表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異星探索はチャイムのあとで  作者: 123456789
第1章。入試
8/12

[008]3月の№8 デスゲーム試験。 

 久し振りの長期の休暇、何せ年末、3月4日№279、大晦日という奴ではあるが、家事スキルを持つ者によってあっさりと掃除が終わり、暇になった事で、思い思いの時間ではある、PTと共闘中のPTの5名は、集まって生産実験。

 飛行状態の生産スキルによる、料理同士の複合レシピは既にある、これにより地上・飛行の両用の料理が作れ、これを応用しての生産を行う。

 最初は基本的なHPポーションに浸したハンカチ、これに飛行状態の俺が付与のエンチャクトで接合し、完成した物。

 ▽[詳細]

 名称 ヒーリング生地 種類 生地

 等級 通常級 耐久度 10/10

 品質 ☆×1 完成度 1

 効果

 HP回復+30:MP微弱回復

 飛行+1:一時的な飛行可能

 ▽

「おお、これは凄いわ」


 アキラが大喜び、光姫も性能の良さには満足げに深紅の髪を手で払う。


「これは革新的な物だ。もっと早く生産を行うべきだった」


 光姫の嬉しそうな悔しそうに言葉に、俺も次に移る。


「物質の核を追加するぞ」


 ヒーリング生地に追加した。

 飛行+2になる程度ではあるが、性能の向上は効果限界によって制限され、素材の増加方式もこれには出来ない為に、地道に上げていくしかない。

 今日の為に用意していた素材を大量に消費し生産を行い、裁縫師のアキラが色々な所に新商品の宣伝を行い、既に多くから交渉の話が来ていた。

 生産を行い続け、品質が7に上がった品質限界に達し、素材を通常ランクに挙げて同じ様に品質限界まで上げて次に上級、次に高級、次に最高級。

 ▽[詳細]

 名称 ヒーリング生地 種類 生地

 等級 通常級 耐久度 350/350

 品質 ☆×7 完成度 1

 効果

 HP回復+210:HP大回復

 飛行+210:一時的な飛行可能

 ▽

「よし中々の好成績だ。MPを追加するぞ」

 ▽[詳細]

 名称 ヒーリング生地 種類 生地

 等級 通常級 耐久度 350/350

 品質 ☆×7 完成度 1

 効果

 HP回復+210:HP大回復

 MP回復+210:MP大回復

 飛行+210:一時的な飛行可能

 ▽

「ひとまず通常級は完成か、これでマシな資金源となるな」

「次は、予定では生産級ね」

「予定通りだ」


 完全な専用の生産級素材を使い、ヒーリング生地専用の素材を使う事で性能は飛躍的な前進を見せる。

 ▽[詳細]

 名称 ヒーリング生地 種類 生地

 等級 生産級 耐久度 35000/35000

 品質 ☆×7 完成度 100

 効果

 HP回復+210:HP大回復

 MP回復+210:MP大回復

 飛行+210:一時的な飛行可能

 硬さ+210:防御力微弱向上

 軽量+210:重量軽量化

 ▽

「好い結果だ。さて生産イレギュラー級と行くぞ」

「OK」

「任せろ」


 完全な専用の生産イレギュラー級素材を使い、ヒーリング生地は異彩を放つ物となる。


 ▽[詳細]

 名称 ヒーリング生地 種類 生地

 等級 生産級イレギュラー 耐久度 35000/35000

 品質 ☆×7 完成度 100

 効果

 HP回復+210:HP大回復

 MP回復+210:MP大回復

 飛行+210:一時的な飛行可能

 DEF+210:防御力向上

 軽量+210:重量軽量化

 ▽

「うむ。完成だ」

「ミツナも早く来ないかしら、あの子も色々と有るから」

「とあも三つ目との約束か」

「ノーコメント、流さないわよ」

「本人より相談を受けた」

「正式な発表まで沈黙」

「言うのもなんだが、あれはダメだな」

「どういう事?」

「完全に惚れていた」


 脈しかないらしい事に、アキラも他の者も安堵の吐息が軽く流れた。


「世間話はこれ位で、別の実験をするぞ」

「OK」

「俺としてはこの薬師の調合ポーチの生地がいい」

「よし、やってみるぞ」


 薬師の調合ポーチの生地、普通の生地ではなく、内部の薬品などの品質・効果を上げる驚異的な薬品ポーチの生地だ。


 ▽[詳細]

 名称 生地 種類 生地

 等級 通常級 耐久度 10/10

 品質 ☆×1 完成度 1

 効果

 品質向上:品質が上がる

 効果向上:効果が上がる

 飛行+30:一時的な飛行可能

 ▽

「・・・まっ最初だしな」

「性能悪!」

「粗悪品どころではないぞ」

「いつも通りループ行くぞ」


 毎度のようなループ生産、ひたすらループを行い、品質向上、効果向上が中々数字が付かない、結局品質限界に達し、生産級に切り替え、これも品質限界に達し、生産イレギュラー級に切り替え、品質限界に達する事で、やっとの事数字が付いた。


 ▽[詳細]

