第三十七話 絶望の巣
続きをどうぞ。
「……夢か」
昔の日本であった事(転移させられる少し前だけだが)と奈落に落ちた時の事を多少夢で見たアオトは意識を取り戻してから時間をかけて今の時間を噛み締め、ゆっくりでそれでもはっきりと目だけを動かした。
「コトノ……ダレン」
まず最初に浮かんできたのは幼馴染の顔。アオトの前で優しく、そして自分を励ますように声をかけてくる幼馴染のコトノの顔。
そして次に浮かんでくるのは異世界に来て初めて仲良くなったダレンの顔。イケメンで笑ったときに周りに人が寄ってくる(殆どが女性)のははっきり言ってこいつをぶん殴りたくなってくるが人当たりが良く、なにより自分に良くしてくれる数少ない人だ。きっとコトノの事を守っていてくれるだろう。
「早く帰らなきゃな」
異世界に来て少ししたときに三人で城から出て城下町を散歩した事がある。季節は日本で言う夏でこちらにも四季がある事を初めて知った日だ。アオトは果物を凍らせた(氷で覆った感じ)の容器を持ちながら二人についていき、ダレンも同じような物を違う果物を買っていたが躓いて転びかけてアイス的な物を落としたときにコトノは笑っていた。
そんな今はとても昔の事のような気がする大切な思い出。忘れる事のないアオトの思い出。だがアオトの姿はそんな思い出に今は姿がない。あいつ等の所に帰らなくてはアオトの時は思い出のままで止まったままだ。
「ダレンはああ見えてドジだからさっさと攻略しちゃうか!」
気合いを入れて立ち上がろうとするが……。
「あれ? ……貧血!?」
立ち上がった瞬間に揺らぐ脳、そして一瞬だが黒く視界が曇る。
「こりゃあ、さっさとなんとかしなきゃガチでヤバいな」
血の出る量が若干弱まっているような気もするがそれはせめてもの気休め程度だ。
「魔物を狩る」
決意をあらわにする。
「そしてコトノの元に返る」
その方向性を改めて省みる。
「前に進め」
気合いを入れ直すと同時にぎらぎらと炎が煌めく黒い眼差しで前を見据え、希望を取り戻したその手は固く握りしめられており何があっても離さない、取り戻すと言った意思表示が刻まれていた。
「ここは俺の帰還への第一歩だ!」
勇気を胸に刻み込んだアオトはスキル《気配察知》を発動する。すると視線の端にレーダーのような物が出現し、魔物の大きさや位置がある程度壁を透かして見えるようになった。
「便利だ、ここからは……遠いんじゃないのか?」
魔物の反応は距離にして800m弱。それが一番近い魔物であって違う魔物はそれよりも遠い場所に生息しているようだ。そしてそのシルエットは―――
「これは…………竜?」
今まで見た事がない希少で凶暴な魔物だった。六柱“絶望の巣”、ここにアオトに牙を剥く。
未だに毎日更新をなんとか続けていますが何時まで続くのやら。
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