第15もふ。「7月は、4匹のもふもふの交差点」
奇跡ってほんとうにあるんだな。
こんな嬉しいことって、幸せなことって。
ちゃんとあった。ここにあって、ずっとあって、きっと運命ってやつで。
なにげない会話が楽しい。
なにげないふれあいが輝く軌跡をまとって、あたたかい未来への道筋になる。
なんて、妄想かな? 夢かな?
そう思って触れると、やっぱり暖かくて。
こんな冷めた眼差しが溶ける瞬間は、きっとわたししか知らないんだろうな。
笑顔の仮面なんかなくても、もう笑える。
おまえの前だったら、心からの笑顔が、幸せが溢れ出る。
きゅうび、大好き。
わたしの心臓をこんなにも高鳴らせる、奇跡みたいで、神さまみたいな、もふもふなおまえ。
現在に嘆いて、未来がみえなくて。笑顔の仮面ひとつでモノクロの世界と戦ってきたこともあった。けれど、心からの笑顔を今なら。
それでも、一人称だけはオレのままで。
もうほとんど覚えていない、むかしむかしの約束を守ったままで。
ああ、どうしようか。こんなに可愛くて格好いいおまえと過ごす日々がこんなに当たり前にここにある。
失わないかな? また忘れちゃわないかな?
もー、今が永遠に続いたらいいのに!
「何考えてんだ」
「ふぁ!?」
「アホ面さらしやがって」
「ふぐぬ、なにしゅる」
むんず、と鼻をつまんでくるから抗議する。
「簡単にデレてんじゃねーよ、きもちわりぃ」
「おまえなーーー!!!」
照れ隠しだってわかってるけど、気持ち悪いとはなんだ!
繊細な乙女心わかってんのかこいつ!!
ふしゃーー!!
と威嚇モードで目を3角にすると、ぶふっと笑われた。
「笑いやがって......もーゆるさん」
「ほう? 反撃でもしようってか」
「100倍返し!! してやるからなカーバ」
盛大にむくれながら再びにらみつける。
「色気ねぇ罵りしてんじゃねえ。食う気うせるわ」
「空気うせる?じゃー酸欠で死ね!!!! 」
「相変わらず日本語通じねぇしな」
「おまえこそいちいち罵りすぎ。ちょっとは褒めろよな」
「生意気。歯ごたえがある」
「......ん?」
聞き間違えかと思って聞き返す。
「愛嬌がある。バカだが」
「バカは余計」
「感情豊か。良くも悪くも」
「悪くもも余計」
「チビ。ガキ。無邪気。だから放っておけねぇ」
「ん〜??」
なにを言いたいのかと先を行くきゅうびの背をててっ。と追いかける。
「危なっかしいにもほどがある。ロリコンホイホイ。だから隣にいねぇと落ち着かねぇ」
「ん〜〜!?」
続きが気になって。わかりそうでわかりそうな結論に。届きそうな背中に手を伸ばす。
ぱしっ。とその手を掴まれる。ぐいっ、と引っ張られて広い胸に倒れ込む。
ふわっ。と香る、とてつもないいいにおいにくらっとした。
「傍にいろっつってんだ。お前がいないとつまんねぇ。もう離れんじゃねえぞ。逃げたって無駄だからな」
うぐってなるほど強く抱きしめられて、背中がしなる。
「ちょ、きゅうび苦しい。嬉しいけど最後こわいし」
「世界の果てまで追いかけて、ぜってぇ捕まえてやるからな」
「こわっ。ヤンデレじゃん。間にキー入れてよ」
ヤンキーデレのほうがまだ可愛い。病んでるデレのほうは全力で遠慮したい!!
「くそ......アホが。むかつくんだよ」
「なになに!? さっきからなんなのおまえっ」
「変態ロリコン野郎と同棲してんじゃねぇよ。普段ナニしてんだ」
「同棲じゃなくて同居! ロリコンてひょっとしてうさくんのこと? 風評被害がすごい!!」
「キスマークなんぞ付けやがって......上書きしてやるからな」
「ちょ......なんのことかわかんないけど首のとこなら虫刺され! 誤解がすごい!!」
「ぶち犯したるわ......」
「ひゃっ。たすけ......お......オマワリさーん!!」
万力みたいに抱きすくめられて背中はみしみ言うし、発言こわいし鼻息荒いし。これってもはや貞操の危機なんじゃないかな!? 今すぐ逃げないと登校どころじゃなくなる! たすけて警察のひと! もしくはうさくん! あるいはそこでちらちらこっちみてる通行人Aさん!!
急にぐいっと後ろに引かれて、拘束が緩んだ。
「呆れた......なにしてるんだ君は。公衆の面前であれなのか。さすが噂の強姦魔は一味違うね」
きゅうびの首根っこを引っつかむようにしたのは、少し背の高いかっこいい男の人......ん!?
女の人?? スカート履いてる。あとめっちゃ美脚。あ、胸もちゃんとある。控えめだけど。
「てめえ邪魔すんじゃねぇ。あとそのネタいつまで引っ張る気だ。」
きゅうびがぐるると威嚇する狼のように剣呑な声を出しにらみつける。
「風紀を正すものは僕が許さない。これでも風紀委員だからね。あと服装。その髪も服装もふざけすぎだろ。言わないとわからないのかな。バカにつける薬はもう硫酸しかないのかな」
「早口すぎて何言ってんだかわかんねぇがなにを怒ってやがる。嫉妬か?」
――ボスッ!!
風圧に目をつむり瞬きをすると、群青色のスカートから除くキレイな長い足がきゅうびの腕にスマッシュヒットしていた。
きゅうびは顔を庇って腕を上げたみたいだ。
でもその頬には切り傷がある。
ローファーの角でぴっと切れたんだろう。
「......君は本当にバカだ」
女の人は毅然と口を引き結んだ。眉は強気につり上がってるけど、その瞳はどこか潤んでみえた。
「............」
きゅうびは黙った。その瞳は凪いでいるようでいて、青いとろ火がゆらめいている。
本当は動揺してる?
「バカだ。本当に」
女の人は目をぬぐって、背を向けた。
きゅうびはやっぱり何も言わない。女の人を静かにみつめたままだ。
やがて先にある校門に消えるまで、きゅうびはその人が去っていくのを黙ったままみつめていたが、その背中が見えなくなる頃に息を吐いた。
「ナオ。行くぞ」
そう言って、手を引く。
複雑な気分で、引っ張られながらその早足について行く。
あの女の人、きっときゅうびを好きなんだとはっきりわかったから。
そしてきゅうびももしかしたら......って気づいたから。