 名称 生地 種類 生地

 等級 生産級イレギュラー 耐久度 35000/35000

 品質 ☆×7 完成度 100

 効果

 品質向上+1:品質が上がる

 効果向上+1:効果が上がる

 飛行+30:一時的な飛行可能

 ▽

「ひとまず完成か」

「次の実験だ」

「あー、そろそろランクアップしたいなって」

「む」

「ランクアップか?」

「渋らないでよ。生産には欠かせないのよ」

「了解だ」

 ・スカオ

 [スキル]

 射撃武器ⅡLv1 装飾Lv1 召喚Lv1 融合Lv1 付与Lv1→Lv30ランクアップ

 スキル取得:付与Ⅱ

 ・夕霧

 [スキル]

 薙刀Lv2 回復魔法Lv1 舞踏Lv1 料理Lv1→Lv30ランク

 スキル取得:料理Ⅱ

 ・アキラ

 [スキル]

 魔杖剣Lv2 攻撃魔法Lv1 歌Lv1 裁縫Lv1→Lv30ランク

 スキル取得:裁縫Ⅱ

 ・光姫

 [スキル]

 武器Lv1 魔杖剣ⅡLv1 召喚Lv1 融合Lv1 調合Lv1→Lv30ランク

 スキル取得:調合Ⅱ

 ・美姫

 [スキル]

 武器Lv1 魔杖弓ⅡLv1 召喚Lv1 融合Lv1 料理Lv1→Lv30ランク

 スキル取得:料理Ⅱ

「スキルポイント+1ですからね。何取ろうかなぁ」


 美姫が嬉しそうにつぶやき、アキラと夕霧は借金返済で特に変わらず。

 そんな二人の事を忘れていたのか、美姫が二人を見る。


「夕霧は何を取るのですか」

「私は借金返済ですから、±0です。アキラも同じですよ」

「でしたか、生活スキルは延期です」

「そうですね。なら浮遊とかは?」

「特に必要ないです」

「なら防具とか、装飾とかわ」

「確かに推進されていますね」

「他にも射撃系に役立つ鷹の目とかもあるわよ」

「魔法系も楽し気ですよ」

「そうですね。でも騎乗とか、操縦とか、整備とかも取りたいです」

「おいおい歩兵から転向か?」

「いけませんか?」

「別にいいぞ、ただまあ」

「嫌なのですか?」

「美姫が歩兵から抜けるのは辛いなと」

「分かりました、暫くは待ちます」

「了解だ。光姫は」

「俺は補助系か、防具系か、装飾系が欲しい、やはり前衛としての分野を極めたい」

「なるほど、光姫の戦闘スタイルは一撃離脱、一撃を与えて素早く離脱、攻撃的ながらも機動的でもある、防具分野を伸ばすよりは補助系だろう。攻撃分野か移動分野かと言われれば、光姫の今後の活躍も考えて補助系の剛力がお勧めだ。いっその事は両手利きでの二刀流、両手持ちでのやり方もある」

「迷うな」

「腕に重点が置かれているのにはそれなりの訳がある、その大きな理由が光姫のスタイルは攻撃が重視されているからだ。防御を得意としないからこそ一撃離脱を行い、なるべく攻撃に徹し、より相手を早く倒す、よつて補助系のステップなんかもお勧めだ」

「なるほど、ステップか、確かに俺の得意分野だ」

「飛行とステップの両立による空中移動技術の向上も素晴らしい、お勧めである反面、ステップを取ると防具系との相性が低下する、その大きな理由が防具による重量増加だ。ステップは大きくこれを受ける」

「なるほど、武器アーツの取得の為にも射撃などは」

「それは止めた方が無難だ。光姫は射撃を得意としない、近接の方が遥かに活躍できる、何せ歩兵では最高峰の魔杖剣使いだ。これを伸ばすのは優先的にしたい」

「感謝を」

「だから補助系の剛力、両手利き、両手持ち、補助移動系のステップかな、逆に投擲なんかも得意とするからこの分野を伸ばすもよい」

「投擲か、ふむ」

「生活スキルの採取系というのも調合スキルを持つ光姫にはお勧めだ、逆に魔法系とは相性が悪い、なにせ武器はMP消費が大きく、魔法より射程が長い」

「確かに魔法系はな、しかし生活の採取系か、どれも欲しい」

「薬品ポーチの性能を上げる為のポーチという装飾系スキルもお勧めだ。こちらは薬師なら必ず取るスキルでもある」

「欲しいな、どこからスキルポイントが簡単に溜まる道具があれば」

「ありをするが、スキルポイントブック」

「あれか、楓が持っていたな」

「ロウから送られたらしい、正確にはタスクより贈られた物をロウが楓に送った」

「そういう事があったか」

「スキルに戻すのなら、攻撃力・積載量の強化の為の剛力、二刀流にするための両手利き、一本に特化するための両手持ち、移動力強化のためにステップ、武器種類の増加の為に投擲、薬品の効果を上げるポーチ、薬品の元となる植物の効果を上げる採取となる」

「美姫は、何がよい」

「姉さんの自由、好きな物を選んで、だっていつも我慢するのが姉の務めというのに、こんな時ぐらいは自由にしてもよい、僕はそう思うな」

「やれやれ」

「あっ、そうだ楽器と指揮とかもあるぞ」

「楽器はわかるとしても、指揮?」

「歌、踊り、楽器の三つの効果に対する支援系、それが指揮だ。これにより強力な+バフが可能になる、極めて強力な反面、単独では大した事のないスキルで有り、PT固定のみに有効なレアなスキルだ」

