[011]3月の№11 デスゲーム試験。
『3月7日になります』
ついに一週間になった。
翌日の祭りの後に、空港での生活に戻り、珍しく休暇が採用された。
5名で集まり、まずは料理と言って、懐かしい猪肉の握り寿司を食べながら話す。
「飛行を取ろうと思うのです」
夕霧がぽつりという、聞いた飛行歩兵の俺達は感激のあまり夕霧を見る。
一番喜んだのは夕霧の実力を知るコウだ。
「そうか、ついに取ってくれるか、よし部隊の方は俺の所で、良いかスオ?」
「ああ、もちろんだ。ついに夕霧が、という訳でアキラお前も来い」
「私だって色々と有るから無理」
「あの、私は飛行を取りますが実働部隊の方には行きません」
「「え?」」
「個人的な興味から取るのです。どのような料理になるのかが楽しみで」
舌打ちする俺とコウ、美姫の方はそんな俺らのくすくすと笑い、夕霧に微笑んで菓子を勧め、この菓子を夕霧も取って口に入れる。
いつものような蜂蜜の味なのかはわからないが、夕霧の綺麗な顔には驚愕の文字が張り付くような表情で、食べた菓子を咀嚼しながら非常に味わっていた。
「アーライルの菓子の其の2です。今回は定番の蜂蜜から離れ、牛乳と砂糖の混ざったミルク菓子です。生地の方は地球でいう小麦に近いものですし、クレープの焼き菓子のような味わいとなります、香辛料はいつも通りの物です」
美姫の説明に、夕霧は納得した顔で話を聞いていた、口に入っている菓子は見た目は同じでも、素材の違いから余程の差が生まれたらしい。
食べ終えてから夕霧は、化粧気のない顔で健康的な桜色の唇を開いた。
「日本人好みの味わいです。しっとりサクサクとした食感にほんのり甘い味わい、素晴らしい物です」
これに美姫は嬉しそうに頷いてから他の者にも配る、コウも口に入れると両目を見開き美味そうに食べていた。そんな様子にアキラも食べるが、どう考えても贅沢な物なので少しずつ味わってから食べ始める、俺の方は一口で食べ、感想を言った。
「こりゃ美味いな。いっその事の製菓の会社でも作るか」
もし会社が出来れば俺なら投資する、当然のように来るであろう試作品狙いだ。
これに美姫は首を横に振り、俺としては残念な気持ちで一杯だ。
そんな美姫の方は、曇り気のない綺麗な黒曜の瞳でいう。
「儲かろうとは思いません、美味しい物を皆で食べられれば僕はそれでいいのです。時間は働ければお金になりますが、お金はどうやっても時間になりませんから」
これに俺も含めた4名が驚く、特に兄になる予定のコウは、妹の言葉にとても驚くかのように、美姫の方を灼眼で見る。
そんなまだ姉のコウに、美姫は静かに微笑んで軽く笑う。
「僕だって成長しますよ姉さん?」
「・・・」
「なんで黙っているのです?」
「お前がこんな急成長するとは思わなくてな、いつも食べ物の事ばかりのお前が」
まだ姉のコウは歓喜の感情が声に混ざり、抑えきれない感情が顔中に広がり、緩い顔になって妹を抱きしめる。
二人ともシスコンなので、より姉妹の仲は良くなるようである。
好い光景に、俺も目頭が熱くなる、あの食い物天国の美姫が、真理を追究したかのような奥深い台詞を言う様になった、試験を考えた誰かはわからない奴に、俺は感謝していた。
夕霧も、アキラも嬉し過ぎて涙を流し、終わってから食べ始める。
食べ終わってから美姫が話し出した。
「最近は色々と勉強するのです、栄養学とか、調理の歴史とか、調理機器の歴史とか、機械操作とか、この整備とか、食べ物ばかりですけど、スカオの言った通りこの食べ物の分野の知識は簡単に覚えられますし、これに関係した歴史はとても楽しいです。でも歴史よりはやはり技術が一番です。僕としては機械より簡単な調理器による手動が楽しいです」
「分かります。歴史は確かに面白いのですが、実際に作るのはもっと楽しいですから」
「うん。やっぱり夕霧はよく話が合う、いつかどこかの料理大会でも開きたいですね」
「好いですね。リアルに戻ってから学府に行ったら直ぐに故郷に向かって様々な物を食べてみましょう、きっと良い想い出になります。料理人達にもこんな素晴らしい友人が出来たと自慢できますし」
「ありがとう夕霧、でも友人よりは仲間の方がいい」
「はい。仲間です。当然です」
二人とも色々と有ったが、今では同性の友人となったらしい良い話である。
アキラの方は少し自慢げだ。そして俺も幸せだ。色々と心配だった項目が消えた。
「じゃ私も夕霧も飛行を取るわ、実働にはいかないからね」
「ああ。気が変わったら歓迎するぜ」
「うち等にも色々と有るのよ。開発チームにも苦労は付き物だし」
