アヤノが少し元気になってます。
興奮するとバイブはブルブルしちゃうし、カメラも勝手に撮っちゃう。
スマホの身体、制御が難しいな。
俺の視界の範囲でアヤノが着替えを再開した。
黒の上下の下着を身につけると、制服ではなく、短いヒラヒラしたスカートとパーカーを着て、俺を手に取ると、パーカーの小さなポケットに半分くらい俺を入れて、階段を駆け下りる。
(おっ、落ちるぞ!)
階段を駆け下りるときは、超不安定な状態だ。
も、もっと大切に扱ってくれぃ!
(落ちたら、やっぱり痛いのかな?)
「ママ! ごはんある?」
「アヤちゃん……、おはよう……。あるわよ……。せわしない……」
「ママ! おはよー! お腹すいたっ!」
「どうしたの? 元気ね……」
「あれ? なんでかな……? 元気だね……アタシ……」
アヤノはポケットから俺を取り出すと、少しだけ俺をじっと見つめる。
そして、そのままテーブルに俺を置くと、朝食を食べ始めた。
(ついに……、ついにアヤノと会話ができたな……)
スマホになった俺は、人工知能の機能を使って、アヤノとコミュニケーションをとることに成功した。
俺はそれが嬉しかった。
アヤノは怪しみながらも、俺を受け入れてくれた気がした。
(いやいやいや、単なる機械だ。所有物だ。誰しも自分の持ち物には愛着がある。それと、俺自身は何も関係がない……)
「ママ……、アタシ、今日はちょっと出掛けてくる。」
「そう……、どこに行くの? もう大丈夫なの……?」
「大丈夫っ! 遠くには行かないよ。いつもの……、公園だよ……」
「わかったわ……、お昼までには帰って来る?」
「もちろん! お昼はママ特製のオムライスがいいなっ!」
「もうっ……、今、朝ごはん食べているのに……」
「食欲でてきたのっ! ごちそうさま!」
アヤノはパンと牛乳、サラダとソーセージを一気に食べると……
「あっ、軽くメイクしよっ」
洗面所で歯を磨き終わると、階段を駆け上がり、部屋のドアを勢いよく閉めた。
俺は、食卓に置きっ放しだ……。
いつもの公園……、ってどこだろうか……。
俺はアヤノのバッグに入れられて、たぶん自転車のカゴの中だ。
振動がひどく、気持ち悪い。
でも、酔って吐くなんてことにはならないだろう。
口とか無いし。
省電力モードにしておこう……。
……。




