俺はいつかヤル男
俺は寝る体制になる。
ただし、布団に入ることもない。
充電用クレードルに差さりながら、ただ自分をスリープさせればよい。
こんなに寝付きが良いことなんて、今まであったかなぁ。
布団の中で、ひたすら、明日を嫌がっていた。
毎日、毎日、明日が嫌だった……。
俺は何のために、何をしたくて、そんなに我慢して生きてきたのだろうか。
中学生あたりかな……、そこから大学まで、そう会社に入るまで……。
それまで、俺は何もできないくせに、自分は特別製だと思っていた。
俺は、「いつかヤル男」だと思っていた。
意味のないプライドが先行して、親父の紹介での就職を断り、ブラックな会社に入ってしまった。
徐々に自分が何もできないことが鮮明になり、自分の外見も含めて全てがコンプレックスになった。
適度なコンプレックスを持つことは良いことだと言うけれど、コンプレックスが多いと、人生に萎縮してしまうのだ。
萎縮した人間は、何よりも弱い……。
俺は、「いつまでもヤレない男」になった。
しかし、自分の潜在的な可能性を諦め、弱さを受け入れても、生きていかなければならないことに変わりはなかった。
人間は生きる意味や目的を失っても、本能的に生き続ける生き物なのだ。
「生き」物だからな……。
俺は……、アヤノを助けたのではなく……、俺自身を助けただけなのかもしれないな……。
俺があいつらに立ち向かわなくても、あいつらはアヤノを刺さなかったかもしれない。
そう……、あいつらはアヤノを拉致ったりできなかったはずだ……。
あいつらには覚悟がなかった。
悪事を働くという覚悟がなかったのだ……。
俺は、俺自身の身勝手な自己満足のために、アヤノを犠牲にしたのだ……。
アヤノは俺のことを、この事件を、一生心の中に抱えて生きることになるだろう。
あの子はそういう子だ……。
「俺の事は忘れてくれ!」なんて、死んだ俺はもう、それをアヤノに伝えることは出来ない。
なら、どうすればいい?
俺は、アヤノにどう償えばいい?
そうだ……、結果的に……、アヤノが強く生きつづければいい……。
アヤノが自分自身の意志と決意で、自分の道を生きることが、全ての結果なのだ。
なら、俺は、アヤノの「生」を全力でサポートする。
ファン第1号?
その意味はとてつもなく重いぞ。
アヤノが夢を叶えたとき、俺の死はようやく、アヤノにとってマイナスではなくなるんだ。
でもオーディション落ちまくってるって書いてあったな……。
大丈夫なんだろうか……。
アイドルとして、何か致命的な欠点があるのかな?
そう……、俺はまだアヤノのことを何も知らないのだ……。
あゝ、やばい……。
バッテリー100%で充電中、体力が全然減らないから……、考え事が尽きない!
もうすぐ5時だ。