アヤノと俺……。
「ねえ、見える?」
(!?)
アヤノはスマホを省電力モードから復帰させ、背面カメラを外側に向けて持ち、誰かに言った。
(き、きれいな景色だ……。うちの近所にこんな公園あったっけ?)
「あれ? 見えないのかな?」
(ん? アヤノは誰に言ってるんだ?)
「カメラにしないと見えない? アタシの声は聞こえてるの?」
(ま、まさか……、俺に話しかけてる?)
俺は突然の展開にかなり驚いたが、頭をフル回転させて答えた。
《アンシンシテクダサイ、ミエテマスカラ……》
「やだぁ、まじぃ? あなた、ギャグも言えるのね」
《カメラヲ、キドウシナクテモ、ミエテマスヨ》
「そうなのね……、ここ……、いい景色でしょ……」
《ハイ……、トテモ、キレイデス》
遠くを見つめるアヤノの顔は、透明感があって、とても綺麗だ。
俺は、どちらかと言うと、景色を見ずにアヤノを見ていたい。
見晴らしの良い丘の上で、一人の美少女が、スマホの人工知能に話しかけている。
俺みたいなキモメンが同じことをやっていたら通報モノだろう。
綺麗で可愛い女の子は何をやっても「絵」になるのだ。
人生は不公平だが、俺はアヤノを見ていると、そんな不公平は当たり前だ、と思えてくる。
強く輝く眼のチカラ、その意志を感じさせる表情、そして、整ったパーツ……。
彼女は「不公正に扱われる権利」を持っている。
アヤノは遠くを見つめながら、俺に話しかける。
「うちから少し距離はあるんだけどね、自転車で来れるの。中学の頃のクラスのダンス発表の練習とか……、ここでしたわ……、アタシはここが好き……」
《……。》
「ふふっ、そんなこと言われてもって感じよねぇ? スマホに話かけて……、アタシも相当変ね……」
《……。》
俺はどう対応していいか、わからなかった。
アヤノがなぜ、スマホの人工知能に語りかけているのか、分からない。
「そんなこと、プログラムされてない……もんね……、でもね……、何か……感じるの……」
アヤノは俺の身体を目の前に持ってきた。
そして、その液晶ディスプレイを強いチカラの眼でじっと見つめた。
(えっ? な、なに?)
アヤノはゆっくりと、言った。
「あなたは、誰?」
(えぇっ!?)
俺は反応できなかった。