのために、リオネルは、自らの夢を諦めたのだ。

「ふふふ、だから、これが僕の最初で最後の冒険でした」

 そう言って、リオネルは無邪気に笑った。

「とっても楽しい冒険ができました。今日は、本当にありがとうございました」

 それから、夕日に染まった海に、目をすがめた。

 それはまるで、今日という日の光景を刻みつけるように。

 そして、まだ見ぬ海の彼方に、思いを馳せるかのように……。

「リオネルくん……」

 そんな少年の顔を、ベルは静かに見つめていた。


 それは、遠い遠い未来の物語。

 リオネル・ボーカウ・ルシーナは、長男に家督を譲り、悠々自適の隠居生活を送っていた。

 神聖典と、愛読書である冒険小説を読みながら、平穏な日々を送っていた。

 そんな彼のもとに、ある日、孫娘の一人がやってきた。

 孫娘は、リオネルお祖父さまの前に立つと、腰に手を当てて胸を張った。

「リオネルお祖父さま、ボクと一緒に海の向こう側を冒険してみませんか?」

 だしぬけにそんなことを言い出した孫娘に、リオネルは目を丸くする。そんな彼に、孫娘は、朗らかな笑みを浮かべて……。

「いつか見た夢の続きを、ボクと一緒に見てみませんか?」

 そう、手を差し出す彼女の姿は、リオネルにあの日を思い起こさせた。

 初めての冒険の日、夕日に染まる美しい海へとたどり着いた、あの夢のような日を……。

 差し出された右手、あの日、取ることができなかったその手を、リオネルは静かに握りしめるのだった。


 リオネル・ボーカウ・ルシーナ。

 その名は、前半生と後半生とで、がらりと印象を変える人物の名だ。

 若き日の彼は、生真面目な司教として、伯爵として、堅実に、誠実に役目を果たす人であった。赴任した地の王族に、臆することなく意見し、非道があれば、その行いを改めさせた、善良かつ常識的な人と、歴史家は評価する。

 では……後半生はどうだったか?

 彼の後半生を、歴史家はたった一言で評す。

 すなわち「ファンタスティック」と……。

 たまたま孫娘と出かけた、半ば遊び半分の船旅で、海賊公のお宝が眠る無人島に行きついてしまうとか。持ち帰った財宝がもとになって、隠されていた歴史に触れるような遺跡の位置を知ってしまうとか……。

 神聖典に出てくる聖遺物すら、うっかり発見してしまったりとか……。

 そんな、あり得ないほどの波乱万丈、ファンタスティックな人生が、彼を待ち受けているのだが……。

 若き日の彼には、そのようなこと、知る由もないのであった。

ちなみに、海賊公に設定とかはまるっきりありません。

もしかしたら、蛇かも……? などということは今のところありません。

後で設定が生えてくるかは微妙ですが。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  ベル絶好調! [一言]  導きの少女として、ミーアの子孫たちの中からベルが選ばれた理由が、ここにもあったのでは?と思ってしまいました。
[良い点] ベルは老年期に入ったリオネルの前に「I'll be back!」。 一方、ギロちんはようやく一安心できると思った老年期のミーアの前に「I'll be back!」……しようとしてまたまた…
[良い点] ???「我らの財宝が欲しいのなら、くれてやるぞ?この広い海を探してみるがいい」 ミーアベル「へっ!?」(※その場を立ち去ろうとした時に誰かの声が聞こえたような気がして振り返る) 骸骨「………
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