「歌、踊りは有るが、さすがに全体過ぎるな」

「他にも植物知識、薬草知識、薬学知識なんかの調合に役立つ知識系もお勧めだ」

「知識系か、生産に関しては後回しだ。やはり前衛を極めんとな」

「やはりステップか?」

「うむ。俺のスタイルには欠かせない分野だ。しかし剛力や投擲も惜しい、二つのどちらかがあれば随分と楽になる」

「なるほど、なら現在の事もあり必要性があるのはやはりステップだ。いっその事のステータス強化系も悪くはないぞ」

「強化系か、それでスカオ、お前は何を取る」

「スペル・指揮系、戦術指揮だ」

「戦術指揮?」

「PTに対しての効果を生む、何かを減少させる代わりに何かを強化する」

「有効なスキルだ。俺もスキル学は勉強すべきだな」

「お役に立てれば光栄だ」

「戦術指揮、か、欲しいが前衛としてのステップも欲しい、難しいな」

「お前さんが戦術指揮を執るのなら別の物を取るが」

「遠慮しておく、ステップにしよう」

「ならよし」

「姉さんもスカオも気が合いますね。ずっと二人で話していましたよ」

「前衛を支援するのが後衛の務めだ。こんな事で少しでも負担が減らせるのなら別にいい」

「ちなみに僕の場合は」

「歌」

「歌?アキラみたいな?」

「歌いながら攻撃できるのなら取得も考えるべきだ」

「歌ですか、うーん。よいスキルなんですけど、射撃か、それとも生産か」

「生産なら直ぐに役に立つ調合だな、なにせ生産用経験値が大量に余る」

「う」

「調合なら教えられるぞ」

「う、うう勉強は」

「料理知識系もある、料理の性能を上げる為にDEX+の強化系も悪くない、しかし美姫には超お勧めなのが菓子だ」

「菓子!?取ります!」

「スキル名は製菓な」


 ・スカオ

 [スキル]

 射撃武器ⅡLv1 装飾Lv1 召喚Lv1 融合Lv1 付与ⅡLv1

 スキル取得:戦術指揮

 ・光姫

 [スキル]

 武器Lv1 魔杖剣ⅡLv1 召喚Lv1 融合Lv1 調合ⅡLv1

 スキル取得:ステップ

 ・美姫

 [スキル]

 武器Lv1 魔杖弓ⅡLv1 召喚Lv1 融合Lv1 料理ⅡLv1

 スキル取得:製菓


「こんな感じだな」

「お菓子~♪」

「妹の甘すぎないかスカオ?」

「いつものお礼だ。リアルで採ったら激太りだけどな」

「太らん」

「アーライルは太らないのか?」

「多少は太るが、直ぐに痩せる、飛ぶというのは意外にカロリー消費量が多いそうだ」

「そうなのか、ならよかったんじゃないか」

「暇があれば食べる事ばかりで、少しは勉強して欲しいと、願う姉の気持ちも酌んで欲しい」

「勉強って性格か?」

「俺の悩みだ」

「料理や菓子の分野の勉強なら栄養学とか、調理歴史とか、農法とか、園芸とか、かなりあるぞ」

「お前には礼を言いたい、これで妹も少しは勉強してくれることになる」

「多分菓子を食いながらな」

「勉強するのなら大目に見る」

「人はな、苦手なものをさせるより、得意とするものを伸ばした方が成長率が高い、もしくは好きな事をさせるのが良い、確かに短所はできる、でも長所も出来る」

「・・・勉強になる」

「好きな物こそ上手なれって奴だ」

「やはり日本は良い所だ。早く試験が終わればよいが」


 姉妹との交流があるが、妹の方は菓子を作って食べていた、決して間違いではない、短所を補うより長所を伸ばした方が遥かに建設的だ。何せ時間はそれほど差はないからだ。


「そうそう、調合と料理とか菓子とかの複合レシピが有るわよ」

「試そう」

「あっ、それなら参加します」

「私は不参加ね」

「いや出来ない、菓子はⅡではない」

「む、むぅ。お菓子が役に立つのに」

「急がずに好きな分野を極めろ、俺もスカオより習う」

「姉さん?」

「確かに俺も口煩く言ったが、どうもお前の得意とはしない分野だったらしい、俺も苦手な分野を言われるより、やはり得意とする分野を極めたいと思うし、それをお前が得るというのならそれでよい」

「姉さん」

「受け入れ変化するのがこの試験の本質だ。ならば俺も受け入れて変化する、それでよい」


 姉の言葉に、妹さんが感激のあまり泣き出してしまう、姉としても嬉しい様な、寂しい様な気分なのか、いつもより少し寂し気で、心地よさそうに笑っていた。

 大晦日のそんな時間だった。


 □


 新年の日、仲間内での料理を囲む、真冬の真っただ中なので非常に寒く、外は猛吹雪だ。

 俺の部屋に集まっての料理、日本風の御節であるが、木工職人などから買った重箱に入り、いつもより華やかな和服を身に纏い食べる。

 大晦日の事もあって姉妹仲は更に好調になり、清楚な妹さんの美姫は丹誠に作った料理をふるまう、見事な調理技術による物は、見るからに楽しめるものであり一つ一つが芸術的なレベルでの調理により、非常に手間暇がかかっている証拠だ。