「はい。料理の一つも難しいのです。素材一つに関する安全項目を調べればわかります単純に作れるレベルにはないのですから、時代は変わりました」
▽
・夕霧
[スキル]
薙刀Lv2 回復魔法Lv1→Lv30ランクアップ 舞踏Lv1 料理ⅡLv1
スキル取得:回復魔法Ⅱ
スキルポイント取得:1P
・アキラ
[スキル]
魔杖剣Lv2 攻撃魔法Lv1→Lv30ランクアップ 妨害魔法Lv1 歌Lv1 裁縫ⅡLv1
スキル取得:攻撃魔法Ⅱ
スキルポイント取得:1P
↓
・夕霧
[スキル]
薙刀Lv2 回復魔法ⅡLv1 舞踏Lv1 料理ⅡLv1 飛行Lv1
・アキラ
[スキル]
魔杖剣Lv2 攻撃魔法ⅡLv1 妨害魔法Lv1 歌Lv1 裁縫ⅡLv1 飛行Lv1
▽
「では二人には飛行の訓練の時間です」
「よろしく美姫」
「よろしくお願いします美姫」
飛行訓練、経験のない者は直ぐに出来ると思うが、スキルによって飛行できるようになっただけの赤ん坊に過ぎず、スキルLvを上げる事で性能が上がるが、これに追従するノウハウから何までは全て学ばなくてはならない。
これを学ぶために二人は悪戦苦闘、飛行が出来るように慣れまでにおよそ6時間かかった。
暇人の俺とコウは飛行で飛びながら、暇潰しの菓子を齧りながら眺めていた。
飛べるようになってもLvUPはもってのほか、最低でも100時間の飛行時間があって初めて審査の上に許可されるものだ。
これを破っても良いが、違反した者は大抵が自分の愚かさに気付く、何故なら飛行技術が足りずに飛べなくなり、飛べなくなったために再訓練送りになるからだ。
中には稀な飛行才能から飛べるものもいるが、直ぐに分かる為に特に意味がない。
この為に飛行歩兵のLv7というのはベテランを意味し、Lv1とは話にならないレベルの飛行技術がある、何せ急旋回や格闘機動も行え、空中戦闘機動も可能とするのがLv3位からだ。
Lv1の二人は必死に飛び、何とか基礎的な戦闘を行おうとするが思いっきり失敗、この原因は足を使う地上に対し、空中の間は飛行のみで全ての制御を行うために難しいのだ。
初心者用の浮遊もあるが、飛行歩兵ではこの浮遊はなるべく取らせない、そんなスキルポイントの無駄が許可できるような余裕はないからだ。
中には飛行技術への適性が酷過ぎて許可された者もいたが、補助輪付きが良いかという質問に、縦に顔を動かす者はいなかった。
飛行歩兵にとってみれば、浮遊を取るというのは戦闘機に補助輪をつける様なものだ。
意味を知り顔を真っ青にして、取得を辞める者が通例となっている。
試しに取った者もいるが、初心者用の為に熟練すると直ぐに意味がなくなるので、来年の試験対策用に伝える程度のスキルでしかない。
「おー必死だな」
「何やら懐かしい物が有るな」
「全くだ」
「飛行スキルを訓練するときには、足というものが全く意味がなくなる事を知らないな二人は」
経験がない為に飛行しながら必死に足でバランスを取ろうとする、足を使って跳躍しようとする、足を使っての移動を行おうとする、全て飛行スキルによって不可能になっていることを知らない。
飛行スキルを使う時の基本は、飛行する事に集中し、体の事は次にしなければ直ぐに怪我をする、戦闘機の操縦中に服の事を気にするぐらい無駄の行為だからだ。
「おしスオ、少し手本を見せよう」
「おっ模擬戦か?」
「それは後ほど、暴れると事務方に書類を押し付けられる量が増える」
「・・・あいつら俺らの首輪か」
「間違ってはない様な気がする」
軽い飛びリードするコウに、軽い風の流れから離れて追従し、並走して曲技を行う、他のベテランたちも楽しげに曲芸飛行を行っているので、新入り達は目を輝かせ食い入るように見る。
ロール、ループ、旋回、インメルマンターンからのスプリッドS、そのままバレルロール、この後にスライスターン、これらを行いつつシザースも行う。
コブラ、フック、クルビットも行い、これらの組み合わせを繰り返していた。
通常の機甲兵達の機甲等の戦闘機でも不可能な曲芸飛行で有り、飛行スキルが有する飛行に特化されたスキルの熟練により、可能とする飛行レベルは高く、複雑な軌道を描き、最高速度や加速性能などを気にしなければ、最高峰の飛行を可能とするスキルでもある。
触発されたのか騎兵が上がってくる、飛行騎兵、飛行用に強化された騎獣に乗る、空中の騎士達、新入り位なら軽く倒せるが、ベテランに属する者は高い騎乗技能と長時間の飛行時間により、優秀な人材であって、騎兵達の指揮官であるハイケルが先頭になり手信号で示し、これに飛行歩兵達は頷いで並行飛行を行う。
いつもなら逆の飛行陣形で進み、騎兵の外側にいるのは妙な気分であった。
