表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺と彼女のミステリな日常  作者: こよる
第四章 俺と彼女のミステリな日常
59/64

第四章―11

 結局、自分の手で真結との関係を破壊した俺に、最後に残されたものとは何か。

 そんなの、言うまでもなくあの封筒の暗号だった。

「何だっていうのかねぇ……」

 さんざん振り回されて失敗させられた俺の手元に最後に残ったものが、よもやその失敗の原因を作ったものだったとは。つくづく、神様ってやつは性格が悪いと実感する。

 勉強机の上に、とりあえず十枚の封筒を並べてみた。

 こいつのせいで、と思う一方で、かえってその挑発に乗ってみたくなる心情も確かに存在している。俺をからかっておいてただで済むと思うなよ、みたいな、そんな敵対の心理。

 確かに、今さらこんな暗号を解き明かしたところで、何がどう変わるわけでもない。俺だって真結だって封筒の送り主の犯人だって、救われはしないだろう。

 それでも。

 何故だか、向こうが俺のところへやって来るのをただ待つことが、無性に気に入らなかった。

 守りではなく、攻め。

 どうせ、守るべきものを失くした俺に相手の方からやって来るのを待つ意味はどこにもない。守っても攻めても、無意味は無意味。

 同じ無意味なら、攻めてやる。

 そういう信念に基づいて、俺はこの封筒を机の上に広げた。

「上等だ」

 誰だか知らないが、待ってろ。

 俺がこの暗号を解き明かしてお前の正体を暴いて、そっちに攻め込んでやる。



 もう夜で疲れているはずなのに、頭が異常なほど冴えている。眠気がまったくない。思考回路は研ぎ澄まされ、シナプスにしきりに電流が走っている。さっき、余計なものをことごとく排出したのが良かったのだろうか。今なら、どんな不可解な謎でも解き明かせそうな気がした。

 さて、謎の整理だ。

 封筒の謎について、まず気になるのが中身の問題。俺に送られてきた品々はすべて七夕に関係があるものだった。それは何故か。また、どうして中身があの品々である必要があったのか。

 二つ目。封筒に書かれていた番号について。あの番号と中身の対応には一体どんな意味があるのか。また、封筒は十枚までだった。この十という数字に何か特別な意味合いがあるのか。

 三つ目。封筒が発見された場所について。あの十枚の封筒は、家のポストと学校の下駄箱に交互に入れられていた。これは何故か。

 四つ目。メッセージカードの『二人の名前を当ててみせよ』という文について。二人ってのは恐らく、犯人と俺のことだろう。しかし、俺は自分なんだから名前が奈須西京輔だってことぐらい当然知っている。それなのに、『二人の名前を当ててみせよ』とはどういうことか。

 暗号を解くためのヒントは、この四つだ。

「さぁて……」

 どこから考えるべきか。

 俺が思うに、この暗号解読の鍵となるのは一つ目の謎。アイテムの共通点が七夕であるということだ。つまり、この謎解きのテーマは七夕。そこから考えていけばいい。

 七夕と恋愛といってまず思い浮かぶのが、織姫と彦星の伝説だ。恋に落ちた二人は働かなくなり、それを見て怒った神様が天の川で二人を隔ててしまった。二人は七夕の夜にだけ、再会できる……。 

 そこで、ふと気付く。

 四つ目の謎にある「二人」というのは、もしかしたら織姫と彦星のことなんじゃないか。七夕伝説にちなんで、自分たちの恋を織姫と彦星に見立てる……。ありそうな話だ。

 しかし、とすると『二人の名前を当ててみせよ』というのは? 織姫と彦星に見立てた犯人と俺の名前が、この暗号に隠されているというのか? 仮にそうだとして、どうやってそれを見つけ出す?

 たとえば、織姫と彦星を上手いこと使ってどうにか……出来ないかな。

 とりあえずこれは放置して、二つ目の謎。

 最初から最後まで謎だった、封筒の番号。それぞれのアイテムに一から十までの番号が振り分けられているのだが、これの意味は何だろう。そもそも、どうして十番までなんだ。キリがいいからか? まさか。暗号というんだから、何かしらの意味があると考えるべきだろう。

 中身と番号を対比させた表を眺めて、ふと思う。

 『さらら』事件の際には、小説がテーマの暗号が使われていた。しかし実際のところ、あの掌編小説の内容自体は謎解きにはまったく関係がなかった。関係があったのは、小説の一部で用いられていた単語だけだ。

 ひょっとして、この暗号もそうなんじゃないか。

 七夕に共通点があるというのはガジェット――言ってみれば、謎を面白くするための演出装置に過ぎないのではないか。暗号を解読する際には、内容じゃなくて形式から考えなければいけないのではないか。

 たとえば、『さらら』事件のときみたいに、送られてきたアイテムを英語にしてみたり……。いや、違うな。金銀砂子とか、明らかに英訳できない。

「くそ。じゃあ、英語じゃないとしたら……」

 そんな感じで、俺は暗号と格闘した。 

 いつの間にか深夜を回って、家の中が静まり返っても。

 次第に東の空が白んできても。

 俺は時を忘れ、疲労を忘れ、目の前の謎解きだけに全身全霊を集中させた。途中から頭が冴えすぎて、自分でもどうかしてるんじゃないかと思った。上等だ、どうかなってやる。自暴自棄と化した俺に怖いものなどないのだ。

 そして、早季が「お兄ちゃん。ごはんー」と俺の部屋の戸を叩き始めた頃。

 俺は、ついにコウライさんの謎の真相に到達した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