表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺と彼女のミステリな日常  作者: こよる
第一章 きみに捧げるミステリ
9/64

第一章―08

 天川沿いを延々歩き、土手道から逸れたところの住宅街に、築二十年の奈須西家がある。

 家族構成は両親と高校二年生の俺、そして中学二年生の妹。

 両親は共働きなので、夜遅くまで帰ってこない。そのため、朝食は家族全員で摂るものの、夕食は俺と妹の二人だけなのが通常だった。

 玄関を開けると、その音に反応するように、リビングからひょっこり顔が覗く。

「あ、お兄ちゃん。おかえり」  

 くりくりと丸くて大きな目、弛緩した頬。およそ手入れしていない黒髪は伸ばし放題で、背中まで流れている。身体つきは華奢でちっこいが、ちっこい犬は大概うるさいという法則を思い出させるのが俺の妹、奈須西早季なすにしさきだ。

「どうしたの。今日、やけに遅かったじゃん」 

 タンクトップにショートパンツという完全な部屋着姿の早季は、俺を待ちきれなかったのか棒アイスを片手にしていた。バニラ味のやつ。それでも夕食は兄と一緒という習慣を守っているあたり、健気だと褒めるべきなのかも知れない。

「ごめん。ちょっと用事があったからさ」

「へ。お兄ちゃんに用事? 何も思いつかないけど」

 くちびるに人差し指をあて、きょとんと首を傾げる。俺は「ちょっと降霊会をやってたんだよ」と答えて、妹を押しのけリビングに入った。食卓には母親が作っていった質素な晩飯が二人分。着替えるのも面倒で、俺はそのまま席についた。

 その正面の椅子に、早季がちょんと腰掛ける。

「ねぇお兄ちゃん。コーレーカイってなに?」

「霊が降りる会と書いて降霊会です。分かりやすいだろ」

「ふぅん……。ふぅん?」

 早季はただでさえ丸い目をさらに見開いて、首を九十度くらいまで捻ってみせた。説明せよ、と暗に脅迫しているらしい。

「一昨日、昨日と続いて俺に妙ちきりんな贈り物が届いたからさ。ミステリ研の後輩に相談したら、色々あって、呪いなんじゃないかって話になって。それで、呪いを解いてもらうために降霊会をやってたの」

「え、なにそれ。ちょう面白そう」

「面白くねぇよ」

 というか、成り行きを改めて整理してみたら、本当にアホだな俺。妙ちきりんな贈り物が呪いなんじゃないかって部分はまだいいとして、呪いを解いてもらうために降霊会をやってた、はさすがにないだろう。志ヶ灘が怒るのも頷ける気がした。

「それで、結局どうなったの。そのコーレーカイ」

「一応、花瓶が割れたりろうそくの火が消えたり、それっぽいことが起きたけど。でも、現れた霊の話によると、俺に贈り物をしたのは霊の仕業じゃなかったらしい」

「は? なに、霊が喋ったの?」

「うん。すごい喋ってた」

「……お兄ちゃん、頭だいじょうぶ?」

「うるせえよ」本当に喋ってたんだから仕方ないだろ!

 とはいうものの。確かに、「現れた霊の話によると、」とかいうセリフ、降霊会が終わった今になって客観的に考えれば噴飯ものだ。語尾に(笑)とか撒き散らしたい。

「さきが思うに、一連の事件の犯人は真結ちゃんだな」

 早季は棒アイスを消費し終わり、自分のコップに麦茶をつぎながら言う。

「なんで? ていうか、どうして真結が一緒にいたこと知ってるの?」

「そんなの、お兄ちゃんの行くところには真結ちゃんがいるに決まってるじゃん。バカップルなんだから」

「いや、バカでもップルでもないけど」

 でも真結が一緒にいたことは本当なので、いまいち説得力に欠ける。困って頬を掻く俺に、早季はうんざりしたような視線を飛ばした。

「さきが言うのも何だけどさぁ……本当に、いい加減けじめをつけた方がいいと思うよ、お兄ちゃんは。何年一緒にいると思ってるの」

「さぁ。ところで、けじめってなにさ?」

「だからー……」

 早季は何かを言いかけたが、茶渋を飲んだように顔をしかめて口をつぐんだ。

「やっぱいい。別に、何でもない」

 そして怒ったように沈黙。何だかよく分からないけど、妙に居心地の悪い空気だった。それを散らすように、今度は俺の方から口を開く。

「あのね。多分だけど、今回の事件の犯人は真結じゃないと思うよ」

「……ふぅん?」

「降霊会をやろうって言い出したのは、真結じゃなくてオカルト研究会ってとこのメンバーだからさ。真結はどっちかって言うと、飛び入り参加って感じだったし」

「あっそう。まぁ、さきはどっちでもいいけどね」

 早季は何だかよく分からないが不機嫌で、素っ気ない態度を取る。夕食をがつがつ、がつがつと早食いすると、「ごちそうさまでしたー」と適当に手を合わせて、席を立ってしまった。

 何だよあいつ、と肉じゃがを摘みながら俺。

 早季はリビングを出ていくところで、何か思い出したように俺を振り返った。

「あ、そうだ。お兄ちゃん宛の荷物、また届いてたよ。お母さんの椅子の上」

 果たして、それは三枚目の封筒だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