プロローグ2
今日二つ目の話です。一話目を見ていない方は前の話へ。
(なんだろう。この懐かしい気持ちは)
少年は頭の中でスーパースローで映し出される思い出に浸っていた。
(俺は……死んだのか?)
少年の頭の中を過る一つの疑問。だが、今となってはどうでもよかった。何故なら少年はつい先程考えるのをやめたから。と言う事は自分が生きていようと死んでいようとどうでもいいと思っているのと同じだった。
(何か忘れてないか? 何かとても大切な事を……)
少年は考えた。自分がとても大切な事を忘れている気がして必死に頭で沢山の情報を整理して。だが、見つからなかった。この靄のようなものが取り払うのはどうしても無理だった。無理だと思い込んだ。
そんなときだった。先程の光とは違って、優しい光に包まれたのは。そして少年は目を力一杯瞑った。
そんなだんだんと薄れゆく光の中、ゆっくりと目を開けて少年は仰天した。自分の透けた体に。もっと仰天したのは目の前にあるものだった。
そこにあったのは―――
―――自分。虐められて顔を真っ赤に膨れ上がる程殴られた自分。異世界に来る前の自分だった。
沸々と怒りが沸いてきた。
少年を後に突き落とす事になる元凶に。なにもやり返せない自分に。
(もうどうでも良いじゃないか。……もうやめてくれ。どうせ死ぬんだ。俺を、俺を……追い詰めないでくれ)
少年は耳に手を当て、目をまた思いっきり瞑った。自分の弱さから目を背けるために。現実と言う名の自分の姿を見ないために。
『蒼音、ごめんね。蒼音……』
心の奥底に響く程の少年、蒼音に謝る鮮明な声。
そんな声に誘われて目を開けたその先にあったのは―――
琴乃だった。顔をずたずたにされた蒼音に大粒の涙を流しながら本当に蒼音を心配している顔を見せる琴乃だった。
蒼音の一番会いたかった人。蒼音の好きだった人。蒼音とずっと隣に居てくれた人。だが……。
(何故泣くの? 何故笑ってくれないの? 何故、何故……)
蒼音の心が大いに傷ついた。自分が、自分のせいで琴乃が泣いているから、と。
『私、もう蒼音に傷ついてほしくない……。私がいつも来るのが遅いから……』
違う! と蒼音は叫ぼうとするが声が出ない。自分の思い出の中にも確かにこんな事があったと思い出すが結局それだけで声をかける事も自分がここに居ると言う事も伝えられない。
『私が守るから。絶対に守るから』
(そうだ。この日は俺がこの世界に転移した日だ。その日の出来事は大方覚えているのに何故……)
『元気を出して』
(え?)
これは記憶の中の琴乃だと理解していた蒼音はいきなり自分の方を見て、声を発していた琴乃にまた仰天の表情を出してしまった。
『守れなくてごめんなさい。でも蒼音ならそこからでも私のところに帰って来れる。いや、帰って来てくれる。私はそう信じてるから。蒼音が本当は凄く強い子だって』
そうはっきりと透けている蒼音が見えているかのように蒼音を射抜くかのような眼差しを当てて来る。
(俺の記憶にこんなものは……)
そのとき、蒼音の周り全体がまた眩しく光り輝き、魔法陣によって次々と人が、物が消えていった。それはいくら蒼音の記憶と言えど蒼音も例外にはならなかった。
『私は……だから』
そうして蒼音と蒼音の記憶にある学校そのものが消えていった。
次回、異世界へ。蒼音の過去編最後のプロローグ。




