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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第八部 第二次司教帝選挙~女神肖像画の謎を追え!~
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第百四十四話 二人の聖女

 橋を見下ろす位置にある、他より少し高い三階建ての建物。その屋上を目ざして、ミーアは階段を上っていた。後ろに付き従うのはルードヴィッヒとラフィーナ、加えて、シャルガールと皇女専属近衛兵が二人である。

 ちなみに、シャルガールと近衛兵には、旗を振る役が与えられている。

 旗は、女性の力では、いささか重い物であったが……。

「私が作ったものですので! 私が振らずして、誰が振りますか! 堂々と、派手に振ってみせましょう!」

 なぁんて言うシャルガールの熱意に負けたミーアであった。

 ちなみに、シャルガールはラフィーナの顔を見つけて、

「あっ、お久しぶりです。ラフィーナさま」

 声をかけられたラフィーナがヒクッと頬を引きつらせていた辺り……シャルガールがかつて描いた肖像画がラフィーナに与えた衝撃の大きさを物語っていた。

「ご機嫌よう、シャルガールさん。ええと……相変わらず、お元気そうでよかったわ」

 それでも、なんとか微笑むラフィーナに、シャルガールは続ける。

「ところで、ラフィーナさま、この旗の絵はどうですか? 私が描いたのですが……」

 その問いを前に、ラフィーナは……実になんとも、複雑な顔をしていた。

 正直……かなり恥ずかしい派手さだ。やたらと目立つ鎧を着た、勇ましい自分の姿など、羞恥心を刺激するものでしかないわけで……。

 しかし、それではダメな絵かと言われると、そうも言い切れなくって。

 なにせ、ラフィーナは、ちょっぴり嬉しかったのだ……。ミーアのお抱え作家が書いた、貧しい王子と黄金の竜は、以前、読んだことがあった。とても良い物語であったし、なにより、そこに描かれた友情は素晴らしかった。

「あの王子と竜の友情物語、そのモデルに私とミーアさんを……ふふ」

 なぁんて考えただけで、ついつい、ニマニマしてしまいそうになってしまって……。

 正直、肖像画のモデルにされてこんなに嬉しいのは、以前、ミーアと一緒にモデルを務めて以来だったので……。ということで、ラフィーナは、シャルガールの質問に対して……キリリッとしかつめらしい顔をして……。

「ええ……悪くない、と思うわ。うん、あの物語の挿絵だとしたら……ちょっぴり派手なところはあるけど、うん、でも、まぁ……」

「なるほど、ということは、ラフィーナさまは、こういった派手な鎧を着た凛々しいお姿が好みと……」

「え? や、ちがっ……」

 っと、ちょっぴり慌てるラフィーナだったが……残念ながら、その言葉はシャルガールには届かないのだった。


「おお、やっておりますわね……」

 屋上に着いたところで、ミーアは橋のほうに目を向ける。

 そこで激しく戦う二人を見て……。

 ――派手にやっている……というか……こ、こわぁ……。いや、なんですの、あれ……刃が空中で粉々になってますし……いや、どうなってますの、あれ……こっわ!

 なぁんて、思わず心の中でつぶやいて……。

 ――あれは早く止めないと、やってる本人たちは無傷でも、周囲に被害が広がりそうですわね……。まぁ、そのぐらいやらないと、軍の足止めにはならなかったのかもしれませんけど……。

 そうして、ミーアはシャルガールのほうに目を向けた。

「さて……それでは、やりますわよ。準備はよろしいかしら?」

 その声に、シャルガールと、近衛兵二名が頷く。さらに、ルードヴィッヒ、そしてラフィーナが小さく頷いたのを確認して……ミーアは厳かに言った。

「では、旗を掲げなさい」

 それを合図に、シャルガールと近衛兵が旗のポールを高々と持ち上げる。風を受け、勢いよく広がっていく旗。誇らしげに描かれたミーアとラフィーナの、ちょっぴりファンタジーな姿があたりに晒されたところで……。

「両者それまで!」

 ルードヴィッヒの声が響いた。

 それを聞き、橋の上での戦いが止まる。ディオンとギミマフィアス、双方が大きく間合いを開け、こちらに視線を向けてくる。

 ――ふむ、以前のレムノ王国のことを思い出しますわね。

 そんなことを思うミーアの目の前で、

「剣を納めよ! 聖女ラフィーナさま、そして、帝国皇女ミーアさまの御前である!」

 その声に応えるようにして、橋の上の二人が剣を鞘に納めた。

 それを確認してから、ミーアはラフィーナの顔を見た。

「では、ラフィーナさま、事前に打ち合わせておいたとおりに……」

「ええ、わかっているわ。お互いに頑張りましょう」

 そうして二人は頷きあうと、階段を降りていく。

 ラフィーナは、ミラナダ王国、ポッタッキアーリ候連合軍のほうへ。そして、ミーアは、橋の南側、住民が避難しているほうへと。

 その姿を建物の屋上、シャルガールが、どこか感動した様子でジッと見つめていた。


 ……後日、港湾都市セントバレーヌの市庁舎に一枚の絵が寄贈される。

 タイトルは『二人の聖女』。

 凛々しい顔で背を預け合う二人の聖女。互いに向かうべき戦場へと赴く様を描いたその絵は、多くの者を魅了し、また、多くの者に生きる希望を与える、大変に力強い絵であった。

 そしてそれは、高名な挿絵画家、シャルガールの代表作の一つとして、歴史に記録されていくことになるのであった。

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― 新着の感想 ―
見事です 見事なシメ ※ かな〜りゆっくり読んでます。 美味しいものは最後に!
[良い点] 皇女+王・公女シリーズの美術品の3つ目。 灯台は美術品なんだろうか・・・多分美術品だろう。 個人的には最初期メンバーのクロエ版が欲しい。国同士の関係を示すものでもあると思うが・・・マルコ…
[良い点] ついに、ミーアも聖女認定という事が、さり気なく書いてある所がとても良いと感じました。 まあ、今までの功績を考えれば、むしろ認定されていなかった事のほうが不自然なくらいですからね。 思えば遠…
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