飛行を行いつつ、時間が経つのも忘れただ飛ぶ事だけを楽しみ、帰還した時には新入り達は大喜びだ。
仲間の方も悔しげな顔でいた。
「こんな感じだ」
「勝った気になるなよスカオ」
「全くです」
二人の闘争心に火が付いた様子で練習していた。
「休憩、お昼ですよ」
美姫の言葉で、二人も訓練を辞めて飛行しながら弁当を受け取り、見るからに無理をしているのが分かる、ただ本気のレベルが分かり少しの足の動きもなくなっていた。
その後の訓練、空港の滑走路の上はそんな訓練の様子が見えた。
□
翌日の№3、飛行団の中心となるスキルである飛行、この情報をまとめた飛行マニュアルが製作されて纏められ、飛行団内部に支給された。
隊長や指揮官達の事務作業、一向に減る様子がないが、事務方のおかげで半分には減っており、事務作業の守り神のような存在と化していた。
一般隊員には分かり辛いが、少しでも分隊を持てれば、鬼の様な書類仕事がある為に、上に上がりたくないという者が多い、そう言う奴を見付けると無理矢理に仕事を押し付ける。
新人たちは飛行訓練、ベテランたちは渋い顔で事務仕事、事務方は忙しそうに書類を整理して、時にはチェック項目からのミス訂正、書類の量産し配るのも仕事の一つだ。
基本的に実働部隊の一日はこんな物で、騎兵も機甲兵達も似た様なものだ。
昼食の時間に、ホッとした顔での昼食を購入して食べる。
料理人たちの尤も忙しい時間で有り、一つ一つの細かな注文に応じでスキルで調整し、膨大な料理を一つ一つ丁寧にリボン付きまでして提供する。
1時間に休みに、指揮官達やベテランたちは昼食の後の飛行遊び、こちらは新入り達とは違う、本格的に遊んでいる、むしろこんな時間のために働くのだ。
よく周りからこいつらはガキだと言われがちだが、好きな物は好きなために飛行を楽しむ。
そこに楓と実働部隊の委員会より達しが来る、通称は換装許可、LvUP許可だ。
ベテランたちは大喜びでのLvUP、気付いた事務方に睨まれながらこっそりと訓練。
何せ事務方のない実働部隊は確実に行動不能になる、この結果、力関係が困る。
指揮官達は事務方に首輪(書類)を、つけられているようなものなので、悟られずに飛行訓練。
「隊長、なにを子供のような」
満に気付かれ嘆く事務方の長に、渋々飛行を中断した。
「言うのもなんですが、隊長は飛行するときは上機嫌、地上の時は不機嫌になるからすぐに分かります」
「俺だって待ちに待った」
「いいのですか?」
「いえ滅相もありません」
白旗を直ぐに上げる、これ以上の仕事はいらないと、心の奥から切実に思う。
他の指揮官達も渋々に飛行スキルを解く、勝ち目がないのだ。事務の仕事が増えてもよいと思えるような仕事の量ではないからだ。
1枚2枚程度ならまだいい、千枚、万枚が増えたら泣くに泣けない。
事務方と実働部隊は別の指揮系統であるが、実働においては事務方は俺ら実働を優先し、日常においては事務を優先する習わしなので、1年を通して事務方の支えられて生きているのが実働なのだ。
新入り達は分かってはいないが、ベテランたちが事務方には逆らわないので、どうも力関係が違う事は解っていたらしい。
事務方の新入り達は不思議そうに先輩方を見ていた。
「何処かに事務効率が上がる魔法のアイテムはない物だろうか」
「何を子供のような事を」
「そうだきっと空にある」
「どれ位の倍率がいいですか」
「・・・」
「私達も別に増やしたくて増やしているわけではないのです、実働の訓練内容は知っていますし、必要とはわかってはいますが、かといって実働が事務をサボれば関係する部署は麻痺します、いいですか隊長?」
「はい」
「実働の大変さは知っておりますし、この為に事務の方も何とかしておりますし、この改善に関しては委員会や様々な関係各所が動いています、ですが現時点ではまだ無理なのです、隊長や指揮官達の事もあります、我々も静かな食事が欲しいのはいけない事ですか」
「いえ当然と思います」
「では何故飛行スキルを使うのですか」
「・・・すみません」
「分かってくれればそれでいいのです」
力関係の構図を例えるのなら空母と艦載機のような関係だ。
空母なくしては艦載機は飛べない、空母はそのまま航行はできる。
事務方なくして実働は機能しない、事務方は何処でも必要とされて生きていける。
新人たちはこの会話で全てが分かったらしい、事務方を怒らすと指揮官達の仕事量が急増し、この作業の結果として自分たちの首を絞める事になると。
なんとも世知辛い社会の仕組みであった。
□