 姉のクールな光姫も、美味そうに料理と酒を取り、勧められる酒よりも珍しい料理が大変気に入った様子でよく食べていた。

 アキラも、夕霧もいつもより嬉しそうに笑い、俺も酒がよく飲める。

 正月は仲間内で過ごす決まりになっており、凄く楽しい、料理が素晴らしく美味しい事も言うまでもなく、この日の為に買っておいた酒がなお美味い。


「吹雪いているわね」

「ここの冬って寒いですから、北海道並みというべきか」

「そうなのか?」

「ええ。スカオは装飾が有るので気にならないでしょうが、寒いというレベルではなく外に居れば死にます、冬に出歩くことは、氷漬けになってもよいという事ですし」

「そうだったのか、装飾って奴はもしかして」

「誰もが欲しがるスキルの一つです。特にこの地域の住民は必ず持っています、無ければ当に凍死で全滅です」

「そ、そうだったのか」

「家ら生産職人もね、色々と専門分野もあるけど、最近は開発速度よりも、互いの分野の交換も増えているのよ、部署移動って奴、その中でも町に行く交渉とかのスキル経験とかの場合、町の人達と直に触れあうでしょ?」

「ああ」

「それで聞くのよ。どんなスキル構成ですかって、そしたら驚いたわよ。汎用性の一点張り、武器、防具、装飾なんて当たり前、職業に対応した生産、生活スキルも当たり前よ、これは習うべきだと、交渉の部署は大混雑よ。こちらもお礼に色々と提供したわ」

「そいつはまた、最初から聞いておけばよかったな」

「全くよ。凄く詳しいんだから、特に楓なんか代表から少しの間って言って猛反発を受けてもなんとか時間を稼ごうとするし」

「好奇心の塊だからな」

「ええ。興味が湧いたものは全て知りたい、兎に角に知りたいって奴ね」

「時雄にそっくりです。二人が出会えば違いなく時間が経つのを忘れますよ」

「永遠に語り合って居そうだな、そしてやる事は実験」

「間違いないわ。さあ今日の実験はってね」

「意外に検証をしていそうな感じでもあります」

「あれだな、フラスコを片手にコーヒーを入れてそうだな」

「間違いなくそうしているわ、放置すると大変な事になるわよ」

「正月というのにやるのは実験間違いなしです」

「科学は素晴らしいとか言ってな」


 兄の事を思い出して、知的なメガネの青年に対し、そのイメージに漏れず楓と同じ知的好奇心の塊、得意とする分野は科学技術の中でも機械、特に機械が壊れていれば好んで直し、好んで改造し、好んで弄る、放置すれば家中の物か激変するために家族ですら警戒する有様だ。

 マッドの方ではなく、理性的であり合理的であるが、基本的な人が好いために権謀などは好まず、政治も理解はできるが好まない、優れ人材でもあり、良きリーダーでもあるが少し容姿の事もあり他人とは交流するのが苦手な所がある。

 ただそんな兄でも武芸の腕前は高く、剣を教えた人がこの兄なのだ。

 特に剣術の中でもリーチの長い物を好み、大太刀を扱うと手の施しようがない強さを誇る、自警団の団長もこの強さにほれ込んで色々と教えていた。

 優れた人であったが、そんな為に哀しい事も多く見てきた、体験する前に見過ぎたために本来なら性格が崩壊気味に悪くなるが、何故かそんな所はなかった。


「そのトキオという方は?」

「ああ。知らないか、俺の従兄だ。生まれた時から面倒を見てくれる兄の様な人で、俺の剣の師匠でもあり、俺が昔所属した自警団時代の指揮官でもある」

「好い方ですね」

「ああ。好い奴なんだがな、顔が女みたいなのでよく女性に間違いられて本人も愚痴っていたよ、なんで俺は女みたいな顔なんだって」

「まあ」

「そんな事もあって武芸には人一番励んで、大太刀って武器を扱うと、町でも敵う者が居ない、流れの剣士との立ち合いも行う位の腕前だ」

「剣士なのか?」

「本業は科学者だけど、趣味は剣術、特に刀術が好き、更に大太刀が得意な剣士」

「ふむ。腕利きか、なるべくなら模擬戦はしたいが」

「大学生の試験組だから無理だな」

「残念だ。可能ならぱ戦ってみたかったが」

「強いぞ、何せ白兵指揮の陣頭指揮官だ、時雄と戦う敵は、白兵が仕掛けられるのを警戒し、大抵がアウトレンジからの攻撃に徹する、だが時雄の頭は冴え、大抵の場合で奇襲し、相手を敗走させるのが得意だ」

「素晴らしい、是非ともご教授が欲しいな」

「ただまあ女性が苦手なんだ。女性が傍にいるのがとても気になるのだ」

「・・・楓と似るな」

「だから団の試験の時も女性は担当せずにいた、何せ落とそうとするし、これには誰もが困ったよ」

「女性に厳しい性格か、困る」

「ああ大丈夫、剣士と料理の得意な女性には優しいから」

「それは良かった、しかし異星人にも色々だな、アキラのような奴も居れば、夕霧のような奴もいる、スカオのような奴も居れば、タスクのよう奴もいる、色々と居すぎて困るが、一概になんであると判断できないのが困る」

