第一章―07
「随分と派手にやらかしてくれましたね。あいつら」
降霊会からの帰り道。
すっかり日の落ちた天川沿いの土手道を、例によって俺と志ヶ灘は歩いていた。
降霊会の後始末――割れた花瓶の後片づけとか、窓ガラスの手形の消去とか――はオカルト研の二人がやってくれるらしい。そのため、俺と志ヶ灘は早々に抜けさせてもらった。真結については、意識を失ってしまった小田切さんが心配だからと、その場に残ると言っていた。
「わざわざ自分たちから降霊会をやろうって言うくらいだから、何かあるとは思ってましたけど……。まさか、あそこまで派手にやるとは思ってませんでした」
「ていうか、のっけからインチキだって決めてかかってるんだね。志ヶ灘は」
「は?」
ぎろっと、肉食動物の目が俺を射抜いた。
「まさかせんぱい、あれがインチキじゃないとでも主張するつもりなんですか? だったら私、千の言葉を用いて、せんぱいが二度と軽口を叩けないくらいギッタギタに論破してやりますけど」
俺は肩を竦めた。志ヶ灘を怒らせると後が長いのだ。
「じゃあ、仮にあれがインチキだったとしよう。それで志ヶ灘は、あの現象の全てを科学的に説明できるの?」
「それは……まだ、ちょっと分からない部分がありますけど」
「ふぅん。なんだ、志ヶ灘でも分からないのか」
そう言ったら、何の前触れもなく靴の踵が俺の臑に来襲してきた。がしっと鈍い音がして、俺は暗闇に涙を見た。
「うっさいですよ、せんぱい。いいです、絶対に解き明かしてやりますから」
「あぁ、そう……。まぁ、頑張って」
「あの降霊会で起きた謎は、大きく四つです。
一つ目が、割れた花瓶の謎。誰も手を触れていないのに、教室後方の棚に置かれていた花瓶が二つ、床に落ちて割れました。これは何故か。
二つ目は、消えたろうそくの謎です。教室後方の棚に置かれていたろうそく二本と、みんなで囲んでいた机のろうそくの炎が消えました。これは何故か。
三つ目は、鳴った机の謎です。教室内の一つの机が、かたかたかた、かたかたかた、とリズムを刻むように鳴り出した。これは何故か。
そして四つ目が、最後に判明した赤い手形の謎……。これについては、謎の種類が他とは違うんですよね」
「違う? なんで?」
「いいですか、せんぱい。花瓶とろうそくと机は、言ってみればハウダニットです。どうやって犯行を成し遂げたのか、の謎……。でも、手形は違います。あれは、ホワイダニットなんです。
よく考えると、おかしくないですか? 花瓶やろうそくや机は、確かにポルターガイスト現象に見えるかも知れません。言ってみれば、それっぽい現象です。
でも、あの赤い手形はどうか。あれは、ポルターガイスト現象と言うには安っぽすぎます。まるで、バラエティ番組の心霊特番を見させられているような気分――。自分からインチキだって言ってるようなものじゃないですか」
言われてみれば確かにそうだった。
あの赤い手形は他の謎に比べると不自然に安っぽい。あの状況下だからこそ不気味に映ったが、降霊会をやって窓ガラスに赤い手形が現れたなどと聞けば、俺は間違いなく一笑に付すだろう。つまり、この謎は……。
「どうしてオカルト研は赤い手形なんていうガジェットを用意したのか、ですよ、せんぱい」
思うに、花瓶とろうそくと机の謎は物理的な方法でどうにかなりそうだ。でも、この手形の謎は一筋縄ではいかなさそうだった。
それに、封筒の謎のこともある。あれは本当にオカルト研の自作自演なのか。ろうそくや紙人形に一体どんな意味があるのか。表面のナンバリングは一体何なのか。
何だか、俺の日常は謎だらけだった。
「明日までには、絶対に解き明かしてみせます」
志ヶ灘は、やけに自信満々でそんなことを断言した。
「この謎を全部解き明かして、あいつらが超常現象だと浮かれて騒いでるところに、真相を突き付けてやるんです。鼻っ柱を再生不可能なくらいにへし折って、ミステリ研に喧嘩をふっかけたのが間違いだったと土下座させた上、私の靴の先を舐めさせます」
「いま改めて思ったけど、性格悪いな、お前」
「負けず嫌いと言って下さい」
志ヶ灘はそう言って、不敵に笑みを含んだ。波風を立てるのが嫌いな俺は、真相がどうであれ、物事が丸く収まることを切に祈るのだった。