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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第八部 第二次司教帝選挙~女神肖像画の謎を追え!~
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第百四十九話 ミーアさん、そういうことなのね?

 ラフィーナが案内されたのは、どうやら、宿屋のようだった。

 店の者たちがすべて退避した建物内は、ガランとしているものの、特に荒らされた様子もなかった。

 食堂のテーブルの上には簡易ながら、お茶の用意がされていた。

 ラフィーナは特に緊張した様子もなく、テーブルにつく。っと、緊張した様子のポッタッキアーリ候、それにビアウデット伯を両側に従えて、ラフィーナの正面にゲイン王子が腰を下ろした。

「さて、先ほども言ったが、私は今回の件の主導者というわけではない。なので、詳しいことはポッタッキアーリ候に任せて、ここで見守らせてもらおうか」

 そんなことを言うゲインに、ラフィーナは小さく頷いた。

 ――どうやら、ゲイン王子は都合よく味方をする気はない、というつもりみたいね。

 ポッタッキアーリ候のやり方には反対ではあるが、さりとて、なんの道理もなく軍を引くこともできない。そもそも、今回の軍事行動は、ルシーナ司教の要請によるものなのだから、彼のスタンスは理解できた。

 ラフィーナはゆっくりと紅茶のカップを持ち上げる。その香りを楽しむように、一口。

「とても美味しいわ。よい紅茶を用意してくださったのね」

「お、おお、おわかりいただけますか。これは、海外の……」

 などと、いそいそと茶葉の解説を始めるポッタッキアーリ候。

「し、しかし、戦場でお茶とは、なかなかに風流ですね……」

 さらに、ビアウデット伯が雰囲気を和らげようと軽口を叩くが……。

「戦場……? あら……ここは、戦場なのでしょうか?」

 ラフィーナは、ちょっぴり驚いたような顔で首を傾げた。

「てっきり、軍事訓練の訓練場所、と思っていたのですけれど……」

「は……? ぐ、軍事訓練?」

 理解できない様子のポッタッキアーリ侯。対して、ラフィーナは静かに、ルシーナ司教へと視線を移した。ルシーナ司教は……深々と頭を下げて、

「この度の騒動について、まず、謝罪したい。私が軽挙妄動により、多くの者たちにご迷惑をかけてしまったこと……誠に申し訳なかった」

 その言葉により、ようやく状況が呑み込めたのだろう。いや、あるいは、ラフィーナが登場した時、ルシーナ司教と共にやってきた時に、すでに半ばわかっていたことだっただろうか。自分たちの計画がすでに、破綻しているということが……。

 驚きに言葉を失っている者たちを尻目に、最初に口を開いたのは、ゲインだった。

「なるほど、軍事訓練……か。落としどころとしては妥当だろうな……」

 腕組みしつつ、ゲインが頷く。

「そう。今回のことは、軍事訓練、並びに、帝国皇女ミーア・ルーナ・ティアムーン姫殿下が近々、出版なさろうとしているお抱え作家の小説の宣伝にしてしまおう……と私たちは考えているわ」

「宣伝……ああ。なるほど、それでは、あの勇ましい聖女さまが描かれた旗もその一環ということですか?」

 ポッタッキアーリ候の不用意な一言に……。

「勇ましい……」

 一瞬、ヒクッと頬を引きつらせるラフィーナであったが、すぐに咳払いして……。

「ええ、まぁ……。ともかく、今回の軍の動きが正式な軍事行動であると知られては、民の間に不安が募ってしまうことでしょう……。ただでさえ、食料への不安が広まりつつある時ですから、できるだけ事を荒立てないようにするのが良いだろう、と、ミーアさんと私は考えています」

 ラフィーナの言葉に、ゲインは一つ頷いて……。

「だが、我が国は、そちらにおられるルシーナ司教の要請によって来たのだ。この騒動の原因は、そちらの司教殿にある……とも言えるはずだ。その責任はどうする?」

「そうですね……」

 ラフィーナは、静かに横に座ったルシーナ司教に目をやった。彼は、表情を動かすことなく、静かに座っていた。

「私の責任については、すべてラフィーナさまにお任せしております。が、重ねて、私の誤解と短慮から、ポッタッキアーリ候、並びにミラナダ王国にご迷惑をおかけしたこと、大変申し訳なく思います。罪を謝し、悔い改めたいと思っております」

「なるほど。我らの神は、過ちを悔い改めれば、罪を赦される。だが、神は赦しても、軍を動かした責任は、どうするつもりか?」

 そう言って、ゲインはラフィーナに視線を向ける。

 対するラフィーナは、あくまでも涼やかな笑みを浮かべたまま、

「そうですね。確かに、軍を動かすのもただではないでしょう。それでは、お詫びに望みを言っていただけるかしら? できる限りのものは用意いたしましょう」

 その言葉に、ポッタッキアーリ候は、嬉しそうに腰を浮かせた。

「おおっ! そっ、それでは、ぜひ、私めに、このセントバレーヌの権益の……」

「馬鹿が……」

 声を躍らせるポッタッキアーリ候を、舌打ち混じりにゲインが一蹴する。

「そんなもの、軍事演習でどのように得ようというのだ? それでは、我が国が軍を動かし、武力によってセントバレーヌの権益を脅し取ったように見えるではないか」

 ラフィーナの言葉の意図を、どうやら、ゲインは正確に把握しているようだった。

 そう、「ルシーナ司教の正式な要請によって、商人組合の私兵団を排除すべく軍隊を派遣した」という大義名分は、すでに失われている。したがって、彼が正当に受け取ることができるのは、訓練の協力の費用と謝礼のみである。

 もし、それ以上を求めたのであれば、それは、ポッタッキアーリ候が軍を動かした動機への疑いとなる。

 港の権益を求めなどすれば、それを求めてセントバレーヌに侵攻したと、周辺国からは受け取られかねないのだ。

 ポッタッキアーリ候もそれに気付いたのか、ハッと目を見開いた。

 そう、彼らは、あくまでも私情なく、ただ司教の要請を、善意を持って受け止めて派兵した……というスタンスを取らなければならないのだ。

 代わって口を開いたのは、ミラナダ王国軍司令官、ビアウデット伯だった。

「我が国に、ぜひ、小麦の輸送の優先権をいただきたい。我が国の食料状況は厳しく……もしも、セントバレーヌからの供給が少しでも滞れば、民は窮することになってしまうのです。私が率いている者たちは、兵ではなく、農民がほとんどです。彼らの行動も、ひとえに食料を求めてのこと。どうか、なにとぞ……」

 ポッタッキアーリ候とは違い、彼は心の内を隠すことはしなかった。それに対し、ラフィーナはわずかばかり、驚いた様子だった。

「なるほど……それで、ミーアさんが……」

 その脳裏には、今回の落としどころについて、ミーアと話し合った時の光景が浮かんでいた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >>自分たちの計画がすでに、破綻しているということが……。 恐らくは入念に準備していたのでしょうけれど、まさかクライアントが 真っ先に調略されてしまうなんて考えてもいなかったでしょうね。…
[一言] ラフィーナ様のボイスドラマを聞きましたがこの時のミーア姫に対するせめて安らかにとの感想と現時間軸のラフィーナ様はやはり真の友を得た事により前時間軸の役目的に聖女を演じていた時と違い真の聖女に…
[良い点] ラフィーナ「ミーアさん、ミーアさん、そ〜ういうことなのね♪」(※『ぞうさん』の替え歌風に) ミーア(『そ〜うよ』でとりあえず、し〜のぐのよ〜♪)
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