第六十話 うん? ……うん!
生徒会室に戻ると、幸いにも、みな帰ってきていた。
リンシャとリオラの留守部隊の手によって用意された、焼き鳥サンドイッチを片手に、話し合いが始まった。
「おお……。ふふふ、ちょうど小腹が減っておりましたのよ。さすがの配慮ですわ」
ひさしぶりのデートと謎の肖像画により、すっかり疲弊、空腹状態になっていたミーアは、さっそく、サンドイッチをパクリ。もぐもぐ。
パリリッと焼けたパン、ジュジュワッと口の中に広がる肉汁に舌鼓。
うん、うん……とうま味を確認するように頷きながら食べ、人心地ついたところで、満を持してと言った感じて、クロエたちが口を開いた。
「やはり、本は値段の高さがネックだと思いました。市場で見かけた本ですが、どれも、とても高くって。一般的な庶民にはとても手が出ないようなものばかりでした」
クロエの言葉に、ミーアは、ふんむ、っと頷く。
「……言われてみれば、その通りですわね。では、素材のクオリティを下げて、人々の手に行き渡るようにする必要があるかしら……?」
その問いかけに、クロエは、ニコリと微笑み……。
「そうですね。それに加えて、重要になってくるのが、ミーアさまが仰っておられた、例の栞だと思います」
「はて……? 栞、ですの?」
「はい。キノコの栞です」
その言葉を聞いた瞬間、ビクッと肩を跳ねさせる者がいた。
キースウッドが「そ、そんなことになっていたのか!?」などと驚愕の表情を浮かべていたが……。まぁ、それはさておき……。
「ああ、あれ……。なかなか、わたくしとしては良いアイデアだと思っておりましたのよね」
「はい。極めて斬新的かつ、画期的なアイデアだと思います」
クロエの言葉に同意するように、ラーニャ、ティオーナ、アンヌが頷いている。
みなに同意してもらえて、ミーアもご満悦であった……のだが。
「食べ物を販売し、そこに集まった人に朗読を聞かせる。食べ物を栞とする……。素晴らしいアイデアだと思います」
「うん? ……うん!」
一瞬、疑問の声が出そうになるも、再び頷くことで誤魔化す。
「そう……でしょう? ええと……せっかくですし、ほかのみなさんにも、仕組みをお話ししていただけないかしら?」
「あ、はい。それなんですが、実は、資料を作っていて……」
そう言って、クロエが差し出してきた紙に目をやり……、ミーア、思わず唸る。
――なぜ、キノコの栞が……こんなことに?
戸惑うミーアを置き去りに、クロエたちのチームが解説を始める。
「食べ物を栞にする、すなわち、食べ物、お菓子などを買った人たちに物語を朗読して聞かせていく。区切りの良いところまで行ったら、続きはまた次回、といった具合に、ちょうど買ったお菓子が食べ終わるぐらいで話を一区切りさせます。物語の続きを聞くために、人々は、その食べ物を買いに来るし、どうしても気になった人は本を買うかもしれません」
クロエは眼鏡をクイッと上げて、
「貸本にした場合、一人が長く本を独占するのがネックでしたが、これならば、多くの人たちが同時に物語に触れられる。しかも、続きを楽しみにしてもらえれば、不安感は徐々に薄れていくのではないでしょうか」
後を継ぐように、ラーニャが話し出す。
「それに、ここで販売するお菓子を、ミーア二号小麦にしたらどうかって思うんです。例の茹でたお団子の作り方を人々に知らせていけば……」
寒さに強い小麦と、その最適な料理の仕方を周知させるためにも役に立つかもしれない。
「商売としての体裁も取れると思うんです。巡礼商人や旅商人に協力してもらえば、各国で物語を広めることができると思います」
娯楽性が強い小説なので、教会の貸本に加えてもらうわけにはいかない。けれど、商人であれば、少しでも金になるなら引き受けてもらえるかもしれない。
その完璧な計画を前に、ミーアは、うーむむっと唸り、
――なにやら……わたくしが思っていたのとは、まったく違うことを考えているようですけど……。うん、まぁ、結果オーライですわね!
ミーアは自分の考えに固執しない。波に逆らって、元居た場所に留まろうとなどしないのだ。
自由気まま、融通無碍、それこそが、海月のミーアの真骨頂。
むしろ、波に乗っていくことこそが、ミーアの基本戦術なわけで。
「朗読は良い手段ですわね。あるいは、もう少し規模を大きくして、劇団の演目にしてもらうとかも良いかもしれませんわ。以前、帝都に公演に来た移動劇団の方とお話ししたことがございましたけど……」
「なるほど。それもいいですね。素晴らしいアイデアだと思います。朗読よりも多くの人々に知ってもらえると思いますし……」
などと、楽しくアイデアを交換した後で、ミーアは、小さく咳払いをした。
「さて、それはそれとして……一つ問題が起こりましたの」
「問題、ですか?」
首を傾げたのはレアだった。
……ちなみに、レアとリオネルにオウラニアを加えた海鮮部隊の面々は、港に行って、いろいろなお魚を見学していたらしい。まぁ……本の役に立つかは微妙だが、共同研究所の建設のためには、意味があることだろう。たぶん……。
それはともかく……。
「実は、わたくしとアベルは、挿絵に良い絵がないか、良い絵描きがいないかと思って、絵画店に行きましたの。そうして、見つけてしまったのですけど……」
ミーアが差し出した物、それは、一枚の絵だった。
「こんなものを見つけてしまいまして……どうしたものかと思っておりますの」
絵の梱包を解き、中が露わになった時……その場のみなが息を呑むのがわかった。
なんだかんだで1000話到達です。
まぁ、間にキャラ紹介などもあるので、厳密に1000話かは微妙なのですが……思えば遠くまで来たものです。これもみなさまの応援のおかげです。これからも頑張ります。
それはそれとして、そろそろキャラ紹介を入れる必要を感じる今日この頃です。




