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第1もふ。「5月は、もふもふと遭遇(であ)う」/第2もふ。「6月はもふもふと決闘(バトる)」


――あるところに、ハッピーエンドともふもふをこよなく愛する泣き虫の少女がいた。


 そんな少女に訪れる「終わり」を書き換えようと命を賭けた少年がいた。


 これは、そんなふたりとふたりを取りまく「守るものと殺す者」の物語だ。




 オレは思う。


 世界はもふもふに埋め尽くされるべきだと。


 小さいころから好きだったもふもふ。


 小さい頃、その生き物はにゃあんと鳴き、オレをひっかいた。

 

 当然泣いた。

 

 だけど、それでも嫌いになれなかった。


 だって、ねこ可愛いじゃん?

 あったかいじゃん?


 やわらかくて、ハグするともふもふじゃん?

 

 生まれたときから暮らしていたねこはもはや家族で、友達で、そのもふもふが大好きだった。

 

 ねこからはじまって犬を好きになり、ウサギやハリネズミもありだなって思うようになった。


 でも、これからオレが紹介するもふもふは、もっと面白い生き物だ。

 

 最高にクレイジーで、最高にかっこ……ダサくて、そして意外と可愛いところもある。


 そんな変なやつ。

 

 え、恋? しないしない。

 しないったらしない。


 あんな鹿で馬(と書いて馬鹿)な変態野郎とラブするとかありえない。


 この物語は、きっとそんな結末にはならない。


……よな? 







 そのもふもふと遭遇エンカウントしたのは、今から1×年前……。


 つまり、令和元年。

 

 五月の雨がしとしと・ジメジメした図書室<ライブラリー・ダンジョン>の中だった。



 令和元年。


 新しい時代の幕開けに心躍るようなそうでないような。


 そんな新しい時代がはじまってから12時間と12分。


 朝なんて、テレビでは令和元年生まれの赤ちゃんやパンダが話題になり、超人気おネエ占い師は赤ちゃんパンダを模したぬいぐるみを抱き上げながらこう言った。


「令和時代はねえ、癒し需要がパワーアップしもふもふしたラブリーな生き物が注目されるはず! ズバリ、令和エクストリームもふもふ時代到来よっ❤」


 だから、きっとオレ得の時代になるはずだ。


 と、通学路では猫を探しながら歩いた。

 

 曲がり角で猫とぶつかるかもしれない! 

 空から猫が降ってくるかもしれないと!


 なんていうのはさすがにジョークだけど、本当はわくわくしていた。

 

 なにかと出逢いそうな、そんな日だと。


 だから、自分の愛読書を読んでいる、やたら目つきの悪いもふもふの毛並みのをみつけたとき「運命」だと思った。


 犬の耳も猫の耳も生えていない。

 しっぽもひげもない。

 

 でも、そっくりなんだ。

……なにに? 


 なんだろう。


 でも、そっくりだと感じたんだ。 




 「あ……」


 目が、合った。


 ばちっ、と電撃が走る。


〈 〈 チャラチャラチャラチャラチャラー!! 〉 〉


――野生のモフモフが現れた!!


 モフの「にらみつける」!!


 どうするオレ!! 

 どうするアイ○ル!!


 ①逃げる

 ②モフる

 ③エサ投げる


 FAこたえは……これだ!!


……くらえっっ!!


 ④「じっとみつめる」!!



 オレはめっちゃみつめた! 

 にらみ返す勢いで! 


「おうなんだよ、やんのか!!」ぐらいの天孫(てんそんではない。テンション)で!!


――野生のモフのターン!!


 おっと、モフはかわした! 

 モフの「目をそらす」!!


 モフモフトレーナーの「ナオ」は負けた……。


 存在ごとなかったことにされ、(涙で)目の前がまっしろになった……。


 って妄想してる場合じゃないぞ。


 無視された。


 オレもあの小説好きだから、仲良くなりたかったのに。


 仕方なく元の椅子に座り、こっそりと例のモフを再確認する。

 

 鋭い青い炎に似た輝きは切れ長の三白眼が窓ガラスを通した光を反射しているんだろうか。

 

 脱色したような髪がさわさわと揺れている。

 

 長すぎることはないけど、あのふさふさとした感じ。

 

 触ったらどんな感じなんだろう。


 なんていうか、狼とか狐とかそんな感じだ。


 狂暴そうだから狼男みたいだって言ったらシメられそうだなー、なんて妄想する。


 そんなこんなで本を読むフリで観察を続けていると、チャイムがなった。


 昼休み終了のお知らせだ。


 いまさらながら、おなかへった。


 昼ごはん前に待ちきれずちょっと続きを読むはずが、ついつい読むふけってしまった。

 

 さすがにごはん抜きはきつい。


(どうしよ……)


 そんな風にうなだれながら、とぼとぼと図書室を出ようとすると、どん! 


