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青い空の下  作者: カリーヌ
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彼女のラブソング

マアムと青年は年も近く、すぐに仲良くなった。


青年には友人も多く、マアムは皆に紹介され、変なあだ名を付けられたりしながら、愛され、寂しさを徐々に忘れていった。


そうやって時間は流れ、やがて青年はマアムの田舎に遊びに来たりもするようになった。


こんな一談がある。


田舎にやって来た青年が、トイレに行こうとした時の事、当時田舎のトイレはドッポン便所と言って、汲み取り式の物だった。都会育ちの青年は驚き、トイレを済ませる事が出来ず、ギリギリまで粘った挙句、寸での所で母に使い方を聞き、駆け込んだ。

皆の笑い話になった。

今の子供たちは男性用の洋式のトイレの使い方が分からないと言うが、同じ様なことかもしれない。


青年はキジ撃ちが気に入り、何度も行きたいとせがんだが、ここでもトイレの問題があった。

母が、でもトイレはどうするの?と聞くと青年は黙した。外で用を足すのが苦手で、初めての日など、帰りまで我慢して死に目を見たのだ。


マアムは、トイレというと青年を思い出すと言う。


思い出す。




呉服屋も、青年を気に入っていた。


年の若いマアムを残し、夜遅く、飲みに連れて出たりもしていたようだ。


やがて、マアムと結婚して店を継いでくれる事を望みだす。



しかし物語を語るマアムの隣に青年は居ない。



ある2月、青年はマアムの父に、一週間程故郷に帰ると挨拶に来る。彼の故郷は北海道だ。土産は何が良いかとマアムとマアムの家族に聞くと、父の答えは雪が食ってみたいというものだった。


青年は苦笑いした。今と違い、冷凍で郵送する方法など無い。



苦笑いの顔を残し、青年は北海道へと飛行機で帰路に就いた。


それが青年を見た最後だった。




青年を乗せた飛行機が、堕ちた。


大きなニュースになった。生存者は無かった。




マアムは青年を探した。


青年の遺体が確認されなかったからだ。それは青年一人だけでは無かった。



マアムはその日から青年を探し、行き場を無くし、最後に彼の故郷である北海道へ移った。


呉服屋がどうなるか。それは彼女にも分からなかった。



彼女の人生は、そのまま今に至る。


青年や自分の父、呉服屋の方の援助もあったのかもしれない、そこに自分の店を持った。瞬く間に日は過ぎた。

時々、夢と現実が交差する中、彼女は自分の店をしっかりと切り盛りした。


それでも何かが変わってしまったのだ。今では時々彼女の気紛れで語られるこの話を、散歩道の彼もどこかのタイミングで聞いたのだろう。


若い頃には気付けない事が多すぎる。と、マアムは最後に言うそうだ。


おそらく、青年の死を受け入れてあのまま呉服屋に留まっていたらなら。

あるいは両手いっぱいの愛情を広げて待ってくれる父の元へ帰っていたなら。

苦い思いも胸を過るのだろう。今だから、ここまで来て、初めて過る思いかもしれない。愛する父も、この世を去った今。


彼女は今日も彼女の唯一のラブソングを、店で歌い続ける。




人それぞれの人生は、最終的には自分で選んでいるものだ。誰にも選べない。

皮肉にも時は前にしか進まない。待ってくれる事も無い。大切にしなければすり抜けて行ってしまう。



少し切ない、彼から聞いたマアムのラブソング。





散歩道の彼は、今日も暑さを感じさせない凛とした目をしている。


今日の暑さはMAXだ。私の体調のせいだろうかと思いながら、用意して行ったサンドイッチが喉を通らず、残して帰った。


そして帰宅後、私はキッチンで伸びた。


一時間程、そこに寝ていたようだ。私には持病がある。仕方無く、いつもお世話になっている先生に電話を入れた。自然療法で患者を治す先生で、一週間程サナトリウムに入り、デトックスの様な方法で自己の治癒力をアップさせる。運が悪いと一月程予約が詰まっている事もあるが、何度かお世話になっている強みで先生に直談判する事もある。空きが無いという時でも、大概は一部屋か二部屋の余裕がある事を私は知っている。だが今回は運よく空いていた。お盆中だが、先生の自宅とサナトリウムは近いのもあり、行く事が出来る事になった。


冗談抜きに、きつかったのだ。思えばこの夏、まともに何か食べただろうか?


そうしてこのお盆中、私はサナトリウムで過ごす事となった。











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