第六話 八十七階で一週間?
あれから地上では約一週間が過ぎた。
そんな中、迷宮“奈落”の八十七報の中で二人、正確には一人がカエルもどき共と闘い一体が休むというかたちで存在していた。人間の方をアオトと言い、幽霊の方をレンと言う。
「はあああああああ!!」
思いっきり振った水で出来た脆い剣は数回振っただけで弾けて統率力を完全になくしてはいるが、カエルもどきの皮膚が真っ二つに斬れている事から、一時的な強度だけは他の普通の剣よりも数倍程頑丈であるようだ。
「!!?」
カエルもどきは一瞬にして脳天を斬り裂かれ、鳴き声にすらなっていないうめき声をあげて仰向けに倒れ込んだ。その状態は誰がどう見ても死んでいるというだろう。頭から足の先まで綺麗に二等分された胴体は、内側からおびただしい程の鮮血を流している。
とは言ってもまだまだこれからである。カエルもどきはまだ後15匹もいるのである。それでもアオトの立っている足下を見ると肉片と化したカエルもどきと血の水たまりが大量に出来ている事からかれこれ100近くを殺している事が想像できる。
「その力過去に国を焼き払った 炎は衝撃波となり辺り一面を焼け野原へと変える!」
そう唱えた瞬間にアオトの周りが赤く光り、魔力が体内から体外に放出されている事が分かる。その光は、熟練の戦いで鍛え抜いたかのようなオーラまで感じられる。それを本能で感じ取ったカエルもどき共は一歩後退りをして逃げる素振りを見せている。
「“炎衝破”!」
アオトは魔法名を唱え、魔法を使用する。すると、アオトを中心とする半径20m程が瞬時に燃え盛る。と、数秒経った頃に何の前触れもなく炎が大きく膨れ上がった。どうやら最初の状態でも相当な熱量を持っていたが、今は1000℃程の炎だろう。そして、これまた一瞬にして炎の熱量が弱まっていく。勿論、アオトはこの炎の近くにいて熱くないと言えば嘘になる。
現に肌が赤く火傷をしているところもあれば茶色くもう焦げているところもある。
だが、ステータスの事もあるのかそれとも最近の慣れによるものなのか耐えられない程ではない。
ついでに説明をするのなら先程使った魔法は王級クラスの魔法になる。魔法の段階には、下級、中級、上級、最上級、王級、帝級、神級、破滅級と順々に強くなっていく。《火球》は下級に分類されるが“魔力操作”で魔力の込める量を増やせば、魔力の量だけ例えば城サイズの《火球》を作る事も不可能ではない。唯、それ相応の魔力を込める時間と量を必要とする。量に至っては大きな下級の魔法を使うよりもっと上の城サイズで言うと帝級(その中でも一部の広範囲魔法)の魔法を駆使した方が何かと便利だ。神級に関しては神話でしか出てきていないし、破滅級に関しては存在するのかさえ疑わしく今まで存在したという文献が神話にも存在しない。
この話はもっと適したときに詳しく話すとしよう。何たってアオトが今いるのは迷宮でしかも敵の強さが異常な所だ。強さがものを言うのだ。細かい事は関係ない。
「オーバーキル過ぎるでしょ。加減しないと駄目だと思うんだが」
「その辺は置いといて……」
「いやいや、置いといちゃ駄目でしょ」
「さて、余った死体の吸収といくか」
「いや、聞けよ!」
漫才をしているみたいだがアオトもレンも至って真面目である。
そして先程出た《吸収》だが、これにはもう一つ制限がある事に気が付いた。重大な制限だ。
吸収できるのは自分と同じレベルの数だけだと言う事だ。
これに気が付いたのは六日前でレンが倒した魔物を取り込んだ時に取り込めなかったのだ。それを不自然い思ったアオトは瞬時に理由をステータスで見ようとした。だが、何も出て来なかった。いや、何にも気づかなかったと言った方が適切だろうか。勿論、鑑定を俺のスキルにも掛けてみて試したが、結果は同じだった。そこでそのまま立ち止まってしまうのは危険だと思い、安全地帯に入り念入りに調べた。
そうした結果発見する事に成功したのだ。記載されていたのはスキルの説明の下の方で普通の字の十分の一程度の大きさで書かれていたのだ。【吸収魔法は自分のレベルと同じ数しか吸収できない】と。とそんなもの普通の字も小さいのにそれより小さいのに気づくわけがないだろって言うのがアオトの考えだ。
そこで一つの感情と言葉が浮かんできた。
憎悪。そして……。
これ創ったの誰? 殺しても良いわけ? こんな事が出来るのは精々神的な存在程度か。神だろうとなんだろうとミンチにして良いか?
