自主性を持て!
「ゴゴゴゴゴ、グオングオン!」
地鳴りのような轟音で目が覚めた僕は、ノートパソコンを開いた。
聞き覚えのあるこの音は……ヤツの腹の音だ。
「うるせぇよ!」
「ぜぇぜぇ……やっと来たのかよ」
「何? ずっと素振りしてた訳?」
「お前がさせてたんだろうが! このクソ作者!」
「こいつまた言ったよ。 またクソって言ったよ」
「クソにクソって言って何が悪い!」
「ほう? そんなに降ろされたいのか?」
「く……」
「大体さ、お前って僕の意思に関係なく勝手に喋ったりするよね?」
「まぁ、そうだな」
「それってさ、お前に意思があるって事だよね?」
「確かに……そうなるな」
「自主性って言葉知ってる?」
「自分で判断してどうのこうのってやつだろ?」
「だったらさ……腹減ったら勝手にメシ食えコノヤロー!」
「……確かに」
「疲れたら休む、腹減ったらメシを食う、面倒くさいからそれくらいは勝手にしてくれ」
「お、おう」
「それと……食糧庫の隣に脱衣所を用意するから、定期的に風呂に入れ!」
「わ、わかった」
「脱衣所に風呂場とトイレがあるからな!」
「ど、ども」
素振りを終えて疲れ切った少年が床に座ると、突然……食糧庫の隣に新たな扉が現れた。
少年が扉を開けると、そこには脱衣所があり風呂場とトイレが別々に用意されていた。
素振りでかなり汗臭い少年は、食事の前にお風呂に入る事にした。
「そうそう、着替えはタンスに入ってるから適当に着ろ」
「う、うっす」
「それと、食糧庫の奥にキッチンも作っといたからな」
「……今日は怖いくらい優しいな」
「優しい?」
「至れり尽くせりじゃないか……」
「何を勘違いしてるのやら……まとめてやらないと面倒くさいだけだ」
「流石……クソ作者」
「クソクソ言うな! 抹殺するぞ!」
「サーセン」
風呂から出た少年は、脱衣所の鏡で自分の体を眺めた。
走り込みと素振りのおかげで、かなり逞しくなっていた。
少年は部屋に戻り、タンスから新しい服を取り出して身に着けた。
「お、おい……このシャツは何だ!」
少年が着たシャツには、大きな文字で[ドM]と書かれていた。
「あん? 普通のシャツじゃないか」
「ドMって何だよ!」
「何? 気に入らないの?」
「気に入る訳ないだろ!」
「他にもあるぞ? 下僕とか、家畜とか、クソガキとか」
「鬼かっ!」
「良く似合ってるじゃないか」
「悪魔め……」
「はいはい、戯れはそれくらいにして、さっさと飯を食え」
「くっ……」
新しいシャツに満足した少年は、食糧庫の食材を手に取りキッチンで適当に料理を作った。
少年は、何度か失敗の末出来上がった料理を部屋に運びテーブルに並べた。
「クソマズそうな料理だな……」
「料理スキルとかないから仕方ないだろ……クソ冬至!」
「はい、5点減点」
「減点だと……」
「そう、減点」
「そ、それ……減点されるとどうなるんだ?」
「んー、それは僕の気分次第?」
「ま、マジっすか」
「マジに決まっているじゃないか」
「う……この人マジだ、マジの目だ」
「さて、そろそろ本題に入りたいのだが」
「本題?」
「そこそこ鍛えて強くなったはず……なので冒険に出そうと思うのだけど」
「おっ、ついに冒険か!」
「まぁ待て、肝心の武器がないと敵と戦えないだろ?」
「た、確かに」
「流石に僕も、素手で戦えとは言わない」
「うんうん」
「そこでだ……これからお前には鉱山へ行って貰う!」
「へ?」
「だからさ、武器の材料の金属を掘るのさ」
「……えっと冬至さん? 武器とかも簡単に用意出来るのでは?」
「だってお前ってさ、ありがたみとかわからないじゃん?」
「じゃん? と言われましても……」
「それに、苦労して作った武器なら大事にしそうだし」
「は、はぁ……」
「なので、これから毎日8時間、鉱山で働け」
「……マジか」
「朝8時から17時までで、休憩は1時間な」
「は、はい」
「何度も言うけど、メシと風呂と睡眠は自分で決めてやれ!」
「……はい」
「それと、これ渡しておくから」
少年が食事をしていると、テーブルの上に突然、謎のリモコンが現れた。
リモコンには……液晶パネルの他に、青と赤と緑の3つのボタンだけがあった。
「リモコン?」
「そう、大事な話するから良く聞けよ」
「まず……青いボタンは、現在の場所を記憶する」
「場所の記憶?」
「とりあえず最後まで聞け」
「……はい」
「赤いボタンは、部屋に戻る扉を呼び出す」
「なるほど」
「これから冒険に出た時、部屋に戻ることもあるだろ?」
「確かに」
「まず、青いボタンでその時の場所を記憶させる」
「ふむふむ」
「それから、赤いボタンで部屋に帰る」
「ふむふむ」
「で、次に部屋を出ると……記憶した場所に行ける」
「それは便利だな」
「それと……緑のボタンは、過去に記憶した場所の選択が出来る」
「ふむふむ」
「複数記憶した場所がある場合、緑のボタンを押すと液晶にその場所が表示される」
「なるほど」
「緑のボタンを何度か押すと、行き先が変わる仕組みだ」
「何だか凄いな……」
「ふん……僕が本気を出せば、これくらい朝メシ前だ!」
「流石! よっ! 冬至様!」
「ふふん」
「だけど……それなら武器も用意して欲しかった」
「……う、うるさい! 明日から仕事だ! もう寝ろ!」
食事を終えた少年は、明日からの仕事に備えて早めに寝ることにした……。