 となにか硬いものにぶちあたった。


……なんだ!? 野生のぬりかべ!?


 見上げるとそこには、ぎらりとした鋭い眼光の狼にクリソツなクリーチャーがいた。


……さっきのモフだ!!


 オレはざざっと後退し、臨戦態勢に入った。


「邪魔」


……モフが……モフが……。



 しゃべったあああああああああああああああ!!


 オレは真面目にびっくりして、一歩引いた。


 野生のモフはそんなオレの横をすいっと通ると、ずいずいとそのまま奥に進む。


 そして、手に持った本をおもむろに本棚に押し込んだ。


 その手つきは意外にも優しくて、気が付くとぼーっとみつめていた。


 モフは再びこっちにやってくると「邪魔だ、ガキ」ともう一度、眉をしかめた無表情で言った。


 されど無理やり押しのけるでもなくオレと本棚の間の狭い道をすい、と通ってまた去っていた。



……令和元年、5月1日。


 梅雨前なのにフライングで雨続きな、今日この日。


 平和で平凡な、初夏の図書室で。


 こうしてオレは、「もふもふと、出遭であった」





 その後しばらく、図書室に行くたびに例のもふもふに遭遇した。


……が、たまに目が合ってギロリとにらみつけられるだけで、特になんのイベントもなかった。

 

 もふもふフラグを折る以前にフラグそのものが立たなかったのだ。がっくりである。


(あのもふもふの髪、触らしてほしかったなー……)



 と頬杖をつく日々にも飽きてきた。


 だが、一か月がたち……六月。

 

 暑さも徐々にヒートアップ、もふもふイベントを味わえないオレはヒートダウンな……そんなさなかのこと。


 いつも通り図書室で本を読もうとして、ふと、ペリーポッターの続きを読もうと思い立った。


……が、すでに借りられていて、しょんぼり……。


 するオレではなかった。


……これだ!!


 オレは、超早ちょっぱやで目的の本棚に駆け寄り、一冊の分厚い本を取り出す。

 

 やがて、ぺらぺらめくりながら、周囲をさりげなく(?)うかがっていると……。


<<チャラチャラチャラチャラチャラー!!♪ >>


――やっぱり!! 


<< 野生のモフが現れた!! >>


 モフは、静かに本棚へと向かう。


 最近気づいたが、モフはそのオレより30センチ以上は高いだろう巨体とは裏腹に、少なくとも図書室で見る限りはずかずか歩かない。


 本を取り出し、しまう丁寧な手つきもそうだけど、もしかしたらそこまで不良生徒ってわけでもないのかもしれない。

 

 ともかく、凶悪面モフは迷うことなくそのコーナーの前に立つと、はっきりと聞こえるぐらい舌打ちをした。


「チッ……」


 足音荒く、来た道を戻りながらもう一度オレを見やり、そして……。

 

 その目が、カッ、と見開かれた。


 ふふふ……。


 本で顔を隠し、こっそりと忍び笑いをする。


 そう……今オレが読んでいるそれこそ、この前モフが読んでいたペリーポッターの続刊!!

 

 どうだどうだ、おみそれしただろ!


 予測通り、モフが近づいてくる。かなりいら立っているらしく、足音がいつになく乱雑だ。

 

 そして……。

 威風堂々とオレの目の前に立った。


 思わずにやけそうになり、さっと本で再び顔を隠す。


「……おい」


(やった!! カツアゲイベント来た!!)


 己の身に危険が迫っているにも関わらず興奮気味な、怖いもの知らずのオレとモフを遠巻きにみていた生徒の何人かが、さっと視線を外した気配がした。


 華麗にスルーされて、むっとしたんだろう。


 本を無理やり奪い取ろうとでもしたのか、長い腕を伸ばし……そして、引っ込めた。


(……ん?)


 疑問に思っていると、モフは踵を返し机を回って、オレの隣の席にどかっと腰を下ろした。

 

 そして、内心ドキドキしつつ本を読むふりをしているオレをたっぷり10秒じらしてから、口を開く。


「よめ」


……嫁!!!???? まさかのケコーン(結婚)!!!!