午後の仕事が終わり、事務方に差し入れを行い、一日の仕事がやっとの事で片付き、軽い飛行スキルからの空を楽しむ、大きな組織となった為に空の探索は一時的に延期されているのは、偏に技術的な問題、飛行技術は高く十分なのだが、大型の飛空艇は設計すら困難であり、これを設計ミスの一つもなく全て暗記するのは困難の極みだ。
実働の方も事務方のおかげで随分と改善され、飛行歩兵の部隊の方でも組織の急所であるのが事務だ。この改善の為に委員会もあるが、中々難しいらしく思う様な効率化が図れない、その最大の理由は事務に集中し、これをこなす事務の技能の高さにあり、通常の技能程度なら当に飛行部隊の組織は機能停止だ。
実働は飛べればそれでいいのだが、事務の方はそうはいかない、最初から全てを学んでもらい、0からノウハウを教えるしかない、気の遠くなるような事務の仕事量を少数でこなすために満たちは組織の効率化を常に図っている。
他の騎兵や機甲兵達の方も似た様なものではあるが、飛行歩兵のような大所帯ではない為にマシな方でもあるのだ。
開発チームもこの事務の効率化の為に色々とやってはいるが、難しい事らしく、もし本当に事務効率が上がる魔法のアイテムがあれば是が非でも手に入れる。
この為に飛行歩兵の事務は、普通の事務作業とは比べようがない困難である、また扱う全てが特殊な素材の為に、これも更に困難を添加している点だ。
事務の負担が少しでも減ればと思わない飛行団の者が居ない程の仕事量なのだ。
潜水団でもこの飛行団の事務の事は有名だ。事務の腕利きのみで構成されるために専用スキルも極めて高レベルな物であり、特に筆写スキルは既にランクはⅤに達する。
他の事務的な生活スキルも数多く育てたとしても、人数を増やすだけでは無理なために事務員たちの育成には全力で有った。
多忙の仕事量の楓も、この事務のスキルノウハウを学び、今では少しの実験タイムが出来る程だ。
実働の方も学ぶべきではあるが、どう見ても向いていない、筆写のスキル練習を少しした実働の者が面倒になって逃げだすほどのレベルの難しさだ。
近くの造船師達の方も、大型飛空艇の開発には設計の段階すら難しい、この基礎的なレベルが終わりかけた頃でもあり、あまりの事に海賊団も協力し、何とかモデルケースにこぎつけた。
農園なども多忙であるが、飛行歩兵より派遣された事務員により、今では劇的に楽なっており、牧場でも似た様なものだ。
工事の方も少しずつ事務系スキルを育て、やっとの事で少しの効率化が図れた。
事務の仕事とその育成と各所に対する事務員の派遣まで行う、気の遠くなるような仕事を行うのだ。
事務の作業部屋は意外な事だが普通の部屋であるが、特殊な事務機械が多く普通の者では扱えないレベルの専門的な物が多い、一般的な事務用のパソコンもあるが、そんなレベルの道具では、仕事の量に対しての処理する側が圧倒的に足りない、今の10倍の人員はいる計算で、数多い専門的な高速事務処理機器を使って、現在のレベルに達したのだ。
事務の専門家によって支えられるのが飛行団という事になる。
それでも夕方に終わる事は稀だ。日が完全に沈んで終わるのが常なのだ。
この為に事務は大切にされる、どこも感謝しているし、多忙の仕事を支えてくれる有り難い人たちなのだ。それも試験というのに事務を担当してくれる、全く見向きもされない仕事をただひたすら行ってくれる、頭の下がる思いだ。
そんな事務の人達も仕事の難しさは痛感しており、これを普通の団員に行えというのは無理であると判断している、何せ筆写スキル、整理スキル、事務スキル、書類スキル等々、数多い事務系のスキルを育ててもなお難しいのだ。
昼食の時間の遊びの方は事務も多めに見ているのだ、何せまだ若いし、中には幼い者もいる、遊ぶなというのは無理であると判断し、新人たちに少しの時間位はくれる。
この為に指揮官達も最低でも事務の仕事を行う為に、スキルポイントから事務だけは取ろうとしたが、事務員たちに停められた、その理由は実働能力の低下だけは避けなくてはならないと、この事が実働は事務に従う様になった事の一つだ。
飛行団の急所、それが事務なのだ。
飛行歩兵の指揮官達も、仕事が終わり飛行の時間だ。
そこに開発チームの裁縫師の長であるアキラが急いで事務室に走っていく、中に入ってから大騒ぎだ。
これに俺達実働も駆け付けると、アキラより説明があった。
とある手掛かりが手に入った、事務能力を微かに上げるアイテムの手がかりだ。
非常招集が開始され、全作業が停止、空港の広場に集まる飛行団のメンバー。
説明を受けた各所も、事務作業には常に悩まされており、満場一致でこのアイテムを手に入れる事が決定した。
造船師達の長であるシドが一つの決断を下し、全ての工程を省いた大型飛空艇の生産を行う決定を行う。
