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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第八部 第二次司教帝選挙~女神肖像画の謎を追え!~
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第九十八話 ミーア姫、悪意なくdisられる

「え、ええと……とりあえず、お話を聞かせていただいてもいいかしら? シャルガールさん」

 っと、話を進めようとしたところで、ミーアは気付く。例の、ビオンデッティの護衛に聞かれるのは、あまり良いことではないだろう。

 そんなミーアの様子に気付いたのか、すぐさま、ルードヴィッヒが動く。

「案内、ありがとうございました。我々は、少し彼女と話がありますから、お酒でも飲んできてください」

 そう言って、銀貨を渡そうとする。

「いや、しかし……職務を放棄するわけには……」

 っと、目を泳がせる護衛に、

「心配は無用だ。我が従者キースウッドは、君に負けない手練れだよ」

 シオンは穏やかな笑みを浮かべた。合わせてキースウッドも腰に下げた剣に軽く触れる。

「ええ。任せてください。みなさまを守るのが、私の仕事なので」

 常の軽薄さを一度、引っ込めて、生真面目な口調で言うキースウッド。実に信用できそうな、誠実そうな顔を作っている。

 それでも護衛は、一瞬、躊躇した様子だったが……、

「そ、それじゃあ、少しだけ……」

 などと言いつつ、この場を離れて行った。

 そうして、人払いした後、ミーアは改めてシャルガールに話しかける。

「実は、わたくし、セントノエルで、ある肖像画を……」

「……はい。私が描いたもので間違いありません」

 シャルガールは、抑揚のない声で答えた。

 ――あら、すごく簡単に認めますのね。手っ取り早く手助かりますわ。

 満足げに頷くミーアであったが……。そのうえ……。

「恥ずべきことをしてしまったと思っています」

 ひどく反省した様子でうつむく。

「うんうん、そうですわね。まぁ、悔い改めるのはとても大切なこと。悪いところがあれば、直すのが大事ですわ」

 その大切さは、ミーアもよくわかっている。

「私は、私の美の感覚を裏切り、描きたくないものを描いてしまったのです。気が進まないのに、金のために描いてしまいました」

 ――ふむ、描きたくない、気が進まない……。まぁ、ヴェールガの中央正教会に反旗を翻すような肖像画ですし、描きたくない、気が進まないというのはわかりますわ。お金のために仕方なくなら、悪い人ではないのかしら……?

 そう思いかけた時だった。

「美しいと思わないものを描いてしまった……だから、神罰が下ったのです」

 その言葉に、ミーア、思わず、んっ? と首を傾げる。

 ――美しいと思わないものをモデルに絵を描いた……そのモデルって……あ、あら?

 ミーアの様子を見て、シャルガールは首を傾げた。

「あの肖像画のことで、文句を言いに来たわけですよね。あんな適当なものを描きやがってって」

「まぁ……確かに文句を言いに来たと言えば、そうなのですけど……」

「ああ……やっぱり……。私、駄目なんです。描く対象が、私の美的感覚に反すると、どうしても、力が入らなくって……」

 っと、すまなそうな顔をしたシャルガール。いかにも、殊勝な態度……ではあるのだが……。

「あ、ああ、でも、それはあくまでも、私の美的感覚に合う合わないという話であって、別に、あなたさまの顔がどうこうというお話しではありませんが……」

 言い訳のように付け足してくる。どうやら、気を使われてしまったらしい。

 なるほど、確かに、それはこの画家のセンスの問題なのかもしれないが……。

 ――しかし……画家の美的センスに合わないと言われるのも、それはそれで、複雑なような……。

 ミーアは別に、自分のことを絶世の美少女とは思っていない。傾国の皇女ではあっても、傾国の美女ではない、と、慎む深く思ってはいるわけだが……。

 それでも、こう……微妙にモヤモヤしてしまうのは、否定できないことなわけで……。

 年頃の乙女なミーアなのである。

「あの、一つよろしいでしょうか?」

 とそこで、ルードヴィッヒが手を挙げた。

「ミーア姫殿下をモデルにした肖像画を、いったいどのようにして描かれたのですか?」

「え? あ、ええ……そうですね。実は以前、ヴェールガ公爵邸で、ミーア姫殿下の肖像画を見たことがあったのです」

「ミーア姫殿下の肖像画、ですか……?」

 ルードヴィッヒが首を傾げていた。

 ヴェールガ公爵とは違い、ミーアの父である皇帝が、ミーアの肖像画を各国に配っている、ということはない。セントノエルにいる者ならばいざ知らず、他国の者たちは当然、ミーアの顔を知らないわけで……。

「はい。ラフィーナさまのお部屋に堂々と飾られているのを見まして。基本的にラフィーナさまは、ご自分の肖像画をあまり人前には出したがらない方なのですが、その肖像画は部屋の一番目立つところに飾られていて。だから気になっていたんです」

 ペラペラとシャルは続ける。

「それで、お願いしたら、ニッコニコ上機嫌で見せてくれました。ラフィーナさまと一緒にミーア姫殿下が描かれているもので……どんな由来かもすごく丁寧に説明してくれました。で、その時にみたものを参考にイメージを膨らませまして描かせていただきました」

「あー……なるほどー。そんなことも、ありましたわねー」

 微妙にやる気が減退しているミーアをよそに、ルードヴィッヒが話を進めていく。

「なるほど……。つまり、ヴェールガ公爵邸で見た肖像画をモデルにして絵を描き、それを商人に売ったと……?」

「いえ、注文を受けて描きました。私がヴェールガ公爵のお抱え画家であったと、どこかで耳にした商人が、ラフィーナさまの友人であるミーア姫殿下の肖像画は描けないか? と……」

 それを聞き、ルードヴィッヒはそっと目を細める。

「ミーア姫殿下の肖像画を、あえて描いてもらいたいと……そうですか。ちなみに、あの女神のアレンジは、あなたが……?」

「女神のアレンジ……? いえ、あれは、女神ではありません。あれは、私の美意識の塊です!」

 どどーんっと胸を張るシャルガール。それには特に触れず、ルードヴィッヒは続ける。

「しかし、女神肖像画というタイトルは……」

「タイトル……?」

 怪訝そうな顔で首を傾げるシャルガール。

「なるほど、あのタイトルを付けたのは、あなたではない、ということですか……。ちなみに、絵は何枚お描きになったのですか?」

「五枚です。ほとんど同じで」

「五枚……なるほど。そうですか」

 ルードヴィッヒは、軽く眼鏡の位置を直しながら、小さくつぶやいた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] セリフが一言もないのがかえって怖いのですが、青筋を立てつつも にこやかな作り笑顔でミーアの後ろに控えているアンヌの姿を想像すると背筋が凍る思いです。 王子二人はそういうのを顔に出さないタ…
[良い点] >ミーアは別に、自分のことを絶世の美少女とは思っていない。傾国の皇女ではあっても、傾国の美女ではない、と、慎む深く思ってはいるわけだが……。 ガワの見た目はともかく、中身は既に成人なので…
[気になる点] 例の蛇の商人に金で頼まれたシャガールの 「ミーア姫殿下の肖像画を、あえて描いてもらいたいと……そうですか。ちなみに、あの女神のアレンジは、あなたが……?」 「女神のアレンジ……? いえ…
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