第三十八話 待ってろ
遅れました。続きをどうぞ。
「本当にこのシルエットは竜……なのか?」
いきなりの異世界と言ったらの定番の出現に多少驚きを見せたが瞬時に状況把握のために落ち着きを取り戻す。
「深呼吸、深呼吸。すーはーすーはー」
状況の整理と一緒に勝利の可能性を考えだす。
「良し、竜に俺は勝てるのか? その前に本当に竜なのか?」
脳を疑問が駆け巡る。
「見に行かなくちゃ何も始まらねえよな」
結局はこの提案を考えだし、納得する事になるのは仕方がない事だろう。なぜなら彼は―――
「本当に勝てるのか? まあそれでも燃える所もないわけじゃないんだがな!」
オタクなのだから。
「待ってろ。コトノーー!!」
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話は移り変わりコトノの居る地上に……。
「ううっ……こ、ここは?」
コトノがやっと気を取り戻したとき最初に目にしたのは真っ白な天井と眠っているセイイチだった。
「私は……………………アオト」
自分がどういう状況に置かれていたのかをやっと思い出したコトノははっとした表情に変わり、そして絶望へと表情を変える。
「……コトノさん? 気が付いたんだ……コトノさん!」
「さ、触らないで!」
起きたセイイチがコトノが目を覚ましたことに気づき抱きしめようと両手を広げた。だが、コトノは不安定な感情故もあってそれを拒み、セイイチの手を払いのけた。
「え? ど、どうして……」
「……」
コトノに手を払いのけられるのは予想もしていなかったセイイチは一瞬どころか数秒の間沈黙する事になった。コトノもコトノで別の意味で沈黙を守り、セイイチに冷たく、拒絶する眼差しを向けた。
「……ごめんなさい。シンコウジ君」
「謝らなくて良いよ。いきなりだったらそうなるもんな」
流石に先程のはコトノが非を認めた。とでも思っただろうか?
(アオトに会うためにもシンコウジ君を利用しない手はないよね)
少々どころか凄く酷い事を考えている気もするがそれだけコトノがアオトを好いていると言う事だ。
「それと僕の事はセイイチで良いよ」
「う、うん? セイイチ……君?」
「うーん。ま、それで良いよ」
戸惑いが残る中、コトノとセイイチだけのコトノからしたらうざいとも言える時間が終わった。
「コトコトー」
二人の空間に割って入ってきたのはコトノの一番の友人(アオトを抜いた)である千羽香織だ。成績は普通で顔は整っているいてポニーテールがよく似合った子で何より運動神経が高く、日本にいたときにはテニスにバスケ、サッカーにバレーや弓道と剣道、空手などのスポーツから武道にも及ぶ運動で実力を残してきた。特に空手は全国大会へ何度も出場している事もあり大人顔負けの力と身のこなしを武器としている。そしてもう一つ特徴をあげるならばニックネームの付け方と陽気な喋り方だ。
「目が覚めたんだね。心配したんだよー。ほら、あたいは別の所に行ってたから」
「ごめんね。そっちは大丈夫だったの?」
「別に対した事はなかったよ」
「そ、良かった」
カオリがコトノの寝ていた部屋に入ってきてからは彼女に全ての話の主導権が回り、セイイチは直ぐ近くにいると言うのに空気を化してしまった。
「……カオリさん、僕いるの―――」
「コトコトー。アオアオは死なないんだから落ち込んじゃ駄目だよ?」
「気遣ってくれてありがとう。でも大丈夫よ。私がアオトの事を一番信じてるから」
アオトが落ちたときとは段違いのアオトへの信頼を感じさせる言葉を紡ぎだした。やはりアオトとコトノの信頼は一時的に感情的になるようなこともあるがほぼ常に信頼し合っているようだ。
「そっかー。そうだよね。うんうん」
「カオリさん?」
「あれ? セイッチー居たの?」
「セイッチーって……。いたよ。ずっと」
「へー、そうなんだ。ふーん」
カオリは本当にセイイチのことに気づいていなかったようだ。気づいてもさして気にも止めていなかったようだが。
「ふーんって。まあ良いよ。カオリさんはなんでコトノさんが起きたって分かったんだ?」
「勘です!」
「どんな神経してるんだ!?」
「こんな神経です」
「……これ以上は疲れる」
「セイッチーって話すだけで疲れるんだねー」
「……もしかして気づいてない?」
「?」
やっと気づいたセイイチだがカオリに首を傾げられ、頭に?を浮かべられれば返す言葉がない。
「セイイチ君、カオリにそんな事聞いても野暮な事だと思うよ?」
「へ、へー」
「??」
「僕ちょっと先生達に知らしてくる」
「???」
そう言ってセイイチはコトノとカオリを部屋に残し、皆が訓練をしているであろう訓練場と個別で休んでいる人達に知らせにいくのだった。そしてそれを見送ったのは頭に沢山の?を浮かべたカオリと呆れたコトノだった。
