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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第八部 第二次司教帝選挙~女神肖像画の謎を追え!~
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第七十九話 令嬢たちの入浴会議

 ヴェールガ公国は、水が豊富な国として知られている。

 だからというわけではないのだろうが、ヴェールガの飛び地たるこのセントバレーヌにおいても、水関連の施設は充実していた。

 そして、ルシーナ司教の館にも、温泉施設が充実していて……。

「素晴らしいですわ!」

 ミーアは、その施設を見て、思わず、感嘆の息を吐いてしまった。

 大きなお風呂は、二、三十人が一斉に入っても問題ないぐらいの広さがあった。

 巨大なライオンの口からダバダバと、常にお湯が流れ込み、浴槽に湯気を立てている。

「天然の温泉を引いているので、常に新しいお湯が供給されているんです……。あ、洗髪薬や肌に塗る香油なんかも、自由に使ってください」

 レアの言葉に、うんうんっと満足そうに頷くミーア。洗髪薬に関しては、ミーア愛用の馬マークのものはないようだが、それを求めるのは贅沢というものだろう。

 というか、香油などが揃っている時点で十分贅沢だ。

「ええと、それとその……使用人たちも使っている浴場なので、王族の方たちにお使いいただくのは申し訳ないのですが……」

 レアが見つめる先には、三人の姫君、ミーア、ラーニャ、オウラニアがいた。けれど、ミーアは、その言葉を聞いて逆に納得してしまった。

 ――ああ、なるほど……。ルシーナ司教が自分のために使っていると考えるのはイメージに合わない感じがしましたけれど……。引き取って面倒を見てる子どもたちのためにしているのですわね……。

 ゆくゆくは貴族の家の使用人として独り立ちさせるのであれば、身ぎれいにする術を学んでおくべきだろうし……。

 すまなそうに言うレアに、ミーアはゆっくりと首を振った。

「ルシーナ司教の性格からすれば、当然のことではないかしら? わたくしも、セントノエルでは、アンヌと背中の流しっこをしましたし、それを見て、ラフィーナさまは、文句はおっしゃいませんでしたわ。むしろ、一糸をもまとわぬこの場では、民も王もなく、人と人がいるばかり、とおっしゃられて……」

「ああ……。そうでしたね……うふふ、懐かしいです」

 ミーアの言葉に、アンヌがニコニコ笑顔で頷く。

「ミーア師匠もー……」

 一方、オウラニアは、ちょっぴり驚いた顔を見せてから、いそいそと自らのメイドのほうに行く。そのまま何事か話すと、メイドの少女が、驚愕に目を見開いた。

 それから、オウラニアはニッコニコ顔で戻ってきて、

「なるほどー、私もやってみますー」

 どうやら、ミーアに倣うことにしたらしい。

「私も、農作業をした後に、民と共に汗を流すこともありますから、特に気にしません」

 ラーニャもまったく気にする様子はなさそうなので……。

「ふふふ、では、女子チームみなで、お風呂に入りましょうか。楽しそうですし」

 などというミーアの鶴の一声で、全員でお風呂に入ることになった。


 さて……素早く体を洗い、お湯に身を沈めたミーアは……。

「おふぅ……」

 などという、若干、令嬢っぽくない声をあげて、お湯に浸かる。

 ポカポカ、体の隅々に熱が伝わってきて、馬車旅で固まっていた筋肉がほぐれて、FNYっとしてくるのが実感できた。

 ――ふぅむ……このまま寝てしまいたいぐらいですわ……。

 なぁんて、思考のほうまでFNY(ふにゅ)けて……もとい、腑抜(ふぬ)けてきたところで……。

「ところで、ミーアさま、明日はどうなさいますか?」

 ふと見ると、ティオーナが隣に来ていた。

「そうですわね……。クロエにお願いしてありましたから、午前中は商人の方たちと対談して、その後で町のほうを回ろうかしら……」

 仕事を午前中に終わらせて、午後は観光を満喫する気満々のミーアである!

「あるいは、港のほうに見学に行くのも良いと思いますけれど……」

 とれたての魚はたいそう美味である、とリオネルが話していたのを思い出す。

 ――先ほどの晩餐会でも、お魚料理がなかなか食べ応えがありましたし……うふふ、楽しみですわ。

「魚料理……興味ある、です」

 ミーアと同じく、じゅるり、っと口元を拭うのはリオラだった。どうやら、リオネルの狙い通り、すっかり魚料理の魅力を、わからせられてしまったらしい。

 ――うふふ、気持ちはよくわかりますわ。

 などと親近感を覚えていると……。

「もう、リオラ。そういうことじゃないわ。ミーアさまがおっしゃられているのは」

 ティオーナが苦笑いを浮かべて、リオラに言う。それから、ミーアのほうに向きなおり……。

「まだルシーナ司教の思惑が読み切れないから、観光でカモフラージュをしつつ、例の肖像画のことを調べる、ということ、でよろしいでしょうか……?」

 その言葉に、ミーアは素直に頷こうとしたが……ふと、リオラに罪悪感を覚える。むしろ、リオラのほうが正解だったわけで、そのことで彼女を間違いと言うのは、なんとなく気が咎めたので……。

「ふふ、少し違いますわ。ただ、カモフラージュするだけではもったいない。お魚もたっぷり楽しもう、ということですわ」

 ミーアの言葉に、リオラは嬉しそうに、おお、お魚楽しみです! などと歓声を上げる。

「もう、リオラ。しょうがないな……」

 苦笑するティオーナに、ミーアは言った。

「せっかく、セントバレーヌに来たのですから、あまり、固い話ばかりではもったいないですわ。ティオーナさんも、もっと肩の力を抜いて、楽しみましょう」

 ミーアの言葉に、一瞬、ポカン、と口を開いたティオーナだったが、

「わかりました」

 小さく頷くのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] オウラニアとメイドの関係が個人的に好きです…… 話が進むごとにアンヌとミーアみたいになったりするのかな?
[良い点] お風呂タイム。その団欒の様子にええなと思う。そしてミーア様毎回違う意味で将来が心配なる漏れる声…… [気になる点] 既に感想に過去に書いてる方いそうですけどやっぱりヴェールガ公国はカルデラ…
[良い点] >>そのまま何事か話すと、メイドの少女が、驚愕に目を見開いた。 それが普通のメイドの対応ですよね? 仮にミーアのメイドが前と同じくペトラだったらラフィーナの前で同じことが繰り広げられてい…
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