とりあえず鍛えろ!
どれくらい眠っただろうか? 目を覚ました少年は、テーブルの前に座った。
「ふぁー、良く寝たな」
あくびをしながら背伸びをすると、数日何も食べていない少年のお腹が、地割れのように鳴り響いた。
「ゴゴゴゴゴ、グオングオン!」
少年は部屋を見渡す……だけど、部屋にはテーブルと照明以外……何もなかった。
「待て待て!」
「邪魔するな! 今、良い所なんだからさ……」
「いやいや、冬至さんよ……つっこんで良いか?」
「断る!」
「断る! じゃねーよ! 何だよグオングオンって!」
「そりゃあ……虫の声だ」
「どこの虫だよバカ野郎!」
「そこのクソ虫?」
「……おい、仮にも主人公をクソ虫呼ばわりするなよ」
「えー、良いじゃん」
「良くない! てかさ、メシ食わせろよ……」
「食わせろ? ご飯を頂けませんか? ご主人様の間違いだろ?」
「……マジか」
「降ろすよ?」
「……ご飯を頂けませんか? ご主人様」
「断る!」
「鬼! 悪魔! 鬼畜! ゴリラ!」
「ゴリラはやめろ!」
「お腹減った! お腹減った! お腹減ったー!」
「仕方ないな……え……メシ食わせてやるよ」
「今、エサって言おうとしたよな?」
「あははは、気のせい気のせい」
「……ウソつけ」
「え、何? 欲しいの? 欲しくないの?」
「欲しいです……」
少年は途方に暮れて、ただ天井を眺めていた……すると突然、部屋の片隅から眩い光が溢れだした。
少年がその光に近付くと、光が消えて新たな扉が現れた。
臆病な少年が、恐る恐る扉を開くと……何とそこは食糧庫だった。
空腹で死にそうな少年は、食糧庫にある人参に噛り付く。
「人参かよ!」
「何? また文句?」
「……いや、ボリボリ……別に、ボリボリ」
「……食ってるじゃん」
「……そりゃまぁ、ボリボリ」
人参1本を丸ごと食べた少年は、すぐ側にあるパンには目もくれず、人参をひたすら食べる。
「パン食わせろよ!」
「贅沢な野郎だな……」
人参に飽きたきた少年は、近くにあったフランスパンを丸のみした。
「死ぬわ!」
そして……人参を絞ったジュースで一気に流し込んだ。
「もういい加減、人参から離れようよ……」
「断る!」
「そこを何とか!」
「更に断る!」
「マジで誰か助けて……」
捨てられた子犬のようなヤツの姿に、僕は少し……同情した。
「同情っすか……」
沢山食べて満足した少年が部屋に戻ると、テーブルの上に1通の手紙が置いてあった。
そしてその手紙には……ただ「鍛えろ!」とだけ書いてあった。
「唐突だな……冬至さんよ」
「うん? そうか?」
「何か疲れた……」
「疲れてる場合じゃないぞ! 主人公たるもの強くあらねばならん!」
「そりゃ確かに」
「だろ? これからお前は、様々な敵と戦う予定だ」
「マジすか……」
「マジだ! だから、強くなって貰わないと困る!」
「はいはい……」
「はいは1回!」
「……はい」
「とりあえず、重さ30キロある棒を用意するから、素振りでもしとけ」
「30キロって……」
少年が手紙を読んでいると、背後からドスンと大きな音がした。
振り返った少年の目線の先には、1本の棒が落ちていた。
そして、少年はその棒を両手で持ち上げ……ひたすら素振りするのであった。