と言う普通の高校生の考える事じゃない言葉。アオトはもう人間でいる事すら辞めてしまったのだろうか。
それでも自力で魔物を倒せるようにしてなんとかここまで来たのだ。本当にこんな運命にした神も呪って良い? て、感じだ。でもそんな考えは普通の人間なら笑って流せるが何故かアオトはいつか本当にやりそうであったとしても苦笑いしか浮かんで来ない。
……そんな事も何かぽつりと呟いていたな、と何故だか思い出してしまったレン。そんなレンの気持ちを知ってか知らずか次々と吸収していくアオト。
今のアオトのステータスはこんな事になっている。
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カイジョウ アオト
17歳
種族 人間……
職業 勇、者?????
レベル 63
体力 231540
魔力 231320
破壊力 98562
耐久力 230219
魔耐久 231231
俊敏力 97332
知能 215446
運 645
魔法適性 炎 水 雷、土
スキル 経験値9倍 成長力9倍 鑑定 アイテムボックス 言語理解 複製魔法 霊召喚魔法 吸収魔法(32) 隠蔽 潜在能力解放魔法 剣術lv7 擬態 魔力変換(+土 +水)
称号 異世界人 勇者? 最弱だった男 奈落の淵に落とされし者 スライムキルマスター 霊王 真の力に目覚めし者 八代目勇者ナンバーワン レベル置き去り ステータス1000オーバー ステータス10000オーバー 極めし者(仮) ステータス100000オーバー 人ならざるもの 群れ狩り 覇者 強者 狩人
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称号がまた多くなり、スキルも増え、ステータスも大幅に上昇していた。
レンの複製を吸収した数だが最初を含めて二体しか吸収していない。理由としては自分の複製をそう何個も並べてほしくないとレンが提案したためである。
「……そろそろ八十八階層に行っても良いんじゃないのか?」
正直この階層で一週間も住んでいれば飽きてくるものだ。魔物は全てカエルもどきで道も毎回同じ。多分誰でもそろそろ飽きて他の階層に行こうとするだろう。
別にアオトは食い物に関しては全くと言っていい程困っていない。カエルもどきの肉は食えるとレンに聞いて鑑定までして調べたところ食えると言う事が分かった。しかも超絶品だとか書いてもあった。最初は食うのに抵抗があったアオトだが、一度口に入れたらもう次から次へと口に放り込んで残りの全てを食ってしまった程だ。丸焼き良し。蒸すの良し。生も良しとどんな食い方をしても不味くはなかったそうだ。カエルもどきの肉を生は流石に嫌だが。
「別に良いんだが……良いのか? もしかしたら登れるかも知れないよ?」
「登っても上までつくとは限らないから落っこちたらヤバいだろ。それにもっといろんな奴を吸収した方が強くなれるだろ」
「ま、そんなもんか」
「そんなもんだろ」
こうして準備を整えにおなじみの安全地帯に戻ったアオトとレンは次の階へやっと進むのだった。レンはこの先に対して少し抵抗があるようだが。
遅くなってすみません。
家庭の事情があるのでだいたい平日に出して、休日は休み。時々二回連続か休日にやっていこうと思います(遅れなかったら良いけど)。