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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第八部 第二次司教帝選挙~女神肖像画の謎を追え!~
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第八十六話 小物アピール、成功……せず

「この帝国皇女、ミーア・ルーナ・ティアムーンの好意と敬意を買いなさい」

 などと言ったミーアであるが……、もちろん、そんなもの空手形である。けれど、ミーアに罪悪感はない。

 ――むしろ、感謝してもらいたいぐらいですわ。民草を軽んじる者は、滅びの種を自ら蒔くことになるのですから……。しかし、少々、説得に言葉を弄してしまいましたわね……。

 ついつい、前時間軸のことを思い出し、言葉に力が入りすぎてしまったことを反省するミーアである。

 ――せっかく、小物感を出そうとしておりましたのに、少しばかりしゃべり過ぎたかも……。まぁでも……肝心な部分の説明はクロエたちがしましたし、きちんと彼女たちが優秀なだけだ、とわかっていただけたのではないかしら……。

 自分がルシーナ司教と並び立つ大物だなどと思われては一大事。なんとか、目立たぬよう、聡明さ()が溢れ出さないように自らを律するミーアである。

 と、その時だった。

「なるほど。宝は使ってこそのもの……。だから、私めどもの贈り物である髪飾りを手放された……ということですか」

 ミーアは声のほうに視線を転じる。と、どこかで見覚えのある商人の姿が見えた。

 ――はて、髪飾り……それに、あの顔は……。

 考えることしばし。ミーアの脳裏に、その商人と出会った時の光景が浮かぶ。確か、白月宮殿に、献上品をもってやって来た商人で……。

「ああ。あのかんざし……そうですわね。あれは、まさに素晴らしき宝でしたわ。あれをきっかけにして、病院が建ち、死にかけていた町が甦ったのですから」

 かつて、ミーアが気に入って、よく身に着けていたかんざしを送った、さる大商人こそ、この目の前にいる商人であった。

「帝都ルナティアの経済特区、新月地区ですな。貧困地区を、あのように経済活動が活発な地区にするとは、素晴らしい叡智です」

 突如、襲ってきたヨイショの横波を、ミーア海月は華麗に受け流し……。

「ああ、ですが、あれを成したのは、わたくしが信を置く家臣。このルードヴィッヒの功績ですわ」

 ささっとルードヴィッヒを紹介、引き波に合わせて、静かに身を引こうとするミーアである。その狙い通り、

「なるほど。ミーア姫殿下のお考えをしっかりと読み取り実現する、有能な方なのですな」

 商人たちは、感心した様子を見せるが……。

「そのような、有能な家臣の方がミーア姫殿下に付き従っている、と……」

 再び、別のヨイショが襲ってきた。

 気付けば、ミーアが漂う海域は、いつの間にやら、嵐の様相を呈していた!

「過分な評価をいただいております。されど、私だけではありません。我が国の能吏たちが、ミーア姫殿下のお考えを実現するため、日夜、働いております」

「おお……。有能な部下の方がそんなにもたくさん……」

 さらにさらに、巨大な波が、海の月ミーアを、天の月にまで押し上げんとしていた。

「え……ええ。まぁ、優秀な方たちにいつも助けられていますわ。お、おほほほ」

 ミーアは、なんとか、その波から降りようとする。

 優秀なのは家臣たちであって、自分じゃあないんですよぅ、っと……察してね、と伝えようとするが……。

「しかし、せっかくああして顔繋ぎをし、覚えていただきましたのに……帝国内の小麦輸送でお声がけいただけぬとは、いささか残念でしたな。フォークロードだけでなく、我が商会もご協力できたと思いますが……」

「おほほ、お戯れを。わたくしに贈り物をしておきながら、お父さまがなにも便宜を図らなかった、とでも言うおつもりですの?」

 ついうっかり、答えてしまう。先ほど、自身の好意と敬意を買えと言ってしまった以上、ここで「自分たちを遇する力がないから、好意を買っても意味がない」などと思われないための配慮である。

 ミーアには確信があった。自分が気に入った髪飾りの贈り主を、父がどのように遇するのか……。なにも良い目を見ていないということは絶対にあり得ない。リターン受けてるだろうから、なにも便宜を図らなかっただけよ? と主張しておく。っと、

「ははは、敵いませんな。ミーア姫殿下には……」

 などと、降参のポーズをする商人。どうやら、ミーアの勘は当たったらしい。それはいいのだが……そのやり取りすら、なんだか、賢そうに見えてしまって……周りの商人たちの視線は、熱を帯びる一方だ。

「ミーア姫殿下……お話はわかりました。この様子ですし、協力したいと思っている者も少なからずいるでしょう。ワシも、姫殿下のお考えにいたく感銘を受けました。協力するもやぶさかではないのですが……」

 ビオンデッティ商会長は、そこで、チラリと視線を送ってきた。

「ただ一つだけ、条件……いえ、お願いしたきことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

 その申し出に、ミーアは軽く眉をひそめる。

「あら? なにかしら……?」

 小さく首を傾げるミーアに、ビオンデッティは苦笑いを浮かべて……。

「ルシーナ司教と我々との関係改善のために、ご協力いただけないでしょうか?」

「……ルシーナ司教との関係改善……それは、内容によりますわね……。わたくしにできることでしたら、いたしますけど……」

「お恥ずかしいことながら、セントバレーヌは、ここ最近、いささか困ったことになっておりまして。どうもルシーナ司教は我ら商人が、この都市で大きな顔をするのを、あまり好まないようでして……」

「なるほど、その執り成しをわたくしにしろということですわね……ふむ」

 頷くミーア。その首の角度が……微妙に傾いだ。

 ――あ、あら……? 妙ですわね……。わたくしのような小物に、ルシーナ司教との仲を取り持つことを願い出るなど……。おかしいですわ。なぜ、わたくしに、なんとかできると思ったのかしら……?

 などと、胸の中でしきりに首を傾げつつも……。

「まぁ、そうですわね。ビオンデッティさんとは、他にもお話ししたいことがございましたから……少し話を聞かせていただきますわ」

 とりあえず、頷いておくミーアであった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] >>小物アピール、成功……せず 読んでる側からすれば大言壮語もいいとこですが、悲しいかなその場にいる誰もそれを知らないですからねえ。 >>確か、白月宮殿に、献上品をもってやって来た商人…
[良い点] ミーア姫自身がまだ自分が小物と思って自覚が無い事で権力や地位等を利用して自己の利益だけを図る権力者に成らずに真の叡智に近付き帝国の女帝に相応しく成った点  後はミーアベルを上手く教育出来る…
[一言] わたくしのような小物に、ルシーナ司教との仲を取り持つことを願い出るなど……。おかしいですわ。なぜ、わたくしに、なんとかできると思ったのかしら……?  などと、胸の中でしきりに首を傾げつつも……
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