「お互い様さ、まあ知り合えてよかった、何より楽しいし」

「・・・」

「姉さん?」

「何でもない、ふと色々と考えてしまう」

「アーライルも色々ですからね」

「うむ。我らも変わるべきではあるが、急ぎ過ぎる必要はないからな」

「でも、急ぐ必要が出るかも知れませんよ?」

「急がない方がいい、日本の諺に急いては事を仕損じるという言葉がある」

「ならよいのですが」

「まあ食べよう」


 正月三が日を過ごした。


 3月4日№283、1月4日に該当する日、外は真冬というのに晴天である。

 小さい連中が雪合戦、年長組は雪かき、さすがに雪かきに対応するスキルは知らなかったためだ。

 補助スキルの剛力などの腕力が増すスキル持ちや、STR向上、体力強化などの補助系も活躍し、新飛行場の方も大忙しで有り、ひとまず滑走路の方の掃除が終わり、久し振りの重労働に、男性諸君はぐったり、薬師の人達もひたすらポーション作りに疲れていた、リアルだったら間違いなく何日もかかるが、スタミナ回復効果のある服により早かった。


「機甲兵が使えないとかふざけているのか」


 機甲兵の指揮官であるブロードが直ぐに愚痴る、使うなと言われたらどうしようもない、何せ新年のオーバーホールで使えない、猛吹雪であった為にあちらこちらのデータも採取もあり、直ぐに寒冷地用が完成するだろう。


「彼奴らは」


 愛騎の事を呟くハイケル、牧場に避難していた愛馬達が、元気そうに牧場の敷地を走り回っていた、本来なら飛んで行きたそうではある騎兵たちではあるが、疲れもあり動けない、牧場の生物学者たちも、上手く対応してくれたとホッとしている風景が見える。


 いつものような小さな翼がある程度ではなく、馬、狐、狼、竜、鷹、鷲等の獣たちが、より飛行に適した羽や翼を持ち、体格の方も大きく見える。


「成功したのか、良かった」

「行ってこい」


 ブロードの気遣いにハイケルは頷いて向かう、他の騎兵達も同じ様に気遣われて向かう。

 そんな騎獣達は、主の姿に喜んで近付く、ブロードの愛騎の今では大きな翼のある狼は、天狼とも言うべき存在となっており、主の顔をしきりに舐めていた。

 その内に空を飛ぶ訓練も始まるが、歩兵としては羨ましい光景だ。

 近くにいた歩兵の副指揮官も担当する光姫が肩に手を置く。

 振り向くと、クールな顔にはどうするとも聞くべきなのかとも悩む表情がある。


「どうしたよ光姫?」

「獣は好きか?」

「ああ好きだ。何せ昔は獣がいたからな」

「どんな獣だ」

「変な事だが狐だ。幼い頃に迷い込んだ奴が腹を空かせて泣いていた、だから持っていた食事を与えると嬉しそうに食べていた、その後に何故か近寄って食べ物を強請るから、何回か往復して与えていた、腹が満ちると知るもんか、とも言いたげな顔で寝ていたな、あれは腹が立つが相手は野生の獣だ。我慢はした」

「狐か、我々の星のWHOには狐は賢く清い物だ」

「そうなのか?」

「特に白い狐は誰も危害を加えない、何故なら獣と人の間に立ち、通訳を行う言葉を操る生き物だ。彼らを白い獣と呼び、我らは大切にしている、彼らは賢く、またとても強い、沢山の魔法を操り、奇跡すら呼び起こし、常に人と獣の間に立ち、そのどちらも食さずに属さずに、両者の間に立ち、常に静かに微笑む、彼らは人ではない、彼らは獣ではない、我らはそんな白い狐を神獣、もしくは聖獣と呼ぶ」

「いつか話したいものだな、きっと良い酒が飲める」

「ああいつか会いに行こう、彼らは星を旅する、何処かに居るものだ」

「なんか嬉しいな、狐か、彼奴も元気にしているかな、性格はあれだが」

「気難しい奴も居るものだ。偶々そう言う奴だった」

「そうだといいが、ああいう奴ばかりな狐社会は嫌だな」

「狐社会?狐の社会なら確か、朱雀キャンプがあったな、白き獣たちの里だ」

「白き獣?狐以外にも?」

「白き熊だ。彼らも同じ様な存在だ。狐より素朴で、人が少し苦手な方々だ。何せ体格が大きいから人が警戒してしまう、そのせいでやや獣寄りだ」

「面白いな、バウバウ達か」

「・・・それを人前でいうなよ、怒られるぞ」

「そいつは悪かった」

「しかし、我らは思いの外に地球の人々に近いのかもしれないな」

「・・・一概には言えないが、確かに近いものがある事は確かだ」

「地球の日本でいうファンタジーの様な世界、とも言うべきか」

「確かにそのような姿の人々が多い」

「何処かに共通する何かがあったのかもしれないな、貴方達は似すぎている」


 光姫が初めての言葉を言う、本当に地球人というものを判断しようしているのか、冷静な瞳でじっと見ていた、

 ただ灼眼の瞳の奥にある一つの感情。


(不安?)