「もう良いでしょう?」
「天然は元々だよ?」
「それでもあそこまでじゃないでしょう?」
「バレてた?」
カオリは少々であって本当に天然の塊ではないようだ。
「何年一緒にいると思っているのよ」
「そうだよねえ」
「まるわかりよ」
「あたいは天然であって天然にあらず!」
「何言ってるのよ、もう」
どこか親密感が高い会話が部屋に木霊する。それはセイイチがいたときにはなかったものだ。
「で、どうしたの?」
「セイッチーがくっ付き過ぎだったから。コトコトにくっ付いていいのはアオアオとあたいだけだから」
「なんでカオリも入ってるのよ……」
「アオアオは認めるんだー」
「ま、まあね。でもそれだけでここに来たわけじゃないんでしょう?」
絶対にと言った確信もないがそこは何年も一緒にいる仲と言ったところか。確定した言い方でカオリに問いかける。
「うんうん。正解だよー。実はねえ、セイセイの様子がなにか気になるんだよねえ」
「と言うと?」
「昔から思っていたんだけどーセイセイってアオアオの事をあまり良く思ってないようなんだよねえ」
「あ、それは私も思っていたよ」
「でー、セイセイがアオアオを落とした憎き奴らとなにか繋がりを持とうとしてると思うんだよー」
「もう持ってるんじゃなくて?」
「何となくだけどね」
「カオリの勘は良く当たるからなあ」
コトノが起きた時も勘だけで来たのだから才能とも言っていい程のものだ。
「的中率99%を誇っているからね」
「1%はアオトのことで、だったよね」
そんな事を話すコトノは昔を思い出すように目をひそめ、カオリでさえ遠くを見ている。
「本当驚かしてくれるからねえ、コトコトの恋人さんは」
そんなことを言われたコトノは耳どころか首まで赤く蒸し上がった。
「こ、恋人って! 別にそんな関係じゃ……」
「ないって言い切れないでしょ」
「……」
「帰ってきたらコトコトをこんなに心配させた事を怒らないとね」
「怒るって、逆に私泣き崩れちゃうと思うよ」
「だよねえ……ラブラブー」
「もう、カオリ!」
「てへっ」
ふざけた感満載のままの表情をコトノに見せつけるとカオリはそのまま部屋を出て行った。その歩くのに「たたたたた」と言いながら出て行ったカオリはやはり結構な天然なのだろうか。
「アオト……信頼してる。信頼してるけど」
その言葉を紡ぎだしたコトノは目を閉じてアオトの姿を思い浮かべる。
アオトの後ろ姿は大きくて、絶対に誰にも屈しない不屈の精神を持った姿。
アオトの目は全てを飲み込んでしまいそうな揺れる炎を刻み込んだ深紅の瞳。
アオトの手は私をいつも引っ張ってくれた逞しい姿そのもの。
アオトの言葉は私を包み込んで安心させてくれた誰の言葉よりも強く逞しくて美しいもの。
『待ってろ』
アオトがいつもコトノを安心させるために言ってきた言葉。その言葉が強く胸の中で思い出す。そしてその言葉を胸の中で逆再生を何度もして繰り返し見るかのようにしながらコトノはベットから下りて窓際まで移動する。
(アオトが今の私を見ていたらこの言葉をかけてくれるのかな)
そう考えると少しだけ胸が軽くなってきたような感覚がした。同時に辛く苦しくなる感覚も感じた。
そして流しては駄目な筈なのに、アオトを信じるならば流すのは止めなければならない涙が一筋の線をひきながらゆっくりとコトノの白い顔を撫でながら床に吸い込まれていった。
「信じている程悲しいの。苦しいの。辛いの。切ないの。心配なの。もう待つのは嫌。一緒に歩いていきたいよ……」
震える唇を動かしながら途切れそうになる言葉をなんとか紡ぎだすと次々と涙が溢れてきた。一筋どころか大量の涙による線を作りながら。それを出来る限り堪えるように下唇を噛み、我慢しようとするが涙はそう簡単には止まらなかった。
コトノの部屋とその近くの通路の一部には一人のすすり泣く声が木霊した。
「コトコト、もらい泣きしちゃったじゃない。アオアオは帰ってきたらきつくあたいが叱らないと」
コトノの部屋の扉に背をもたれさせていたカオリは一筋の線が顔を撫でる前に右手で乱暴に拭き取りその場を離れた。コトノの部屋とその前の通路には二つの涙がある事を知る者はカオリ以外の誰も知らない。
シリアス下手?
すみません。こういう作者です。
なんか最近シリアスが多い?
なんででしょうか。作者にも分かりません。
駄目駄目ですね。それとカオリのスキルは一部強化魔法です。効果は強化魔法と異なり、数mならばほぼ瞬間◯動をする事ができたり体の一部を鋼鉄のようにする事が出来たりと筋肉とかに作用するものです。強化魔法はステータスを強化するものです。
感想、ご指摘お待ちしております。




