エピローグ
エピローグ トライアングルの行方
コウライさん事件が一応の解決をみて、俺は考える。
結局のところ、一連の事件で俺は何を得て何を失ったのだろう。
真結との関係も志ヶ灘との関係も、両方維持して変えないという選択をした今、俺が得たものとは何だったのか。失ったものとは何だったのか。明確に言葉に出来ないそれを抱えて、しかし俺は今日もミステリ研の扉を開く。
中には志ヶ灘が一人だけ。
――遅いですよ、せんぱい。
そんなことを言って、甘噛みのように睨んでくる。俺は掃除当番がどうこうと言い訳して、いつもの席につく。
穏やかな午後の日差しを浴びながら、俺は思う。
三人が三人とも誰かを傷つけ、誰かに傷つけられ、それでもどうにか互いの居場所を確保するに至った今回の事件。その結果を尊重して、これからも自分たちの居場所を守りたいと望むなら、俺たちは沈黙しなければならない。
好きとか、好きとか、好きとか。
そういう気持ちを自分の中に押し込めながら、上手に嘘をついて生きられるようにならなければならない。
痛みの残る結論に、これで良かったのかという自問は尽きないけれど。
部室の扉が、また開く。
――こんちわー! はいはい、きょうくんと藍ちゃん、事件発生です!
また変な事件を持ち込んできた真結に、志ヶ灘と二人で肩を竦めながら。
それでも確かに手にすることの出来た、未来に向けてのちっぽけな真実の可能性。
人が人を想う心の中には、たくさんのミステリが潜んでいる。
だから、三人がこのままでいる限り、きっと俺と彼女の日常はミステリに包まれ続けるのだ。
(Fin)