反対はなかった、事務の仕事効率が微かでも上がれば自分たちの作業量が相対的に上がる事を意味し、当然の様な趣味の時間も増える。
色々と規定もこともあるが、楓も委員会と話し合い、飛行委員会も組織の急所である事務の効率化は急務であり、微かな向上でも欲しかった。
かくして微かな事務効率向上の為に飛行団は動き出した。
□
完成された大型飛空艇、正確には超弩級に属する飛空艇だ。
命名に関しては造船師達に委ねられ、いつもの名前から旅の導きという名前が付く。
完成した後の今までの技術が投影され、実用レベルにまで調整される。
珍しい事ではあるが、今回は飛行団の命運に関わる事なので総員で向かう。
小さい連中は空の旅に胸を躍らせ、空の旅の難しさを知る年長者は渋い顔だ。
全クルー分の調整を終え、全長1km、全高100mはある巨船だ。
「おし、歩兵は甲板に行くぞ」
飛行スキル使い甲板に降り立ち、実働部隊の主力である飛行歩兵達は、武器を実体化させ警戒態勢に入り、こう言う実働能力はずば抜けて高い。
造船師達によって飛行歩兵用の防御機構が取り付けられており、機甲兵達の為に滑走路もある、騎兵達の為の厩舎もあり、小さな空港のようなものだ。
射撃担当の部隊が、実体化した武器の複合ライフルのオプションを変更し、警戒用のライトに切り替える、装飾スキルを持つ者は耐寒装備に切り替え、準備を整える。
「零」
最年少のキャスターの指揮官の名前を呼ぶ、まだ満10歳の少年だ。低身長の事もあるが、複数のスペルを操る正真正銘の天才の一人だ。
「?なんだ」
幼い感じの零ではある。
「装備の切り替え方針だ。急ぐ必要はないが慣れろ」
「了解」
武器専用装備の複合系の中でもサポートを操れる系統の武器は難しい、単純な武器の機能だけでは済まない物であり、キャスターの為に常に改良される物の一つだ。
副官より装備の変更マニュアルによって変更項目をェックする。
対応する装備はまずは警戒、暗闇での活動も視野に入る為に各種バイザーやメガネも必至の装備となる。
「スオ、近接の方は装備シフトは完了した、一部に関しては偵察任務を与え上空へ派遣しておいた」
「おう。助かるぜ。しかし工兵が欲しいな」
「それは贅沢な意見だ。まあ有ればどれ程助かるか、想像もつかんよ」
「今回は失敗は認められるが、欲を言えば工兵に該当する装備が欲しい」
「代用スキル装備、スキルに代わりになる装備、幾つかのスーパーレアドロップにはあるとは聞くが、その代表格が鳥タイプ、飛空艇落としには感謝しなければならない、だがらといっても集め過ぎればこの船が落ちる、頃合いが難しいな」
「そうなるな」
「それと、量産の方はどうだ」
「無理だろうな。熟練訓練が出来ない」
「確かに」
飛空艇のエンジンが動き出し、回転翼の駆動から動き始める。
「動くな」
「ああ。ついに旅の始まりだ」
射撃より装備シフトが完了し、手間取っていたキャスターよりも報告が入る。
「おし警戒入れ」
警戒態勢に入り、近接、射撃、キャスターの三人一組になっての警戒PTになり動き出した。
飛空艇が上昇を開始、回転翼の姿勢制御が変更され斜め上を向き、斜め上に上昇し始め、巨大な物体を浮かせるほどの高出力エンジンの安定性は高く、一切の妙な音一つない。
上空警戒に出ていた近接の一部が帰還し、総員が警戒態勢に入る。
巡航飛行に入り、初期のスカイドンキーに比べれば高速で有り加速性能も高い。
「思いの外、速いな」
俺の呟きに、近くのコウも頷き、指揮官達が集まる一角での定期報告も入ってくる。
新人たちは初の空の旅で、とても喜んでいる者が多く、ベテランが様々な事を教えていた。
椅子に座っての暇潰し、料理スキルや成果スキルのある者が茶菓子を配り、装飾スキルがない者に暖かいお茶が配られる。
上空に出る、安定高度に達したらしい。
海賊のメンバーが監視塔に入り警戒に入る。
程なくして鳥の発見が始まり、警戒網に引っかかる鳥に対し、エンカウントする恐れのある鳥は少なく、操縦が上手く避けているらしい。
「エンカウント確実が一匹入りました」
「警戒態勢を引き上げろ、射撃は迎撃準備」
指示を出し、こんな巨大な船でここまでの時間を稼げたのだからすごい操縦スキルだ。
喜ぶ新人に対し、古参の方は舌打ちし交戦準備に入る。
撃ちたがる新人に拳骨を落とす古参達も居るが、冷静な新人の中には鳥を観察し接近しすぎるとに対し何らかの対策はないかと議論する者もいる。
俺のスカオ専用武器、対物複合ライフルを握り、指揮官待機所の狙撃台より狙撃を開始する。
かつての大量消費はなく、単発の大しての効率化は進み、MP消費量も五発を撃つまでに効率化が進んでいる。
