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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

狂わされる私

作者: 黒ユリ

あまり激しいものではないのですが、一応残酷な描写ありと、R15のタグをつけさせてもらいました。

 夜に音楽室に行くと飾ってあるベートーベンの目が動くという話はよく聞く学校の七不思議だ。 

 でもそれはただの七不思議。怪奇現象とかおこるはずがない、そう思って相手にもしなかった。そんなものを楽しそうに話しているものも、怯えながらはなしているものも馬鹿にしていた。


 私は音楽を授業で選択しているので、6時間目に音楽の授業があったのだが、机に筆箱を忘れてしまった。普段なら翌日、登校したら教室に行くよりも先に音楽室に行って筆箱を取りに行くのだが、生憎あいにくテスト1週間を切っているので筆箱がなければ勉強ができない。一応鉛筆はあるのだが、芯HBという薄さなので2Bを愛用している私にとっては耐えられない。

 

 学校にはまだ数人の先生が残っていて、忘れ物があるので取りに行きたいと伝えると

「早く取りにいけよ? 俺、早く帰りたいしー」

 と生徒から人気の先生が気の抜けた声で返事した。めんどくさくて上履きを履かないで音楽室へと歩む。意外と滑るので転ばないように気を付けながら早歩き。


 音楽室に入ると凄まじいほと感じる、悪寒。背中につうっと冷や汗がつたうのが分かる。とりあえず、電気をつけなきゃ。電気をつければこの悪寒も消える、根拠もないのに確信に近いかたちでそう思った。

 一刻も早く、そう思ったからか、かなり荒い動作で叩くようにスイッチを押す。  


 いつも通りバッハ、ビバルディ、ショパン、ベートーベン、モーツァルトの肖像画が飾ってある。


 しかし、ベートーベンの肖像画だけが異様な姿であった。


 確かにベートーベンの目は動いていた。動いていたということよりも、目が充血していて、なにやら狂気のようなものが見え隠れしている。そのことが怖かった。


「ひっ」


 ぶあっと広がる嫌悪感。

 一歩一歩と後ろに下がる。脚がガタガタと震え、使い物にならない。それでも必死に脚を動け! と念じながら動かす。

 その姿を見てベートーベンの目はにやりと楽しそうに、いや、どちらかというと醜い快感を感じているように歪めた。

 筆箱も取らずに、ベートーベンの肖像画に背を向け全速力で職員室へと走る。誰かに会いたい。あまりにも怖くて動悸が収まらない。本能が危ないと告げているんだ。そう分かると抑えていたものがはずれ、とめどなく涙が流れる。  



 

 「お? お化けでも見てきたのかぁ!?」


にやにやしながら私に問いかける先生。いつもならイラッとするのだろうが、今はその言葉が心の底から安まる。恥ずかしくて、見ちゃったんですなんて言えないから

「見てません。あくびのせいです。では、さようなら」

と言ってごまかした。


 走って家に帰ればお母さんも、お父さんも、妹もいて安心した。

 今日見たことを言うと、

「皆気のせいだ」とか、

「そんなわけないでしょ」

と言って信じてくれなかった。そう、以前の私のように。

とりあえず、布団に横になれば疲れていたせいか、あっという間に夢の世界にいた。



*********


これで終わりだと思っていた。音楽室にいくのは怖いけれど、皆と一緒だから耐えられる。そう思っていた。


 けれど終わりなんかじゃなくて始まりだったなんて思わなかった───。



いつでも感じる視線。それはあのベートーベンの視線と全く同じで芯から感じる恐怖感、嫌悪感。体温が一気に下がるのが分かる。

 あの時のことがフラッシュバックする。赤い充血した目、狂気を宿した目、そして醜く歪んだ目────。

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

 いつまでもついて来る視線。ねっとりと舐めるような視線に鳥肌がたつ。気持ち悪さを通り越してとてつもない恐怖を感じる。


 今日も、

 今日も、

 今日も、

 今日も、

 今日も、

 今日も、

 今日も、

 今日も、

 今日も、

 今日も、

 今日も、

 今日も、

 今日も、

 今日も、

 今日も、

 今日も、あの視線はついて来る!!


「もう! いや!! ついてこないでよぉぉおお!! 気持ち悪い、怖い、もう耐えられない!! こんな思いするくらいなら………いっそ……して……おう……うふふふふふ、きゃはははは!! これで私は自由だわ!! アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」


 狂ったように笑い続ける娘の声を聴き、少女の母親は駆けつけた。そこには涙をながし、希望が映され、キラキラと輝いていた瞳は隈凄くて濁った何も映さない瞳に変わっていた。ぐしゃぐしゃに乱れた髪を振り回し、一房口に入った状態で狂ったように笑っている。

 

 母親は娘の状態に放心していた。

 暫くすると頭の中は後悔の嵐だった。カウンセリングを受けさせるべきだったということや、どうして娘があれほど怖がっていたのに、あの日言っていたことを信じてやれなかったのか。そのことがぐるぐると頭をめぐる。


 台所に行って果物ナイフを掴む。軽くてあまり力の入らない手でも楽々掴むことが出来る。

 そのナイフを持ち、学校へと行く。月は爛々と不気味な程輝き、ナイフが月の光によって光る。学校までの道はほとんどが墓地なのでほとんど人が通らない。それが好都合だった。ナイフをも持って歩いている姿なんて通報されてしまうもの。

 

 ゆっくりと学校の階段を登る。髪は乱れ、何も映さない瞳で血の気のない顔はきっと幽霊のように見えるだろう。それほどまでに精神状態は悪かった。もう、限界だった。いや、限界を通り越して狂ってしまっているのかもしれない。

 音楽室の扉を開ければあの日のようにベートーベンの瞳だけが赤かった。ゆっくりと、ゆっくりとふらふらしながらベートーベンの肖像画のもとへと近づいた。そしてナイフをベートーベンの充血している瞳に刺す。耳をつんざく悲鳴が聞こえたが、構わず刺し続ける。刺しては抜いて、刺しては抜く。それをひたすら繰り返す。ベートーベンはまるで泣いているように赤い涙を流した。 

 自分の赤く染みがついたワイシャツを見て、石鹸で洗ってから洗濯機に入れなきゃな。とぼんやり考えながら帰る。


 翌日、いつも通り登校する。昨日退治したせいか、視線を感じることはなかった。

 学校に着くとパトカーが止まっていて、なにやら不審者が住み着いていたらしく、そこが音楽室にある隠し部屋があり、そこにある穴が丁度ベートーベンの目のところにあったらしい。

 不審者は目が充血しており、精神病をわずらっているとのことだった。それは時には幻覚も見ることもあるらしく、重度のもので薬物使用者でもあったらしい。


 ふふふふふふふふふ。もう本当にこの苦痛とは離れられるのね。釈放されても、目は潰しておいたから私のことが分かるはずはないだろうし。

 




一人の人生を壊しても罪悪感など感じなくなってしまった主人公。


一番怖いものってなんだろう?その問いの答えが私には人間でした。だからこの目の状態は幽霊でもなく、妖怪でもない人間の目なのです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 狂気に染まっていく人間を上手に表現したお見事な文章力! 大変勉強になります。 きっかけは怪談であっても結局一番怖いのは人間の狂気ですよね。
2015/07/17 15:48 退会済み
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