プロローグ
あ〜、寝不足だ。
ついついネットで色々と調べてしまい、寝たのは明け方の4時49分28秒だ。
正確には、省電力モードになった時間だな。
朝は朝で、6時にアラームで起こされて、顔を洗いたくても、洗えず、あっという間に周りが騒がしくなってしまった。
俺は今、駅の忘れ物取扱所に保管されている。
ここは朝から慌ただしい。
昨日の夜、電車の中に忘れ物をした人たちが、次々に取りに来る。
しかし、俺を失くした人はまだ現れない……。
誰だか知らないけど、早く取りに来て欲しいよ。
んで、まずは充電して欲しい。
はぁ~、暇だ……。
しかし、まあ、柄にもないことをしてしまったものだ……。
~~ 回想 ~~
昨日の夜、俺は少しだけ残業して会社を出た。
たしか、20時過ぎだったと思う。
いつもよりは早く仕事を切り上げた。
しかし、早く家に帰っても、何もやることは無いし、家族がいるわけでもない。
一人暮らしはもう10年近くにもなる。
当然、家に夕飯もないが、外食はお金がかかるし、外で遊ぶのはもっとお金がかかる。
となると、自然に足は家に向かう。
コンビニかファストフードでメシを買って、テレビを観ながら食おう。
結局、いつものコースだ。
しかし、その日は、いつもと違うことが起きた。
家の近くのコンビニに立ち寄ったとき、店の前で一人の女の子が、数人の男たちに囲まれていた。
まだ中学生か、いや高校生かな、なかなか可愛い女の子が、いかにもな感じの若い男たちから、何やら罵声を浴びせられている。
構わない……、構わない……。
俺には関係が無いことだし、俺は強くもない。
周りの大人たちも、みんな見て見ぬ振りだ。
子どもの頃に憧れた正義のヒーローには、簡単にはなれないのである。
あゝ、さっきの牛丼屋にすればよかった……。
俺には関係が無いことだが、やはりこのような状況に出くわすのは嫌な気分だ。
これで明日、事件にでもなっていたら、本当に後味が悪い。
なんか、俺が悪いことをしたような罪悪感を持ってしまう……。
俺は若者たちの視界に入らないように気をつけながら、コンビニの自動ドアを目指す。
「……け……て……」
(ん?)
彼女の小さな小さなヘルプが俺の耳に入ってきた……。
そして、この小さな声により、俺の人生は大きく変わってしまったのだった……。