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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第八部 第二次司教帝選挙~女神肖像画の謎を追え!~
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第八十二話 ミーア姫、小物を装う

 会議場に、先陣を切って入って来た少女、白金色の髪を揺らし入って来た彼女は、ちょこんとスカートを持ち上げながら頭を下げる。

「ご機嫌よう、みなさま。わたくしは、ミーア・ルーナ・ティアムーン。ティアムーン帝国の皇女ですわ」

 その言葉を聞き、商人たちは、泡を食って一斉に立ち上がった。そんな彼らの様子にも構わず、帝国皇女、ミーア姫は続ける。

「このように、お話しする機会をいただき感謝いたしますわ。今日、このようにみなさんに、貴重なお時間をいただいたのは、ぜひ協力していただきたいことがあったからなんですの」

 その場にいた商人たちは、さらに慌てる。

 まさか、帝国の姫殿下に、先に自己紹介をされてしまうとは思っていなかったのだ。

 普通はこういう場合、家臣の者が先に来て色々と場が整ってから動き出すもの。身分的にも、帝国の姫が、平民である商人たちより先に挨拶をするなど、とてもあり得ない。そんな礼を失することが許されるはずがない。

 もしも、王侯貴族が、そのように下手に出るとしたら、理由は一つしか考えられなかった。すなわち……。

 ――これは、なにか、とんでもないことをお願いされるのでは……?

 今まで幾度も、理不尽な要求を突き付けられてきた商人たちは、自然と身構える。けれど……。

「みなさま、ご存知のことと思いますけれど……今、この大陸各国は食料不足の危機にありますわ。そして、そのことはできるだけ表に出ないように配慮しておりますけれど……民の中には、それに気付き、不安感を持つ者も現れてきておりますわ。わたくしが協力を願いたいのは、そのことなんですの」

 ミーアが言ったのは、表向き、至極、真っ当なことで……。

「……と言いますと?」

 思わず、と言った様子で口を開いた商人に、ミーアは深々と頷き……。

「詳しいことは、この後でお話ししますけれど、このまま民の不安感が高まると、混乱から食料流通が乱れるかもしれない。そうなると、飢饉が発生し、より一層、不安感が高まっていく。負の連鎖を生まないために、人々の不安感を和らげたいと考えておりますの」

 極めて真っ当な……そして、善良なことを言い出したミーア姫に、商人たちは肩透かしを食らったような気分になった。


 さて……ミーアがなぜ、丁寧な挨拶から始めたかと言えば……理由はいたってシンプルなことであった。

 ――こちらは、お願いする立場ですわ。相手の心証を悪くして断られでもしたら面倒です……。

 基本的に、頭を下げることには抵抗のないミーアである。お金がかかるわけでもなし、下げて有利になるならば、いくらでも下げるのである。

 地下牢を経験したミーアには、この程度、どうということもないのだ。

 ――それに、ルシーナ司教と対立する後ろ盾になどされたら、たまりませんわ。ここは、謙虚さを見せることこそが肝要。

 そもそもルシーナは、ただの伯爵ではない。中央正教会の司教である。まともに渡り合えるのは、せいぜい、聖女ラフィーナぐらいのものだろう。ご当地聖女のミーアには、元より荷が勝ちすぎることなのだ。

 ゆえに……。

 ――できるだけ腰を低く……。決して威厳など見せてはなりませんわ。ルシーナ司教と並び立つ偉大な人物、などと見られては一大事。できるだけ、こう……頼りなく、小物に見えるようにしなければ……。謙虚さが大切ですわ!

 腹にグッと力を込めて、自らの背中から後(誤?)光が溢れださないように意識しつつ、ミーアは続ける。

「そこで、具体的に協力していただきたいことですけど……わたくしが心から頼り、信頼する友人たち、クロエとティオーナさん、それにラーニャさんが考えてくれたことがございますの……。説明していただけるかしら?」

 彼らに開示するのは、ルードヴィッヒも認めた素晴らしい策である。これを自分が考えた、と思われるのはいかにもまずい。

 なんと聡明な!

頼りになる美しき姫殿下だ!

よし! ルシーナ司教と戦う後ろ盾となってもらおう……などと言うのは、最悪の流れである。

 ゆえに、謙虚に、一歩も二歩も引いたところで話を進めることが、今日のミーアのテーマなのだ。

 さて、ミーアに話を振られ、三人の令嬢たちは一瞬、顔を見合わせた。けれど、すぐに……頷きあって……。

「では……フォークロード商会、マルコ・フォークロードの娘、クロエが説明させていただきます」

 クイッと眼鏡を押し上げて話し出したのはクロエだった。

 彼女は、本の読み聞かせと食の栞のアイデアをプレゼンしていく。理路整然とした語り口、さらに、ミーアのお抱え小説家が書いたという物語の斬新さに、彼らは目を瞠った。

寒さに強い小麦ミーア二号とその調理法については、ティオーナとラーニャが説明を担当する。発見に至る経緯、その調理法が特殊であること、それをどのように広めていくのか……。二人のご令嬢の話も、商売の理にかなっており、ゆえに、商人たちは納得の頷きを見せた。

「なるほど……。確かに、面白い物語があれば、その方法であれば上手く不安を和らげられるかもしれませんな……」

みなの意見を代表するように口を開いたのは、老齢の男だった。

「ビオンデッティ商会の会長です。セントバレーヌ初期から、商人組合を支える大商人の一人です」

 小声で、ルードヴィッヒが耳打ちする。

「ほう、よく知っておりますわね。ルードヴィッヒ。さすがですわ」

「お褒めに与り光栄です……と言いたいところですが、バルタザルからの又聞きです。彼は、セントバレーヌの商人たちとも付き合いがあるらしいので」

「それでも感謝いたしますわ。例の肖像画を調べるうえで、協力を仰ぐべき相手がわかるのは、とても助かりますもの」

 そう微笑んで、ミーアは、ビオンデッティ商会長に目を向けた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >> ――これは、なにか、とんでもないことをお願いされるのでは……? ああ、やんごとないお方ならばまずやりそうにない行動を突然されて 周囲がアワアワする展開、久しぶりですね。 この先制攻…
[良い点] ふと気づきました。さてはミーア様、『小物』と『小心者』を勘違いしているな!w 小物はむしろ自分を実際以上に大きく見せようとする傾向があるし、手柄を横取りして自分のものに見せかける傾向が強い…
[一言] >サブタイトル 後藤(ごっど)『装うも何も、事実小物じゃろ?』 ミーア「うっさいですわ!!」
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