セシア
どこか素朴な小屋の屋根。ベッドの上で、少女はぼーっと見つめていました。
起きたのはついさっき、胸の怪我は手当てされていたようで、包帯が巻かれていました。
まだまだ完治している様子はなく、少女の胸はジクジクと痛みます。親切な人もいるものです。
それからしばらくして、ドアが開く音がしました。古びているようで、ギギ、と軋みます。
少女は内心ヒヤヒヤです。昔から人との関わりは積極的に避けているので、こういう場面に滅法弱いのです。
近づく足音に、少女はゆっくりと目を閉じて、寝ているふりをして誤魔化そうとします。
「……あなた、起きてるでしょ?」
そう上手くはいかないようです。
観念して目を開けますと、綺麗な顔立ちをした、鼻の高い女性がいました。
少女はどうしていいか分からず、とりあえず苦笑いしました。
「苦笑いされても困るんだけどね、無事で良かった」
女性は人の良さそうな笑みを少女に見せます。
「っと、まずは自己紹介だね。私の名前はセシア。君は?」
「ユ、ユーナ」
少女は身体をゆっくり身体を起こしますが、胸に痛みが走ったようです。顔を顰めました。
「いいよ、寝たままで。まだ安静にしておかなきゃダメだからね」
セシアは少女、ユーナの肩にそっと手を添え、身体を倒します。
そんなセシアを、ユーナは不思議そうに見ました。
「ん? どうかした?」
セシアがユーナの様子に気付きます。
「あの、対価は……?」
「いいよいいよ、そんなもの。君の心に仕舞っておいて」
満面の笑み。優しい人だ、ユーナは素直に思いました。
「さて、朝ご飯の準備をしなきゃね。君はそこから動いちゃダメだよ、傷口が広がるからね」
それを言い終わると、セシアは部屋のドアを開けました。
「あの!」
ユーナの追いすがる声に、セシアが振り返ります。顔には疑問の色。
「ありがとう……ございました」
小さく、微笑みながらユーナはそれだけを口にします。
「どういたしまして」
同じように、セシアも微笑みました。