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明かりを下さい

 あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか?


 少年はひたすら走り続けた……終わりのない暗闇の中を、ただひたすら走り続けた。



「ぜぇぜぇ……マジか! 今回もこのノリか!」


「はいはい、主人公(仮)くん。 だから勝手に喋るなって」


「ぜぇぜぇ……鬼畜かよ! このクソ冬至!」


「少年は等々力尽き……」


「きゃー、冗談です。 ごめんなさい!」


 僕がこの小説を書き始めて数日たつけれど、全く進んでいなかった。


 それどころか……何か書くたびに、ヤツが僕の手を止める。


「話が進まないから、少し黙っててくれない?」


「無理!」


「いやいや……無理じゃなくてさ、普通喋らないから」


 言う事を聞かない子供を、必死で説得する親の気分は、こんな感じなのだろうか?


 正直、こんな生意気な子供なら……僕は欲しくない。


「おーい、冬至さーん!」


「今度は何?」


「そもそも、この話ってどんな話なのさ?」


「えっ?」


 ヤツの言葉にドキッとした僕は……しばらく黙り込んだ。


 キャラの設定や、話の道筋、その他もろもろ……その場の思い付きで書こうと思っていたからだ。


「……で? どんな話?」


「あ……いや、その……」


「まさか、考えてないとか?」


「うっ」


「図星かよ! やっぱクソだな」


「クソクソ言うな! これから考えるんだよ!」


「はい皆さーん、作者逆ギレしましたよー」


「ぐっ」


「無意味に暗闇の中走らせるとかないわー」


「うう……」


 あまりに正論のツッコミを入れられると、腹立たしくも言葉が出ない。


「……じゃあ、お前は何がしたいんだ?」


「……はい?」


「だから、お前は何をやりたい?」


「いやいや……投げたよ、作者が主人公に丸投げしたよ……」


「文句があるなら良い案だせっ!」


「しかも強気だよ……謎の強気発言キタよ……」


「ふんっ!」


「ふんっ! じゃねーよ! とりあえず走らせるの止めろ!」


「ほう?」


「そもそも、暗闇で放置とかありえねーし!」


「ほうほう」


「ほうほうって……」


 全くネタが浮かばなかった僕は、ヤツの言葉を参考に書くことにした。



 ほんの小さな光を頼りに走り続けた先にあったのは、眩い光を放つ1枚の扉だった。


 少年が扉を開けるとそこは……照明の他には何もない部屋だった。



「せ、せめてテレビとテーブルを……」


「えー、贅沢言うなよ。 そんな金ないから」


「金掛かるのかよっ!」


「いや?」


「だったら良いじゃねーか! テレビ! テレビ!」


「大体、走った後に部屋でくつろいでテレビとか、ただの健康志向のオヤジじゃねーか……」


「確かに……」


「まぁ、テーブルくらいは置いてやるか」



 少年が扉を開けるとそこは……照明とテーブルの他には何もない部屋だった。



「これで良し!」


「良くはないけどな……」



 走り疲れた少年は、部屋に入ると……そのまま倒れるように眠ってしまった。



 それからしばらくの間、ヤツの声は聞こえなくなった。


「なるほど」


 ヤツを黙らせたい場合は、眠らせれば良い事に……僕は今更、気が付いたのだった。


 こうして、結構なウザさはあるものの……ヤツの提案によって、僕は少し書き進める事が出来たのだ。




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