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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第八部 第二次司教帝選挙~女神肖像画の謎を追え!~
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第八十八話 セントバレーヌの現状確認1

 さて、ミーアたちは、大会議場から場所を移した。

「ここは、我が商会が、この市庁舎の中に借りている部屋でしてな」

 先ほどの会議室より狭い部屋の中には彼の秘書だろうか、女性が一人、出迎えのために待機していた。

 そうしてソファに腰を下ろし、出されたお茶菓子に、おおっ! とミーアが歓声を上げる、という……まぁ、いつものやり取りを経て……。

「改めまして、老人の話にお付き合いいただきまして、感謝いたします」

 ビオンデッティは殊勝な口調でそう言った。それから、深々と頭を下げる。

 その様子を見て、ミーアはピンとくる。

「上手くまとまったようで何よりでしたけど……。もしや、あなたの言葉はわざとだったのかしら?」

「ふふふ、よくおわかりになられましたな」

 顔を上げた時、老商人の顔には、悪戯っぽい笑みが浮かべられていた。

「バルタザル殿より、ミーア姫殿下の聡明さはよく聞き及んでおりましたゆえ、一芝居打たせていただきました。いや、一芝居……というか、みなの思っていそうなことを、代弁しただけですが……」

 ビオンデッティがしたのは、ミーアの予想と大体の部分で合致していた。要するに、商人たちを説得するため、彼らが思っていそうな疑問をあえて形にして、それをミーアに論破されることで、話をまとめようとしたのだ。

「申し訳ありません。ミーアさま。バルタザルが同行できていれば、もっとしっかりと根回しできたのですが……」

 そう頭を下げるルードヴィッヒである。

 これが、正式な会談であれば、事前に彼ら文官たちが状況を詰めるべきであったのだが……、今回の急なセントバレーヌ行きに、ルードヴィッヒらは、完璧には対応できていなかったのだ。

「仕方ありませんわ。今回は急な旅でしたし。それに、バルタザルさんは赤月省所属でしょう? 帝国内の食料事情を把握するので忙しいのではないかしら?」

 肝心要の帝国内で飢饉が起きては一大事。事の軽重を見誤ってはいけない。ミーアは自分ファースト、断頭台回避ファーストの人であり、その断頭台が立つのはほかならぬ帝国なのだ。

「ほほう、ということは、やはり、帝国内でも食料の不足が……?」

「ええ。他国とあまり状況は変わりませんわ。ただ、貴族というのは、しばしば、民の空腹に無関心なものですから、状況を逐一把握しておきたいと思っておりますの」

「なるほど。それで、民の間に広がる不安感をお気になさっていたと……」

 ミーアは、静かに頷いてから、

「ところで、ルシーナ司教との仲を取り持ってほしいとのことですけれど……いったい、なにがどうなっておりますの?」

 ミーアの興味はそちらに移る。はたして、このセントバレーヌで何が起きているのか……。そのことに女神肖像画は関係しているのか、など、頭を使う機会は色々あるのだ。

 この場が終わってから、楽しくグルメ観光ツアーに出るためにも、今は頭の使いどころなのである。

「そうですな。我ら商人組合の施策について、最近、少々、介入の度合いを強めておりまして……例えば、このような話がございました」

 それは、とある孤児院についてのことだった。

 古くからあるその施設は、もともと商人組合によって建てられたもの。時代を経て、周りの区域の開発が進む中、ポツンと取り残された施設だった。

 老朽化が進む孤児院で預かっている子どもは、十名に届かない程度。建物の傷みを勘案し、子どもたちを他へ移し、建物を取り壊そうという話が立ち上がったのだという。

「けれど、ルシーナ司教は……古い孤児院を取り壊すことに反対され、あろうことか、商人組合の提案を握り潰してしまいましてな」

 哀れげな顔で言うビオンデッティに、ミーアは小さく笑みを浮かべ……。

「なるほど。頑迷なる司教が、古くなった孤児院を取り壊すことに頑なに反対し、商人組合の邪魔をした……と」

 それから、わずかに目つきを鋭くして……。

「それは、一面的な言い分ですわね」

 誰かを悪く言おうと思えば、いくらでも言えてしまうもの。

 革命の時期、ミーアに立った悪評は一面真理ではあっても、ミーアのすべてではなかった……っと、声を大にして主張したいミーアである。

 飢饉で死者を多く出した村に、慰問に行った時……。確かにアピールの側面があったことは否定できないが、そこに一切の思いやりも、心痛もなかったかと言われるとそんなはずもない。

 そんなかつてのミーアですら、自身の行動に一定の正しさを持っていたのだ。であれば、ルシーナ司教が、何の理由もなく反対していたとは思えない。

「物事にはいろいろな側面がある。ルシーナ司教が反対したのだとすると、彼なりの理屈があったのではないかしら?」

 ニヤリ、とビオンデッティは口元に笑みを湛える。

「確かに。それを進めようとしていた者たちは、配慮を欠いておりました。計画では、孤児院は取り壊され、そこには新しく商業施設が作られることになっていた。そして、子どもたちは、別々の孤児院に預けられることになっていました」

「家族同然に生活していた孤児たちを、離れ離れにするなんて……」

 小さくつぶやいたのは、ミーアの後ろに控えていたアンヌだった。弟妹の多いアンヌのこと、家族間の絆については、人一倍敏感なのだ。

「そう……。彼らは孤児院を、子どもに衣食住さえ与えていれば役割を果たせる場所だと見なしていた。別の孤児院でそれらを用意できるのだから、それで満足すべきだ、と。一緒にいたいだとか、家族としての絆だとか……そんなもの気にする必要はない。与えられる者は、贅沢を言わず我慢するべきだ……と、まぁ、そのような考えがあったことは事実でしょう」 

 商人たちと、ルシーナ司教との差。

「義務として最低限は与えなければならないと考える者」と「最善を与えることが正しいと信じ、できうる限りの良い物を与えんとする者」との差。

 両者の溝は埋めがたく……されど、

「商人組合と、ルシーナ司教とのお考えには差異があった。ゆえに……妥協点を探るべきだった。そもそも、ここはヴェールガにあってヴェールガにはあらずの場所。であれば、ルシーナ司教は意向を匂わせるにとどめ、商人組合はそれを忖度し、計画を修正する。それが、今までのやり方でした」

 子どもたちにとって必要なものは何と考えるか。ルシーナ司教に条件を出させ、その条件をクリアする形で計画を修正する。

 その努力をせず、初めから計画を取り潰すというのは、商人たちには受け入れがたいことであった。

「まぁ、もっとも……今までの司教の中には、我らの計画を全面的に支持し、一切の異を唱えず、かえって孤児たちの説得に動いてくれそうな方というのも、ままおられましたが……。ともあれ、我ら商人組合と派遣司教とは、互いの意向をすり合わせつつ、物事を進めてきたのです。が……」

 ビオンデッティは悩ましげな顔で、深々とため息を吐いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] その様子を見て、ミーアはピンとくる。 「上手くまとまったようで何よりでしたけど……。もしや、あなたの言葉はわざとだったのかしら?」 「ふふふ、よくおわかりになられましたな」  顔を上げた時、…
[良い点] >>今回の急なセントバレーヌ行きに、ルードヴィッヒらは、完璧には対応できていなかったのだ。 事が自分の事だけに、ミーアのフットワークの軽さが裏目に出た結果ですね。 そして、美味しい物を食…
[良い点] >断頭台ファースト そう、パラシュートを付けた無数のギロちんが空から降ってきたり、好感度メーターのようにギロちんの刃が上がっていったり。
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