お盆
世間はお盆だ。
お盆にはトンボに乗ってご先祖様が帰って来ると言うが、あの話は本当だろうか?ご先祖様が乗るというおしょろトンボは、お盆の時期にやって来て、過ぎると共に去って行くと聞く。
私の実家もお盆らしい。私は実の所実家とさほど離れていないので、いつも気が向いた時に行ったり来たりしている。
「お盆の間、帰って来なさいよ。」母が言った。兄弟その他、帰って来るので顔を見せろとの事だ。私はいつもと変わりなく、行ったり来たりで、手伝いに捕まりそうな時は様子を見て逃げる。
13日、お墓参りには行って来た。
そこそこに慌ただしいのをかわしながらも、この処暑さのせいか、少し調子が悪く、食事が美味しくなかった。そんな時だからと、医者に言われたウオーキングはしっかりとやらなければと、大義名分ぶって冷房の効いた部屋から出る。しかし本当は、散歩道の彼に会うのが楽しみだった。
彼はいつもの場所にいた。彼にも、あまりお盆は関係無く見えた。
「私のご先祖の墓は、少し遠いのです。また改めて行きましょう。」そう言った。
外国なのだろうかと、思わせる。
キィイイイイイイィィ~~~~ン。キララララララ・・・・・
空気を伝って、そんな不思議な音が届く。暑さの中。
陽気楼に、いつもの景色が揺れている。
彼から聞いた話は沢山あるが、その中にはいくつかのラプソディーがある。
恋愛談とはまた別の、それは彼の醸すラプソディーだ。
マアムというその呼び方について、彼は女性に対し誰にでもその呼び名を使う。
一つ、こんな話がある。
日本の北にある町小樽に、その町と同じ名の喫茶店があるそうだ。
「本当にある。」と彼は言う。
そこのマアムは60を超えて独身だった。
夜の帳が降りる頃、店は飲み屋に変わり、町が夜更けを迎える頃、時々彼女は静かに馴染み相手にいつもの物語を語る。その時そこに居た者だけが聴く事の出来る、それは彼女のラプソディー。いえ、ラブソング。
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