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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第八部 第二次司教帝選挙~女神肖像画の謎を追え!~
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第七十二話 最悪とはなにか?

 それから、ミーアたちは教会の中を見て回った。

 最初は、敵対的な態度を取られるか? などと思っていたが、そんなこともなく……和やかな雰囲気の中で回ることができた。

 ――これは、やはり、最初にお仕事を褒めたからかしら? ふふふ、さすがはアンヌですわ。

 恋愛大軍師こと、腹心アンヌの識見の正しさを、改めて実感するミーアである。

 教会堂の中はとても広かった。なかなかに見甲斐があり、じっくり歩き回った結果、ミーアのお腹の具合もすっかり整ってきていた。軽くお腹をさすり、自らの胃と語らい合ってから、ミーアは、うんうん、っと満足げに頷いた。今ならば、大海の幸を食べ尽くすことはできずとも、ノエリージュ湖の幸ぐらいならば平らげることができそうだ。

「ルシーナ司教、案内に感謝いたします。とても良い教会であることが、よくわかりましたわ」

 ミーアの言葉に、特に感想を返さず、ただ、穏やかな顔で頷いて、

「では、そろそろ、屋敷へとご案内いたします」

 と、その時だった。

「それでは、ミーアさま、私は、このあたりで」

 そっとクロエが寄ってきて言った。

「ああ、そうですわね。ふふふ、今日は親子水入らずですわね。お父さまによろしくお伝えくださいませ。明日から、商人の方たちへの顔繋ぎ、よろしくお願いいたしますわね」

 ミーアの言葉に、クロエは小さくはにかんで、

「はい。わかりました」

 それから小走りに出て行った。

「ミーア姫殿下、あのお嬢さんは……」

「ああ。彼女は、クロエ・フォークロードといいまして、フォークロード商会のご令嬢ですわ。彼女のお父さまには、我が帝国も大変お世話になっておりますの」

 ミーアの言葉を聞いて、ルシーナ司教は納得の頷きを見せる。

「なるほど。あれが、フォークロード卿の……」

「あら、ご存知ですの?」

「もちろんです。セントバレーヌは商人の街。フォークロード卿も、その中のお一人ですから」

 そう頷いたルシーナ司教であったが……その顔に、ミーアは、かすかに苦み走ったものを感じ取った。

 ――あら……。今の顔は……。ルシーナ司教とこの街の商人たちは……もしや、あまり上手くいっていないのではないかしら……? あるいは、関係自体は上手く行っていても、ルシーナ司教は商人たちを快く思っていないか……ん?

 と、その時だった。不意に、いやぁな想像がミーアの脳裏を過った。

 それは、例の肖像画を撒いた者たちの思惑についてだ。

 馬車の中、ルードヴィッヒは推測を語った。

「あの肖像画は、民衆の不安感の産物ではないでしょうか?」

 と。

 ミーアも概ね、その見解には賛成だった。

 民は目に見えるものに頼りたくなるもの。食料を背負ってやってくるミーアの旗印に頼りたくなるのは、わからなくもない心理だ。

 あるいは、口から出まかせで言ったものの、蛇が悪意のもとにやったということも考えられる。ミーアとヴェールガ公国の間をこじれさせるために撒いたもの、というのは、十分な説得力がありそうだった。

 その場合は、厄介だが潜む蛇を炙り出す必要があるだろう。

 しかし……だ。それならば、まだ、最悪とは言い難いのではないか、と、ミーアはそれ以上に最悪な可能性を、この瞬間に思いついてしまった。

 すなわち、あれが「意図的にミーアの権勢を高めるため」に撒かれたものであった場合である。

 それこそ、ヴェールガ国内では比較的、影が薄いミーアの存在を人々に知らしめるために、誰かが撒いたのだとしたら、どうなるだろうか。

 ――そうですわね。わたくしを錦の御旗として勢力を糾合し……ルシーナ司教に対抗するためにやった、商人たちの仕業とかだったらどうかしら?

 セントバレーヌはヴェールガの飛び地ではあるものの、その支配はこの地の商人たちに委ねられている。派遣司教であるルシーナ司教には、実質的な権限はほとんどないはずで……というのは、あくまでも建前だろう。

 実際にはルシーナ司教がその気になれば、商人たちに対する掣肘を強めることもあるかもしれない。

 もし、両者の関係が悪化したとしたら……そして、ルシーナ司教への牽制のために商人たちが、ミーアの力を使おうとしているのだとしたら……。

 ――いえ、あるいは、もっと単純に、わたくしの味方であるフォークロード商会や、シャロークさんの商会の誰かがやったことだったら……。

 それこそ最悪の事態だ。あの女神肖像画がミーアの命令で作られたものだと言われかねない。

「どうかなさいましたか? ミーア姫殿下」

 怪訝そうな顔で聞いてきたルシーナ司教に、ミーアは、朗らかな笑みを浮かべる。

「おほほ、いいえ、なんでもありませんわ。それよりも、行きましょう」

 ともかく、調べる必要がある。

 可能性だけならば、なんだって考えられるのだ。不安は、放っておくと育つ雑草のようなもの。そして、その雑草は、せっかく蒔いた種を枯らす厄介な代物なのだ。

 ――明日、クロエにお願いして、商人たちに事情を聴かなければ……。

 心の中で決めつつも、ミーアは教会を後にした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ミーアちゃんがまた、一歩前進した話に、大興奮。 [一言] 「この一歩」は「以下省略」でも「ミーアちゃん」には「偉大な一歩」なので、思わず感想を書いてしまってます。 なんて、とにもかくにも、…
[良い点] >>今ならば、大海の幸を食べ尽くすことはできずとも、ノエリージュ湖の幸ぐらいならば平らげることができそうだ。 空腹感を覚える状態になってもそれなりに頭を働かせられるようになったんですね……
[気になる点] 仮に蛇がミーア女神肖像画に関わっていたとしたらルーシナ司教や教会的にもミーア様と協力して蛇対策を取るだろうが、やはり女神等の偶像崇拝は認め無いだろうが民衆がミーア様を女神と認めたらどう…
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