 最近はよく分かるようになったが、この女性が一番にないモノだ。同じようにないモノが恐怖である、不安や怖れない人、それが光姫だ。


「光姫?」

「我らにも色々と有る、それだけだ」

「そうか、言うの物なんだが、光姫のそんな瞳は初めてだ」

「・・・言ってくれ」

「灼眼の奥に、不安が揺らめていた」

「なるほど、正直に言うのなら怖いという感情がある」

「・・・俺達か?それとも俺か?」

「分からない、だから見極めるべきだ。これは大切な事だ。とても大切な事だ」

「なら分かり易い例えならロウだな」

「彼奴は特に思わない、確かに色々と助けては貰ったが、エルフの方も特には思わない、とするのならスカオなのかもしれないな、まだ対象が足りないのだろう」

「なら身近な例えなら楓かな」

「彼奴は、まあ幼馴染だ。頭は良いが貧弱過ぎる」

「何を見極めるのかさっぱりだぞ?」

「我らにも色々と有る」

「はいはい、我らってのは何だ」

「WHO人、アーライル、我ら家族、我ら姉妹だ」

「難しいな、全て大切な物だ。WHO人は言い換えるのなら地球人で、アーライルは言い換えるのなら日本人だ。家族はそのまま、姉妹の方は俺と時雄のようなものだ」

「理解が速くて嬉しいぞ」

「前々から疑問だが、まあいいや、幾つかの問題があるが最も優先すべきことは唯一つでしかないぞ、それは自身が決める事だ。結局のところ最も大切な姉妹も二つだ。個が全を決めるのは大抵碌な事にならないからな」

「その点は安心しろ、我らは二人で一人だ。だからこそ姉妹なのだ」

「それが光姫の意見か?」

「我らも色々と話していたが、期限も近いのだ我らにも時間はそれほどない」

「よくわからない事が多いな、まあ母星が違うから当たり前か」

「そうだ。違うというものは恐れが必ず生まれる、同じなら安心する、知れば安心に変わる、しかし違うものを知れば、必ずどこにかに恐れが生まれる、その進むべき先を見付ける為には、必ず違うものと触れ合わなければならない、この必然に我らは答えを出さなくてはならない、必ずな」

「まあ良い答えが出る事を祈るよ」

「そうだな。良い答えがあればよいが、きっと見つかると俺は信じる」

「久し振りに俺と言ったな。まあそれでいいんじゃないか、光姫も個人的な事を追求する傾向になったし、それを学んでいく事もまあ偶には良いものだと思うぞ」

「そうか?」

「ああ。アーライルの人達は少し全体的過ぎる、楓のような個人に行きすぎるのもあれだが、程よくなればそれでいい」

「・・・価値観の違いとは難しい」

「そか?意外に簡単な物だぞ。その人が重んじる物、それで十分だしな」

「それはPTを組む場合だ」

「それはまあそうだが」

「俺と美姫が考える事は別にある、時間はそうないし、何れは知る事にはなるとは思うが、いつかは答えを出し選択しなければならない、我らは何になるべきか、なにを選択すべきか、地球人の様な形とは我らは違うからな、似過ぎてはいるが」

「難しいな」

「簡単ではない、本来は不可能だ。それをこの学府の試験が可能とした、これは試験かもしれないが、数多い星々より出る機会だ。これを逃す機会はない、しかし我らの時間も少ない、いずれは選択し、受け入れ、変化するしかない」

「もしかして嫌なのか?」

「なにが?」

「受け入れて変化する事が、このままであればという感情があるように思える」

「その感情は確かなある、しかしそれは出来ない」

「まるで大人になるという事のようだな」

「そう言う単純な物ではない、ただ我らは幸運には感謝している、思いの外に時間が得られる、短い時間ではない長い時間だ。すでに多くが変化しつつある、我らの選択は良かったのかは、いまだに疑問が過る、他に方法と言われてもない、我らも、俺も、皆、受け入れて変化する先しかないからな、それが我らの流れだ」

「んじゃ丁度良い休憩だな、店に入ってのちょっとした酒の会話だ」


 これに光姫は、灼眼の双眸を揺らめ、ルージュの口唇を、笑う様な、驚く様な、喜ぶ様な、悲しむ様な、懐かしむ様な、なんとも形容しがたい表情になる。

 なんとも察せずに見ている俺に、いつもクールな表情に戻ってから、微かに微笑むかのような唇の動きになり、何やら満足気そうだ。


「スカオは良い旅人になるが、偶には宿も必要だぞ?」

「意味が分からん、まあ流れ者って奴だからな、飛行は丁度良いものなんだ。常にどこかに行ける翼だ。好きな時に、好きな場所、好きな空に行ける、俺にとってみれば最高のスキルだ。まあ行きたい空は二つあるけどな」

「一つは地球、もう一つは?」

「異星かな、何処かの空をただ飛んで、そのまま尽きてもよいとも思う」

「そうなのか?地球人は随分と、変なものだな」

「俺らの地球人という意識はない、地球は一つじゃない、地球人というが、同じ星に住んでいるだけだ」

「・・・なるほど、それで地球の人々の意識には色々と問題があったわけか、難しい物を持たないのだな。少し羨ましい」

「一つ聞かせてくれ」

「質問には質問で答えよう」

「光姫は何が大切だ?」

「・・・俺は妹が大切だ」

「なら特に言うつもりはないが、まるで変わりたくないのに無理やり従っている様に見えるぞ、俺は変わりたくない、だが周りは変われという、それに従うしかないからと自分に言い聞かせ、これを自分の上手い具合に掴み、どうにか変化の少ない状況に行こうとしているように見える」

