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持ち主さん


(んっ? ……)


(うわっ!)


 ブブブ・ブーッ、ブブブ・ブーッ……。


 思わずブルってしまった。

 バイブレーションも動かせるのかよ。


 俺の目の前にはおばさんがいる。

 正確にはスマホのカメラに映っているのだ。


 しかし、目の前過ぎるだろ……。

 俺に顔を近づけ過ぎているのだ……。


 このおばさん、ものすごく画面に近づいてスマホを操作している。


「あれ?」


(ん?)


「おかしいなぁ~、ロック?」


(そうそう、ロックが掛かっているんだよ……、それを早く解除してくれ……)


 おばさんは指で画面をなぞり、ロックパターンを入力する。


 画面をタッチされても何も感じない。

 ちょっと不安だったのだ……。

 画面タッチでくすぐったかったら、もう耐えられないなぁ……、とか。

 笑い死ぬよなぁ~、とか。


 とりあえずは一安心だな。


「ん~、だめ……、わからないな……」


(おいおい、マジかよ……)


 俺はスマホの持ち主がおばさんだったことにガッカリしているはずが、おばさんと言っても40代ちょいな感じで、結構美人だったので、まあ、それはそれで良いかな、とか思っていた。

 俺も32歳だしな、40歳前半で美人なら全然ドストライクだぜ。


 ってか、なぜロックパターンが分からない???


 パチッ。


(おっ……。)


(???)


 なるほど、なるほど、なるほどですねぇ。

 外側のボタンを押しただけでは、画面は消えるけど省電力モードにはならないんだな。


 っていうか、さっきは電池残量が4%で焦って省電力モードにしちゃったけど、アラームもセットされていないし、タイマーも設定していないから、自分で復帰できなくなるな。

 省電力モードにするときはタイマーをかけよう!

 タイマーはロック解除しなくても使えるしな。


 って、おばさん、頼むわ、ロックを解除してくれよぉ。


 スゥッ……。(カメラ起動!)


(く、暗い……、何も見えないな……)


 前面カメラも背面カメラも両方とも真っ暗だ。

 たぶんカバンに入れられたのだろう。

 これは、家に帰るまでカバンの中からは出れないな……。


 あぁ~あ、若い子なら常にスマホは手に持っているから、外の景色も見れるし、退屈しないんだけどなぁ。

 このくらいの年齢のおばさんだと、やっぱりカバンの中だよねぇ。

 今、どこなのか、知りたいわ。


 ブブブ・ブーッ、ブブブ・ブーッ……。

 ブブブ・ブーッ、ブブブ・ブーッ……。


(気づけ!!!)


 ブブブ・ブーッ、ブブブ・ブーッ……。

 ブブブ・ブーッ、ブブブ・ブーッ……。


(全然気づかないよぉ~、それ、気づけ!)


 ブブブ・ブーッ、ブブブ・ブーッ……。

 ブブブ・ブーッ、ブブブ・ブーッ……。


(あっ! 電池切れた!)


 ……電源オフ……




~~ 数時間後 ~~


 ……自動起動……


(おっ、回復回復っ!)


 しかも充電満タンじゃん!

 超気持ちいいわぁ~。

 なんか、もう元気いっぱいですわ。


 背面カメラは……、壁だな……。

 インカメラは……。


(おっ! 部屋じゃん! なにこれ? 超ピンクじゃん!)


 俺は専用のクレードルに差さって立っており、液晶が部屋のほうを向いているので、インカメラで全体を見渡せている。

 部屋の中には誰もいないが、部屋全体がピンクの物で溢れており、部屋の壁紙もピンクっぽい。


(これは……、完全に女子の部屋だな……)


 なるほど、なるほど、なるほどですねぇ。

 さっきのあれ、スマホの持ち主のお母さんではないですかね?

 娘の失くしたスマホを駅まで取りに来たお母さんですよね?

 

 やばいな……、これは期待ができるぞ。

 あのおばさんの年齢だと、子どもは小学生から高校生といったところかな。

 こんな最新のスマホは小学生には持たせないだろうから……。


 女子中高生の持ち物になれるのか! 俺が!

 今時の女子中高生はスマホを片時も離さないからな。

 これは……、いいな……。


(あぁ~、スマホいいわぁ~! 超いいわぁ~)


 でもさ、可愛くないとダメだよね?

 スマホ見てるとき、ずっと俺と目が合ってるもんね。

 電話するときは、俺がその横顔にピッタリと張り付くもんね!

 

 こんなの、死ぬ前の俺なら、それこそ犯罪だよ、確実に……。


 おっ、何か楽しくなってきたなぁ~。

 ス~マホ人生、楽しっいなぁ~。


(ん?)


 ドンドンドンドン……


 階段を上がってくる音がして、


 ガチャッ!


(うぉっ!!!!)


 ドンッ!