2kmの狙撃範囲の限界ギリギリで撃墜し、開発チームの観測員も満足できる結果であるらしい。直ぐに監視員の怒声が響く。
「交戦反応よりリンク!数12匹!」
始まった交戦、ひたすらリンクしていく鳥を撃墜していくものではあるが、飛空艇の兵装は大型に対しての物で、小型の鳥は得意とはしないので、兵装の使用許可は下りない。
量産され改良されている複合ライフル改良型MkⅢ、このライフルによる集中砲火が始まり鳥が次々に撃墜されていくが、その数十倍の数がリンクによって現れる。
対物による狙撃、消費されたMPは薬師達によるMP回復用のPOTにより回復される。
そこに更に鳥の増援が舞い込み、射撃が猛烈な対空射撃を行い、撃墜するが次第に迎撃網を掻い潜りスペル範囲に達し、キャスターの指揮官である零の怒声が響く。
放たれた単体系攻撃魔法により一撃で鳥が撃墜されるが、より強力な交戦反応により拡大するリンクに、数多い鳥が現れる。
近接の古参達も舌打ちし抜刀する中、近接指揮官のコウが一つの決断を下し、盾アーツの使用許可が下りる、これにより誘き寄せられた鳥が近接によって狩られ始める。
弓師達の限界警戒網には引っかかるタイプはないが、暇を感じた弓師達も援護に入る。
分かっていない新人も居るのに対し、冷静なタイプの新人はあまり歓迎できない状況に麻痺を鳥に掛けて撃墜する。
激しい交戦の真っただ中、監視員の判断により騎兵達に要請が入り、現れた飛行騎兵達の登場により、更に敵を呼び寄せるので薬師達の顔が曇る。
ハイケルの判断により軽騎兵による迎撃が始まり、重騎兵達は一応出撃準備のまま待機、可能であれば出撃が始まらない方がいいが、既に交戦に入った鳥は四桁を突破していた。
観測員もあまり良い表情ではない、交戦は良いが、これによりリンクに依っての招かざるエネミーの登場だけは勘弁願いたい。
「大鷲にリンク!数2!」
中型飛行エネミーにリンクされたことで、ついにハイケルも重騎兵に出撃を許可する。
小型、中型のリンクにより交戦範囲は拡大の一途を辿り、射撃担当による迎撃網は既に疲弊していた。絶え間ない射撃や狙撃による疲労、消費するMP、回復が間に合わず、撃墜できないエネミーがキャスターによって撃墜され、さらに拡大するリンク範囲により沢山のエネミーが引っ掛かり現れる。
指揮官待機所にブロードが現れる、観測員より報告を聞き顔を曇らせる、ブロードも消費する量に対しての効率があまり良くない事に、エンカウント率の拡大は歓迎できない事の一つだ。
鳥系のエネミーは物理耐性を持ち、通常の物理攻撃が効果が薄く、弱点となる魔法攻撃に対しては範囲の大きい交戦反応を示し、増援を呼ぶ、撃墜される度に広域にわたるリンクを発動し、更に弱点の魔法に中でも、耐性の低い物に対しては強力なリンク反応を示し、最大限のリンク反応を巻き起こす。
これにより現れるエネミーは飛躍的に増加し、中型エネミーの空の主力が登場する。
小型に対し、中型の性能は飛躍的な物が有り、全てにおいて勝る上位互換だ。
弱点である魔法耐性に対してのリンクの範囲は広域に渡り、運が悪ければ大型という強力なエネミーを招き出す。
物理で倒せるようなレベルではない為に、必然的に魔法で倒すしかなく、これによるリンク反応によってさらに増加を起こす、空での戦い常に数との戦いだ。
これを回避するために開発チームも、造船師も、海賊も苦心するが難しい事であった。
海賊の中でも腕利きの操縦、別に操縦の腕前が良い訳ではなく、いかに交戦を回避するのか、この一点に付き、長時間の回避を可能とする海賊に対しては海賊団の長より操縦が任される。
レーダーも、索敵も難しい空の中で、勘だけを頼りに全てを行うのは至難のレベルだ。
主力の登場により、射撃の迎撃網は縮小し、効率は劇的に低下、キャスターたちも激しい迎撃を行うも、主力は既に船に接近し対応する近接によって狩られるも、数において勝る空のエネミーの浸透率が高くなるのは必然で、騎兵達との激しい戦いを行う。
弓師達も監視員との連絡から、そろそろ現れるタイプとの交戦準備に入る。
「ドラゴンだ!」
ついに引っかかった大型、最強の空のエネミー、弓師達が武装を展開し、飛行歩兵用の防御機構を動かし、この迎撃を行う。
交戦継続時間はすでに限界の半分に達し、消費された量を計算する観測員は顔はあまり良くないから暗くなる。
ドラゴンは動きの鈍い大型だ。機動性能の点に置いては最低ランクであるが、その強力な耐久度においては比類なきものがあり、この為に飛空艇の最大の障害となる。
飛空艇の兵装が準備される、対騎砲がハリネズミの様に突き出はじめ、放たれる初弾に対しての監視員の反応は好評だ。武装面の強化は成功、一撃で落とされたドラゴンは撃墜反応により超広範囲に渡るリンクを行う。