「・・・色々と有る」

「そうか、良い先があると好いな、この夢のない夢の様な世界で、何かを選択できるのならそれは良いが、言うのもなんだが、試験に合格すればリアルに戻り、4年間を過ごし、20歳で大学部に入る、たぶん光姫の事だから大学には行くだろう」

「何故俺が行くと言い切れる」

「光姫は前衛の剣士だ。もし競う相手が現れればそれに勝ちたいと思う、だが先の道は二つある、指揮を取るべきか、それとも剣を取るべきか、その迷いが俺の言葉に食らいついた根本的な理由だろ」

「ああ。やはりというべきか、よく見ているな」

「似たような悩みなら経験した」

「それで、なにを選んだ」

「だからここにいる、いつかの冒険の助けになるのなら、選択すべき事で、経験すべき事なのだ、きっと大きな糧となる、良い導となる」

「まるで自由な鳥の様だ。全ては自由の前提の下で動く、それを悪く言うつもりないが、必ずしも全てが良い結果になるのかは別だぞ」

「結果ね、人生の最後に棺桶に入る前に、マシな人生だったと言えれば幸いだ」

「棺桶?」

「人の亡骸を入れるものだ」

「・・・なるほど、どうもスカオは見てのとおりではないらしいな。やはり異星人とは難しい」

「異星人という一括りはより難しい、むしろ個人と見る方が正しい」

「個人?」

「よく異星の人達は俺らを全体で見がちだ。しかしそれは前提が違う、魚と鳥を一緒に考えるに似ている、違う者同士を同じように考えれば当然のように理解が遅れる、時間のかかる中、簡単なのが個人で考える事、全ではなく、1つの個人として取られるのが簡単だ」

「ふむ。何やら我らは相当な勘違いがあったか、これは困った」

「この世で当てにならない物、統計だ。他にも民族的な性質、もしくは価値観というものは一緒に見えても全然違う、全体的にはこうだから、民族的にもこうであるというのが多少なりとも当てはまったとしても、全体と個人は全くの別物だ。宇宙と蟻の比較に似るな」


 光姫は感心するような顔で納得していた、どうも地球人というものを理解しようと努力していた事が見て取れる、間違ってはいないが、その対象の地球人自体が、地球人というくくりが通じないタイプの人々で、分類は地球人としても、地球人に全体的な意識というものはない、確かに一部にはとある地域の事を言う人はいるが、そんな意識などは極少数派だ、全人口の極々僅かだ。

 そもそもの全体を統治する機構すらない星だ。全体を統合した意識を持たない人々なのだから当たり前ではある。


「役に立ったか?」

「ああ随分と捗る、どうも難しく考え過ぎたようだ。答えは単純な物だった」

「・・・一度妹さんは本格的に話しておく必要があるぞ?」

「むぅ」


 どうも光姫は難しく捉えがちのタイプらしく、しかも段階を踏まえる考えの持ち主らしく、まずは全体の地球人、次に日本人、次に俺らしい、自分達と同じ尺度で考えようとして思いっきり失敗していたらしい、この様子では妹さんとの会話がどこまでの意思疎通を図れているのかは非常に懐疑的だ。

 ふと考えれば、質問の度に地球人という事を聞かれていたのは、個人という認識ではなく、地球人という捉え方であったから本人は混乱していた様子だ。

 決してバカではないのだが、根本的な基準が違う為に色々と混乱していた様子も頷ける。


 近くの美姫の方はお菓子を食べながら会話を聞いており、姉の色々と変な所を受け入れていた寛容な妹さんだ。少なくても美姫の方が理解は早かったのも頷けるのは、この難しい考えの持ち主との付き合い方から学んでいた様子がうかがえる。


「美姫には感謝しておけよ、相当寛容だぞ」

「むぅ」


 姉としての何かかに触れていたらしいが、妹さんは特に気にせずに菓子を食べていた。

 冷や汗を流し困る光姫、元々クールな顔立ちで、整っているが、冷たい容姿の為に近付きがたいタイプの女性ではあったものの、何やら兄の時雄この昔の考えのようで懐かしい。


(なるほど、どうりで)


 美姫はこんな姉の傍にいたからああなり、そんな事もあって上手くできるようになったのに対し、姉の方は全体寄りの考えるの為に苦労していた様子ではあるが、これでは空回りだ。言い換えれば非効率的なアプローチだったらしい。

 恐らく、妹の美姫の方がまだ一般的なアーライルの人々なのだろう、姉の難しい考えの中で育ち、これを許してきたためにとても寛容な性格となり、とても親しみやすい女性となったが、姉の事もあり大変な苦労が伺える。