 頭をよぎった明るい家族計画にぞっとしていると、「いいからよめ」とわずかにイラついた口調で、モフは顎をしやくった。



……あ、「読め」か。


 ようやく納得し、ページをめくる。めくるが。


……こしょばゆ!!/// 


 もふが横から眺めよるせいで、吐息がめっちゃかかる。

 

 こそばゆさと謎の羞恥心にかりたてられ、だんだん体が熱くなってくる。


 ええい、早く終われ!! 

 いや、むしろ、終わらせるんだ! 


 YES、YOU CAN!!

 

 某通信教育のキャッチを心の中で叫び、オレはえいやっと、高速でページをめくった。

 

 そう、さながら昔懐かし、パラパラマンガのように!


 天孫テンション高めにふんふんとページをめくり続け、とうとう最後のページ、という手前で。


「……おい」


 ドスの利いた声を浴びせられ、ハッと正気に返った。


……やばい、殺られる!? 


 MK5(マジでころされる5びょうまえ)!!


 モフは本の隅をつかんでいるオレの手を、ガッとつかむと無理やり引きはがし……て、あれ?

 

 生まれたてのひよこに触れるぐらいの柔らかな手つきで、モフはオレの手を包み、そして、ぺいっとほおりだした。


 がつっ。


 放り出されたオレの手は、思いっきり椅子のカドにぶつかる。


「~~っっ!!」


 いったいなこのっ!! 


 という文句を押し殺し、オレは凶悪なモフを、きっ、とニラみつけた。


 すると。


 これまで無表情か不機嫌そうな顔しかしなかったモフが……微笑った。


「クク……」


 ただし、獲物を前にした狼<ケダモノ>なめずりをするような、全国の女子供がギャン泣きするレベルの凶悪面で。


 そんな顔面凶器系暗黒微笑を前に、オレは。


(……笑ったあああああああああああ!!)


 そう、「超感激」していた。


 至近距離で観察できた、野生のモフの初スマイル!! 


 はっ、カメラはどこ! 

ケータイどこ!!


 超デレているオレをよそに、モフは得体のしれない生き物をみるような目つきでめっちゃえていたけど、そんなの知らぬっ!



 六月、そろそろ暑苦しいジメっとした図書室の中、オレとモフは決闘<バト>った。

 

 なお、勝敗は今度こそ、モフモフトレーナー・ナオ、WIN! の様子であったという。



 追伸。


 翌日、ペリーポッターの続きを読もうとしたら、一枚のメモがはさんであった。


『うぜえ』


 むっかあああああ。


 オレはメモを破こうとしたが、ひらりとなにかが落ちる。


「……ん?」


 人差し指と親指でつまんだそれは、なんの変哲もない絆創膏だった。


……もしかして、メモだけじゃなく、わざわざ一緒に絆創膏も挟んだ?


 オレは己の手の甲をみつめ、じんわりと赤くなっているがなんの手当もしていないそこに、そっと触れた。


「……へんなやつ」


 フィルムをはがし、ぺたり、と張る。


(あいつ。あののっぽのもふもふ野郎。発言と言動が時折まるでちぐはぐじゃん)


これはまさか、世間に言う……。


「ツンデレ?」


思わず声に出してしまった。


 なんだなんだ、可愛いところあるじゃん。


オレは楽しくなって、立ったまま伸びをした。


 さながら、日向ぼっこしているにゃんこのように。



 そんなオレはまだ知らない。 


 この平穏な日々を壊そうとする者がいることを。


まだ、知らない。


この出逢いははじめてではないことを……。




~次回宣伝A~


オレ「はじめて会った時から……オレ……おまえのこと……」

モフ「……………」


オレ「めっちゃモフりたい! って思ってた!!」

モフ「あっそ」


オレ「というわけで!(?) 第2話、“6月は、もふもふと決闘バトる”でした!」

モフ「うぜえ」


~次回予告B~


ナオ「くっくっく……天上天下唯我独尊!! 最強のモフトレ(※モフモフトレーナー)である我の勝ちなり!! どうだっ!」

モフ「…………」(どうでもよさそう)


ナオ「オレ様の恐ろしさに、声も出ないようだな! 哀れなりモフ!!」

モフ「ああ、哀れだな」(お前の頭が)


ナオ「というわけで次回は! 「7月はモフモフがいない」です! ざまあ!!」

モフ「…………」(恋をするんじゃなかったのかよ……)


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