機甲兵達もすでに準備に入っており、甲板の滑走路には出撃準備に入った機甲兵達が、海賊の甲板員によってチェックが入る。
激戦の中、最強の飛行機兵により、大型狩りが行われる。
交戦限界に近付きつつあり、射撃担当が休憩に入る、キャスターたちも休憩に入り、近接の負担が急激に上昇、これによる弓師達の限界迎撃が行われ激しい戦いは一つの節目に入る。
騎兵達も主力をよく迎撃し、良く落とすが騎兵は防戦を得意とはしない、特に軽騎兵はこれを苦手とするために、休憩に入り重騎兵達が武装の強化を行い、この負担を担当する。
飛空艇の武装による大型に対しての砲撃も行われ、ひとまずは小休止に入る。
「小休止!」
これにより歩兵達は休みが入る、新入り達は緊張が解け倒れる者が相次いだ。
観測員により結果が報告されるが、やはり新入り達の効率が悪い、特にキャスターたちの節約志向のなさは悲劇的な物だ。
中には好い結果を残す者達も居た、薬師との関係が深いチームで有り、麻痺による無力化によって消耗を限界まで抑えていた。
問題の新人教育もあるが、キャスターたちに指示し、バテステによる無力化を命じた。
これを受け、キャスターたちの指揮官である零も、薬師達も対応する物を生産し始める。
激戦の中、この無力化に命令により、効率は劇的に改善され、何せ魔法耐性が低くい空のエネミーは、妨害の成功率が高く一撃で倒す事もなく無力化される事で、リンク範囲が激的に低下し、この密度の低下により激戦の方は落ち着き始める。
この結果に繋げたチームには専用装備の許可を出した。
見るからに喜んでいた、戦う中、妨害魔法の攻撃や、薬師によるバテステによって戦いは収束し、ひと段落する。
観測員も上機嫌で報告し、指揮官達もホッとしていた。
空の探索の経験法則、小型・中型は倒す事なく無力化せよ。
空の探索、迎撃効率の向上によって、半数が夕食を食べる。
指揮官達も、今回の教訓で得られた事を直ぐに纏めて配布し、なんにせよ探索経験は必要不可欠と言えた。
話を聞いた事務も大喜び、これで記載される数が激的に下がると。
開発チームも薬品に着目し、この開発の為に農園側と話し合う。
楓もこのバテステの戦いには感心し、専用装備の開発がすすめられた。
夕飯の料理は飛行食材による簡単な軽食ではある、ただ一つ一つが非常に美味しく手間暇がかかったものだ。普通のタコ焼きのようなものだが、市販のタコ焼きとは全くの別物だ。
□
夜の見回りし甲板の警戒も落ち着いていた、零の妨害魔法にの範囲系による広範囲に渡る妨害網により、戦わずに迎撃でき、全体的に楽できる、ただ零は幼い為に副官がしっかりと休ませていた。
薬師達も、無力化に依っての薬品開発を行い、特に手軽な麻痺は広く勧められる攻撃手段だ。
弓師達もこの薬品を飛ばす為の矢の開発を行い、射撃もスコープなどでの警戒を行う。
近接は比較的暇ではある、ただ何かあればすぐに動くので射撃と共に警戒に入っていた。
一つ一つのチームと話、一人一人からしっかりと話を聞く、特に武器の改善には意欲的だ。単純に倒すという点ではなく、可能であるのなら実弾の麻酔弾による攻撃が望ましかったからだ。
専用装備の開発が許可されたチームは、開発チームの開発室での装備の調整中だ。
このまま実験小隊として発足し、開発チームの支援を受ける。
小隊長の方は、チームの纏め役が行い珍しいが薬師の青年が行う。
他の新人たちも自分達も専用装備を目指し励む、特に前衛担当は羨ましくない筈がない。
見回りが終わり、飛行歩兵隊長室での事務作業を行い、事務員よりも報告を受け実験小隊のおかげで随分と改善され、俺の事務作業も軽量化されていた。
幾つかの武器の方針もあり、バテステが可能な実弾系に取り舵を切る。
開発チームの開発室にこれを伝えに行くと、代表の楓も居て読んでから沈黙していた。
E系などは単なるエネルギーを放出する程度で済む、魔導系はMP依存の為にマガジンが要らない、両方とも飛行歩兵との相性は最高峰である、軽量な所も好感が持て何かと好評ではあった。
実弾系は特にも角にも嵩張り重い、バテステが可能な実弾ではあるが、相性は最悪だ。
銃職人たちも沈黙する楓の表情を見て戦慄していた。
考えから生還した楓は、困った顔で確認する。
「実弾系に方向転換?」
「せざるに終えない、もし真正面きっての戦いになればMP依存は正しいが、探索の場合は無力化優先だ。馬鹿正直の戦いは愚の骨頂だ」
「でも、実弾系だよ?」
「するしかない、簡単な計算によれば今までの薬品消費量を抑えられ、各所の負担は劇的に改善し、効率化による探索は見間違えるほどに成功する」