「良かったのか美姫」


 菓子を食べていた美姫に言うと、考える素振りもなく小さく頷いていた。


「姉さんも少しはわかってくれるから」


 姉妹の意思疎通はまだ難しいらしい、妹の言葉に、姉の方はより冷や汗を流し困る。


「なんか光姫って、男性的な」

「そう言う所が強い姉なの、父さんが昔何を言ったかはわからないけど、そんな父さんも今は何処にいるのかはわからないし、母さんは僕のようだし」

「難しい人だったのだな」

「そうでもないです。風の様な人でしたから、本質的に言えば自由を好むタイプの人かな」

「そうか良い人だ、美姫の苦労が報われると好いな」

「少しは報われ始めてからだいぶ良くなったですよ?」

「そいつは良かった。硬い玉ねぎ的な捉え方ではそれは成功しないな」

「うん」

「後で愚痴は聞くぞ」

「・・・ありがとう」


 恐らく長い愚痴話になる事は決定のようなものだ。

 近くの異星人組の方も、この奇妙な会話を聞いてこれで少しはマシになるなと言っていた。

 一言で言うのなら、美姫の方はまだ柔軟だったが、光姫の方は硬い玉ねぎを一枚一枚調べてから丹念に剝いていたらしい、ある意味慎重という奴ではあるが、慎重過ぎるのも考え物であった。


(もしかして、そう言う原因で)


 かなり恐ろしい事にぶち当たる、なぜそこまで慎重であったか、その原因は守るべき美姫にあり、この護る姉の光姫の方はまるで目障りな障害物を攻略しようとしていた様子だ。

 かなり洒落にならない状況だ。


(これは深刻に不味いぞ)


 多分同じ女性の二人は気付いていたのだろう、しかしなぜ放置したかという事に行き着くと、時間の問題から言ってもまず安全と判断したように思える。


(これじゃあ妹を守る兄じゃないか、それとも姉妹って、いやいや)


「・・なあ美姫、一つ聞いていいか、たぶん予想済みとは思うが」

「兄の様な人かな」

「ああ、なるほど、そういう事だったのか、道理で慎重なはずだ」


 兄のような性格の光姫は、妹に集るかも知れない俺を、重箱の隅をつつくように調べていたらしい、難儀な性格の奴である。


「色々な奴が居たが、この手のタイプはあれだな、間違いなく結婚を選択する様な奴じゃないな、言い寄る相手は全て撃沈する気だろう」

「似た様なものだけど、最近は考えが変わったかな」

「え?」

「なんか自分の未熟を理解したようです」

「そうか、何やら知らずに苦労していたのだな」

「姉も偶には色々と考える様になったし、最近は化粧もするようになったし、少しは女性であることを受け入れる様になったし、改善しつつあると言った所です」

「・・・俺、少し怖いよ」

「ダメです。姉の為にももう少し」

「悪い奴じゃないが、柔軟性が足りないというか」

「はい。僕は柔軟過ぎると言われますけど、姉は逆ですから」

「バランスが取れているな」

「半分だったらよかったのですが、困った姉というべきか」

「まあ困った奴ではある」

「・・・」

「可愛いと言えばそうかもしれないが」

「可愛い!?」


 美姫が驚愕のような大声でいう、近くの人達もそれはないとも言わんばかりに首を横に振る。


「姉さんが可愛い?本当ですか?本当なのですね?」


 美姫は必死だった。


「いやなんか若い時ってそんなことなかったか?」

「ありがとうございます!そう言った経験があるのが助かります、是非このまま」

「いや別に嫌いじゃない、そりゃあ面倒な奴だけど、困った所もある奴だが、好い所も多い」

「例えば?」

「自分よりは妹、上よりは下、上を労わる前にまずは下、良い指揮官になる素質がある、剣の太刀筋の方は少し正直すぎるとは思うが、ルージュの趣味も悪くはないしな、他にも酒の趣味が辛口なのが良い」

「やっと、やっとの事、ああ16年、この日をどんなに待ち侘びた事か」

「よくわからんが、幸いだったか?」

「人生最高の日です」

「そうか、面倒を押し付けようとしていないか」

「いえいえ全く滅相もない、これで僕も人生が素晴らしくなります」

「・・・面倒が二乗になった様な」

「大丈夫です」

「なにが?」

「安心設計ですから」

「いや意味が」

「異星なんて全く関係ありません」

「いや意味がある様な」

「やはりスカオは良い人です。好かった、本当に好かったです」


 何やら今度は俺が困る、美姫が何かを考えていることが分かる、何かを画策していることも感知しているが、それが何かが分からない。

 まともな答えが返ってきそうもないので、光姫を見る、先程から変わらずに、冷や汗を流し困っていた。


「誰か説明できるか?」


 外野は首を横に振る。


(あれ、状況がよくわからないぞ?)


 何やら取り巻く環境が変化する兆しは見えるが、それが何に繋がるかが全く見えない、見上げて空は突き抜ける様な白雲一つない蒼天だった。ただ、誰でもいいから説明が切実に欲しかった。GMコールのないこの試験の為にそれは叶わない事でもあった。


(二人にでも聞くか、アキラより夕霧が良いな)


 温和な顔をして、直ぐに八つ当たりする仲間を思い出し、よくよく考えると普通人枠はあの暴力女ただ一人というのが辛い所だ。


(偶には差し入れでも持って行ってやるか)


 何やら優しい気分になれるが、幸せだけは遠くの気分で有り、早く試験に合格しないかと、切実に思えてならない。

 新年の平日の事だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