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第一〇〇話 築き上げてきた絆(コネ)

「わたくしは、行きたい。協力をお願いできるかしら?」

 静かなミーアの声。

 帝国の叡智と謳われる少女の、心からの願い。

 普通であれば、それは否定されるべき願いだ。

 無茶苦茶で、(いさ)められて当然の願いだ。

 けれど……、

「行きたいと言われても、そう簡単ではないですよ、ミーア姫。レムノ王国は、現在、緊張状態にあります。そこに近衛でも引き連れていこうものなら、侵略を疑われかねません。少なくとも身分を偽り、秘密裏に行く必要があるでしょうが……」

「そうだな。こんな時期だし、身分の不確かな者は国境を越えられないだろう。なにか作戦を立てる必要があるな」

「そうですね……。何とかできないかしら」

 その場に集う、誰一人として、ミーアの願いを否定しなかった。

 真剣な顔で、ミーアの願いを受け取り、それに応えるべく頭をひねる。

 行って何ができる、とか、そんなことできるはずない、とか……。当然口にされるべき疑問は、囁かれることさえなかった。

 まるでミーアに協力するのが当たり前のことだと言うかのように。

 そして、圧倒的に絶望的な状況で、光明は差した。

 それも、ごくごくあっさりと、である。

 そうなのだ、例えミーア自身がポンコツであったとしても、この場には超豪華なメンバーが集まっているのだ。

 彼らがその気になれば、大体のことはなんとかなってしまう、心強いメンバーが。

 そんな中で、けれど、最初に口を開いたのは意外な人物だった。

「あの……」

 おずおずと声を上げたのは、クロエ・フォークロードだった。

 そうそうたるメンバーの視線を集めてしまったことで、びくんっと体を震わせつつも、クロエは続ける。

「うちの商会の隊商(キャラバン)が……レムノ王国に行く予定があって……、その、馬車に紛れていく、というのはどうでしょうか?」

「それは……なるほど」

 腕組みして、一瞬考え込むも、すぐに頷くキースウッド。

「確かに、それならば秘密裏に行くこともできるかもしれない。商人であれば、民衆たちから敵意を買う可能性も低いか……」

 少なくとも、他国の王族や、身元不詳の不審人物として入国するよりは、よほど動きやすいだろう。

 わずかばかりに表情を明るくするキースウッドであったのだが……。

「決まりだな。それならば、俺も行こう」

「ちょっ!」

 自らの主君の言葉に思わず絶句した。

 もちろん、キースウッドとて、ミーアに好感を抱いている。彼女のために何かをするのはやぶさかではないし、シオンの許可さえもらえれば、自分自身が同行してもいいとすら思っていた。

 だからこそ、ミーアに情報を持ってきたわけだし、力を貸す気満々であるとすら言っても過言ではない。大人気のミーアである。

 けれど、シオン自身が危険地帯に赴くと言い出せば、反対せざるを得ない。

「シオン殿下、さすがにそれは……。ご自分のお立場をお考え下さい。あなたは、サンクランド王国の王子なんですよ」

 民衆の蜂起によって、政情の乱れた国に行くなど言語道断。

 基本的には自身のわがままより自国の未来を優先し、正論を重んじるシオンのこと。当然、諫言に耳を傾けてもらえると思ったのだが……。

 シオンはなぜか、してやったりという笑みを浮かべて言った。

「だからこそだ、キースウッド。立場を考えればこそ、俺も同行すると言っているんだ」

「それは……、どういう意味ですか?」

「俺は、別に良き王が勇敢な者である必要はないと思っている。剣の腕で国を治めることもできはしないとも。しかし、同時に、惰弱(だじゃく)な王では大国であるサンクランドを治めることはできないとも思う。違うか?」

「いえ、お言葉の通りだと思いますが……」

 否定できない正論を突き付けられて、キースウッドは実に嫌な予感がした。

 こう……、どうあがいても説得されてしまいそうな……実に嫌な予感を。

「ところで、俺と同じように大国の姫君に生まれながら、学友の身を案じて危険地帯に赴かんとしている者がいる。あろうことか、その者は戦う力を持っていないにもかかわらず、だ」

 シオンはおどけて肩をすくめて、

「そんな姫君の決断を目にして、俺が行くのを躊躇ったりしたら、悪評が立ちかねないと思わないか?」

「それは……」

 暴論……とは言い切れない。

 なにしろ、シオンは大国サンクランドの王子。

 政敵には事欠かない。

 彼らに対して醜聞となりえるような事態は、できうる限りなくすのは理にかなったことと言えないこともなくって……。

 ――反論……できないか? くそ、仕方ない。俺が同行するのはもちろんだが、レムノ王国に潜伏してる諜報員にも連絡しておかなければなるまい。

 幸いなことに、レムノ王国内にも味方はいる。大国サンクランドでは専門の機関を設け、長い期間をかけて、いくつかの国に諜報網を敷いている。

 情報戦の重要性を早い時期から認識した、サンクランド国王の先見性を表すものといえるだろう。

 今回のレムノ王国における民衆蜂起の情報も、この諜報機関を通して入ってきたものだった。

 すでに本国では、軍事介入をするか否かの軍議が開かれているはずだ。

 ――って、それでもこの時期に王子がそんな危険地帯に行くとか、冗談じゃないんだけどなぁ。ああもう!

 キースウッドの頭痛の種は尽きない。

「ミーアさま、私も同行いたします」

 シオンに続き、ティオーナが声を上げた。

 彼女は剣術も嗜んでいる。腕前は未熟ながら、盗賊を討ち果たす程度の実力はある。というか、少なくともミーアよりは強い。

 近衛を連れていけない以上、同行者としては悪くない人材だった。

 ミーアは、ただ黙って、頭を深々と下げた。

 彼女の厚意に甘えることにしたのだ。けれど、

「ミーアさま……、私も行きます。連れて行ってください」

 最後に声を上げた人物を前に、考え込まざるを得なかった。

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