「無理じゃない、その視野も入っているけど物資の問題があるよ?」
「その点は任せろ、浮島がある、ここでの小さな空港を建設し、物資の備蓄を行う」
「うーん。まあ確かに、そうなんだけど、武器開発の大変な騒ぎになるよ」
「仕方ない、こればかりは避けられないしな」
楓は渋る、話を聞いていた銃職人たちも楓を心から応援していた。
今までの複合ライフルもあり、新兵器開発に舵を押し付ける俺に、渋らない開発チームの者はいなかった。
話を聞いた他の部署の者も渋る、仕事を増やすなとは言えないが、可能ならば増えないで欲しいと願う人の怠け癖もあった。
話を聞いたアキラも現れる。
「ちょっとスカオ、なに無茶を言うのよ」
「ならこの飛空艇が撃沈されても良いのか」
「それをどうにかするのが歩兵の仕事じゃない」
「このままであと数日で薬品が切れる、節約しても持って1日、これを増やしてくれる魔法の使い手の知り合いがいるのか?」
さすがにアキラも強くは言えない、激戦も事ともあって薬品は湯水の如く使われる、その消費量を考えれば1%の効率化でも喜んで行う、それ程の激戦でもあり、総力戦のような戦いを経験すれば、少しでも効率化を進めたがる指揮官しかいない。
「開発チームにも仕事はある、それを蔑ろにする気はない、しかし限界のある積載量の問題を改善したいと思わない者が居るか、可能ならば余った積載量がそちらに転がるかも知れないぞ」
天秤に重しを置く、実験機材の必要性を強く要求する開発チームもこれ辛かった。
「農園なども必要になったのに園芸のエリアの方も色々と問題があるそうだぞ?」
更に重しを置く、開発チームも計算するが不利、しかし悪くはない話ではあり、特に実験機材の方にはついつい耳が傾く。
「そう言えば機甲兵の方も最近積載量の事で揉めていたな」
更に重しを追加していた。
全体的に渋るが、必要な事でもあるというのは理性ではわかっている、しかし仕事の急激な増加は歓迎できなかった。
「薬品の方も、新種が追加できる様なスペースが作れば、楽になるのではないのか」
各個撃破に走る、これに薬品チームの方は白旗を上げる。
「物資の中でも食べ物の事で悩む者は多い、特に甘味料の事で悩むのはよくある話だ、ところでアキラ、そのチョコは重いか」
弱点を突いた、積載量の問題から趣向品の甘い物は厳しく制限される、甘い物が好きな開発チームの弱点を突かれ多くが白旗を上げた。
アキラも必死に反撃を考えるが不利だった。
楓も万に1の賭けの為にアキラにレイズ。
しかしカードの方から明らかに不利だった。
「そう言えば雑誌の方はどうした」
「汚いわよ!」
「一人当たりの積載量も随分と緩和されるのではないのか」
「楓!」
アキラよリレイズされた、楓は困る、形勢が余りにも不利過ぎた、しかしどうにかしなければ新兵器開発の重しがのしかかる、だが実験機器は欲しかった。
多くが天秤に対しての重しに、白旗を上げる、楓も大好きな実験機器の為に、新兵器開発に携わるしかないが、人とは違う価値観のある為に多くの者が悩む。
頃合いを見計らい一定の譲歩を考える。
「自動販売機の方はどうする」
全員が白旗を上げる。
一つの交渉が終わり、部屋に戻り、ひとまずは自動販売機の設置を許可した。
開発チームからも実弾系に舵が切られ、報告を受けてから許可書を提供した。
開発チームは常々、コインで買える自動販売機が欲しかったが、積載量の問題からこれの許可には猛烈な反対が起きていた。
話を聞いたドレイクからも連絡があり、用意していた報告書を持って向かう。
「自動販売機は重いぞ?」
「こちらの一読を」
渡した報告書を読む、ドレイクはその効率化による恩恵に、両目が大きく見開く、副団長の方もこれには興味を示し、渡された報告書を読み嬉しそうに許可していた。
「薬品一つでこれほどの結果になるとはな」
「空の旅は困難だ。これを解決するのは総員の問題だ。しかしどこもトラブルや仕事量の増加は歓迎したくない、ある程度の譲歩位はまだマシだ。開発チームも我慢していた物が手に入るのなら少しの仕事の増加位は許容範囲内だ」
「難しいものだ。開発チームは自動販売機、歩兵は新兵器、俺らはエンジンの増加、確かに悪い話ではなかった」
「兄から色々と習った、何せうち等の暴走機動兵器がいたから、この為に重しの研究はしていた」
「夕霧か、ただ、何かと問題を押し付けられるようになるぞ?」
「改善できるのならよいが、無理なら保留する、それで少しぐらいは良くなるのなら問題はない」
「そうか、良い夢を」
別れてから、部屋での作業を行い、疲れもあって深夜には休む。