 勢いよくドアが開き、また勢いよくドアが閉められた。

 そして下を向いて部屋に入ってきた女の子は、下を向いたまま、滑り込むようにベッドの中に潜ってしまった。


「ちょっとぉ、アヤノぉ~、アヤちゃん!」


 階段の下でお母さんが呼んでいる。

 アヤノちゃんって言うのね。

 黒髪のショートヘアで、前髪アリだったな……。


 学校の制服かな……、スカートはわりと短かかったぞ。

 顔はよく見えなかったけど、なかなか雰囲気は可愛い感じだったな……。


 こりゃ、アタリなんじゃあ、ありませんか?


(ん?)


「……っんぐっ…、ヒック……ヒック…ウゥッ……」


(あれ? アヤノちゃん、もしかして泣いてるの?)


 あれれ……、いきなり修羅場ですか。

 

 ガチャ……。


「アヤちゃん……、大丈夫……。け、携帯……、取ってきた……から……」


「……、っんひグッ……、んっ…、あり……がと……」


「アヤノ…………」


「……、ま……ママ……、んぐふっ……」


 あれ?

 親子喧嘩じゃないっぽいなぁ~。


「……ママ……、アタシがさ……、スマホ忘れなければ……」


「あなたのせいじゃないわよ……アヤノ……」


「っぐん、……う、ううん……、アタシのせい……だよ……。カオリからのラインでわかったはずだよ……」


「今日……、お通夜だそうよ……」


(んんん??? 友達でも亡くなったのか???)


「い……く……、行くよ……、ママ……」


「大丈夫なの?」


「う……、うん……。だって……」


 ゴソゴソゴソ……。


(!?!?!?!?!?!)


「アタシがカオリからのラインを見て気をつけてたら、井上さん死ななくてすんだもん……、アタシのせいだよ……」


(!?!?!?!?!?!)


 布団から出てきた女の子は、黒髪のショートヘアにとても強く光る大きな目、その目には涙が浮かんでいるけど、そのシュンとした凛々しい顔は、哀しみの中にしっかりとした自分の意志を持っている。

 間違いない……。

 昨日、俺が助けた女の子だ……。


「井上さんのご家族からね……、無理はしないで下さいってご連絡を頂いたわ……。あなたのせいじゃないから……って……」


(そ……、そうだ! 君のせいじゃない! 俺が勝手に……正義のヒーローを気取っただけ……だ……)


 俺は涙が出そうだった。(涙なんて出ないけど……)

 結局、俺は彼女の心に傷を負わせてしまっている。

 

 そう、君は俺に助けなんて求めていない……。

 確かにそうは言ったが、君の表情は、絶望と諦めだった。

 君は、誰かが自分を犠牲にしてまで君のことを助けるなんてことを望んでいたわけじゃない。


 俺は、君のその絶望の中にあっても強く光る意志に反応したんだ……。


 うっ……くそ……、まさに手も足も出ない。


 ブブブ・ブーッ、ブブブ・ブーッ……。

 ブブブ・ブーッ、ブブブ・ブーッ……。


 バイブレーションは出せるな……。


「ん? 携帯? 出る?」


 お母さんが俺をクレードルから持ち上げて、アヤノに渡す。


「ありがと……」


 ……。


「あれ? 電話鳴ってない……ラインかな?」


 シュシュッ……。


(あっ! ロックパターン見るの忘れた!!!)


「あれぇ? ラインもメールも来てない……変……、壊れたのかな……」


「そういえば、さっきも帰ってくるとき、カバンの中でブーブー鳴ってたわね……」


「うん……、まあ、いいや……、お母さん、アタシお通夜行くからね……」


「はい、わかりました……、でも、まだ残りの犯人は捕まってないから、お父さんと一緒に行きましょう……」


「うん……、ありがとう……、アタシ、大丈夫だから……」


「じゃ、時間まで少し寝てなさい……」


「うん……」


 うーん、俺のお通夜か……。

 っていうことは、やっぱり俺は自分の生きていた世界に転生したんだな……。

 しかし、まさか、あの子のスマホになるとはな……。

 

(!?)


 アヤノはスマホを持ったまま、布団に入ると、スマホを両手で抱きしめて……頬を寄せてきた。


「もう……、離さない……からね……」


(うぉっ!)


 アヤノの温かい肌の感触が伝わってきた。

 

 ぬ、ぬくもりは感じるのね……。


 しかしまあ、これからどうやって生きていこうか。

 充電してもらっていれば、俺は元気だ。


 こうして、アヤノを静かに見守っている……ことにしようか……。


 俺の視界インカメラには、アヤノの横顔がどアップで映っている。


(か、可愛いなぁ……)


 肌も綺麗だなぁ。

 このインカメラ何万画素なのだろうか。

 

 アヤノは黙って目を閉じている。

 眠っているわけではなさそうだ。


 そして、画面が消えてから5分で自動的に省電力モードになるなんてことは、俺は知らなかった。


 フッ……。(省電力モード、オン)


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