第一話 覚醒
(な、何だ!?)
アオトが生への執着を強くした瞬間蒼音を包み込んだ光はやがて範囲を狭めていき、それに比例するように光は凝縮され光量を上げていった。
今更だがそんな事にも意識を置いときながらこんな事にも意識を置いていた。
自分はどれくらいの間意識を失っていたのかと。光が凝縮するまでは光が徐々に薄くなっていたので最初の光量から計算していくと約40秒程度しか経っていない事になる。ペースが変化し続けていると言う可能性もあるが今の状態ではこれ位しか考えられないと考えていた。その40秒の間に先程の事が全て起こっていたとなるとアオトは相当なハイスペースで記憶の中で存在していたと言う事になる。
『やあ、やっと自分の生への執着心を認めてくれたんだね』
何処からともなく、ではなくどこから聞こえてくるのかはもう粗方予想がついている。
光。
それが今自分に話しかけている存在。誠に不思議な事ではあるが、ここは異世界なんだから別に光が喋ったとしても絶対に有り得ないとは言い切れない。
『君は至って冷静なんだね。尊敬するなあ。おっと、そんな事は時間がないからまた今度。まずは自己紹介だね。』
アオトはまず自分に対して質問をするよりも自分の名を明かそうとする光に少しは礼儀が分かっている奴なんだと理解する。それと同時に時間がないって言っているのに自己紹介をしようとするのは馬鹿なのかと少し失礼な事を考えてしまう。
『僕は一応二代目勇者メンバーの来栖蓮。ポジションは一応魔法職をしてたんだ。と言ってももうこの世には存在しないけどね』
(なっ!)
アオトは表情を面にそのまんまびっくりしていますとでも書いたような表情をしてしまう。それもその筈だ。二代目。そんな言葉はこの一ヶ月どの歴史書を開いても出て来なかったからだ。勇者なんてものをそう何度もポイポイと出せるわけではないのだから歴史書には残っている筈なのだ。それなのにステータスの差を知識でもなんでもいいからつけて差を埋めようとしていたのだ。勿論歴史書も何冊も読んだ。それでも勇者が召喚されたなんて言葉は勇者の二文字すら出て来なかったのだ。
これはどう考えても言ってもおかしいだろうとアオトは思う。まだ王宮程度しか自由に行動出来ないが皆揃って「おお、初代勇者様」と自分たちが初めて成功した勇者だとでも言うかのような言葉をかけるのだ。確かにこのレンという光が嘘を吐いているという可能性もないわけではないが王宮の皆のこの事に対してのかける言葉は全て一致していたのだ。不自然にも思える程に。アオトはそれに加えてもう一つの理由がある。
(光が嘘を吐くところが想像出来ないんだよな。影なら容易に想像できるんだけどな)
となるとその伝承そのものが消失してしまう程前の話なのか。それとも―――
(誰かの意図が入っている?)
『今考えるのは無しね。後でじっくりと考えれば良いから。考えれるのならだけど』
アオトは最後の方が聞き取れなかったが聞く事はなかった。なぜなら光がつい先程時間がないと言っていたからだ。ここで危険を冒してまで質問するのはあまり得策ではないと判断する。
『僕の魔法は特別なのでね。潜在能力を開花させられるんだ。君には鑑定で見る限り結構な潜在能力が眠っているようだけど……死ぬか、生きるか懸けてみる?』
潜在能力。名だけではとても凄いものの様に感じるが実際にしてみるとそこまで効果があるものでないものが殆どだ。この世界では身体能力が上がったりとまあまあ役に立つがこんなところから落ちたのならそんなもの無くても一緒だろう。だが少しでも助かる可能性が、とんでもなく有能な能力が手に入るのなら……。
「勿論懸けるよ」
この答え以外は有り得なかった。どうせ死ぬなら何もしなくて死ぬより数千分の一の確率だろうと懸けてから後悔した方が良いと考える。だってアオトはもう今まで自分の弱さに何度も絶望しているんだから。今更その中に一つ入ろうとも然程変わる事ではない。
『……分かった。ついでだから残りの僕の魔力も全てあげるよ。それじゃあいくよ』
覚悟を決めた眼差しで前を見る。
「我は能力を解放できる超人的な力の持ち主なり 今こそ彼のものの能力を引き出し開花させよ! ……“潜在能力解放”」
そう光が唱えた瞬間先程まで輝いていた光が自分の中と手の中に入って来てとある文字が頭の中に浮かんで来る。
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能力解放。
無条件で潜在スキルを覚醒させます。
……複製魔法を解放しました。
……霊召喚魔法を解放しました。
……吸収魔法を解放しました。
能力の性能が高過ぎます。もう一度言います。能力の性能が人の持てる容量を超えています。身体を保つために限界までの激痛と意識の混濁を100回繰り返します。
……超危険状態なのでリスクを伴うのを先送りにします。早めにリスクをうけてください。身体を保つのが不可能になるまで残り1分です。
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(なっ!?)
今日何回目かも分からない仰天に表情を変えた。勿論能力の性能についてで。
(どうすれば……。そうだ!)
光が消え、手の中にはレンの魔力の塊が出来ていて速度が徐々に増していく中アオトはある魔法を唱えた。
「くっ、体を少し動かすだけでもこんなに……我は生と死の境界線を超えた霊王なり 今こそ彼のものをこの地に契約と言う名の鎖で繋ぎ止め 霊体としてこの世に召喚せよ!」
舌を噛まないようにしながら詠唱を唱えるが丁度目の前に地と言う名の死が見えてきた。
「《霊召喚・クルス レン!》」
独特の魔法名を唱えたアオトを待ち構えていたのは強い眠気と言う名の死の入り口だった。だが、朦朧とする意識の中でレンから先程貰った魔力を最大限に使い、なんとか死から乗り切れた。
「まさかこれほどとはな」
半透明状態のレンは自分をこの世まで送る事が出来たアオトを守るため下敷きになる事で衝撃を和らげさせた。勿論、数枚の簡易ながも結界を張って。結果は―――
―――成功だった。
アオト君は覚醒しましたね。レン君はじきに消えます。二度と召喚できない結果として。
ところで途中でさらっと出たリスクはお読みでしょうか。死に至る一歩手前までの激痛と意識の混濁を100回です。死にますね、自分でしたら。多分1回目でも大体の人が発狂すると思います。気にしたら負けです。温かい目で見守りましょう。御愁傷様です。アオト君。