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俺と彼女のミステリな日常  作者: こよる
第四章 俺と彼女のミステリな日常
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第四章―07

 晩ご飯は順当に、露店の焼きそばと鶏の唐揚げで。

 唐揚げの方は二人で一パック買ってそれを分けることになり、何故か俺がじゃんけんで負けて代金の二百円を負担した。それを持って、敷地内に無数ある特設テーブルの一つにつく。

「しっかし、浴衣着てる人がちょっと少なすぎない? 人の数自体は多いのに」

 焼きそばを食べながら、真結はまだ浴衣のことを気にしているらしかった。ちらちらと辺りを窺っては、自分の浴衣の袖をつまんでいる。

「まぁ、ここの納涼祭は盆踊りがないからさ。あんまり浴衣とか着る気も起こらないんじゃないの?」

「……でも、着たいじゃん。せっかく年に数回しかないお祭りなんだから」

「まぁかわいいならいいよ」

「まだそれを繰り返すか!」

 べしべしっ。……待て、割り箸が吹っ飛んだ。

「もういいもんね。こうなったらわたし、りんご飴とか買ってくるもんね」

「なに食い意地はってんだよ……」

 しかも、張り方がしょぼい。

「きょうくん、ここで待ってて。ちょっと買ってくるから」

 真結はそう言って、焼きそばを途中で放り出して本当にりんご飴を買いに行ってしまった。思考回路のレベルが小学生並みだ。

 数分後、戻ってきた真結はやけに上機嫌だった。 

「これ、最後の一個だったんだって。きっとご利益があるから、後で大切に食べることにしましょう」

 そんなことを言って、真結は袋にくるまったりんご飴を大事にテーブルに置いた。そういえば俺も早季からりんご飴のおみやげを請求されていたような気がするが、まぁいいか。

 そうこうしている間に俺が先に焼きそばを食べ終わる。真結は元々食べるのがのろい上、りんご飴を買いに行っていた時間のハンデがあるので、まだ半分も食べ終わっていなかった。

 さて、どうしよう。

 どうせこれから真結に付き合わされて、金魚すくいだの何だのをやらされるのは目に見えている。となれば、空き時間は有効活用すべきだ。すなわち。

「真結。俺、ちょっとトイレ行ってくるから」

 確か、公衆便所が公園の隅に備え付けられていたはず。この人込みで混雑してないといいが、と思いながら俺はしばし席を外した。 

 


 そして、五分後。俺が真結の元へ戻ってきたときに、そのミステリは勃発していた。

「たこ焼きまで買ったのか……」

 俺が戻ってくると、さっきのテーブルにはたこ焼きのパックが新たに置かれていた。八個入りのやつだ。しかも、さっき真結が買ったはずのりんご飴がなくなっているのを見るに、どうやら真結はりんご飴を喰って、さらにたこ焼きまで喰うつもりらしい。どんだけ食い意地張ってるんだ、こいつは。

 などと思いながら席に戻ると、真結が俺に含みある笑顔を向けてきた。

 ……何だか、嫌な予感がした。

「はいはい、きょうくん。ここで問題でーす!」

 ほら、やっぱりだ。真結がこういう顔をするときは妙なことを企んでいるときと決まっている。俺は肩を竦めて真結に向き直った。

「……何が問題だって?」

「はい、実はですね。きょうくんがトイレに行っていた五分の間に、ここにあったりんご飴ちゃんが消えて、代わりにたこ焼きくんが現れました。さぁさぁ、これはどういうわけでしょう?」

「また変な問題を……」

 誘拐事件じゃなかっただけマシと思うべきなのか。しかしまぁ、せっかく真結が場を盛り上げようとしているらしいので、ここは素直に乗っておくとする。さて、今回の問題は……っと。

 俺がトイレに行っていた五分間に、消えたりんご飴と現れたたこ焼きの謎。

 そんなもん、ミステリでも何でもないと思うのだが。

「はい、分かりました」と挙手する俺。

「はい、ではきょうくんさん。答えをどうぞ」と司会者風の真結。

「真結がりんご飴を喰って、でもまだ喰い足りなかったからたこ焼きを買った」

「ぶー。違いまーす。きょうくんさんは、出店の種類をよく見て下さい」

 そう言われたので、首を回転させて公園内にある屋台を見回してみた。

 焼きそば、唐揚げ、りんご飴、チョコバナナ、金魚すくい、射的……。

 ぐるっと視線を公園内に走らせてから、ようやく謎の正体に気付く。

 ないのだ。この公園には、たこ焼きの露店が。

「どこにもたこ焼きを売ってないのに、どこからたこ焼きを仕入れてきたか、ってことか……」

「そう。つまり、今回の謎解きのテーマは不可能犯罪なのです」 

 真結が得意げに胸を張る。ていうか、その単語、格好良かったから使ってみたかっただけだろ。

「たとえば。真結は最初からたこ焼きのパックを所持していて、俺がトイレに行っている隙に取り出した、とか」

「ぶー。わたしはそんな面倒なことしません」

「じゃあ、そこらへんにあるスーパーでたこ焼きを買ってきた」

「ぶー。きょうくんがいなかったのは、たった五分だけです。そんな時間はありません。しかも、そのパックを見れば分かるけど、そのたこ焼きは明らかに業者用のものです。そこらへんじゃ売ってません」

 言われてみれば確かに、このたこ焼きのパックは業者用だった。だが、その業者はこの公園にはいない。しかも、真結がこのたこ焼きを入手するまでにはたった五分しか掛からなかった。

 さぁて、と。どういうわけだ?

「おっと、きょうくんさん。困ってしまったようですね?」

「うるさい。実況放送するな」

「はい。ではでは、困ってしまったきょうくんさんのために、一つヒントを差し上げましょう」

 真結はそう言って、きょろきょろと辺りを見回した。なんだ、そこらへんにヒントが転がっているのか?

 しばらくののち、真結が「ちょうどいいのを見付けました」と言う。

「はい、ではきょうくんさん。あちらのうら若きカップルをご覧ください」

 真結が手で示した先には、一組のカップルがいた。二十代ってところだろうか。男の方は黒髪ショートカットで、女の方は茶髪のミディアムロング。二人とも浴衣を着て、手ぬぐいを腰帯に挟んでいる。後ろ手に手を握っちゃってるところがアレだが、総じて標準的なカップルに見えた。

「あのカップルのどこがヒントなの?」

「さぁ。それはきょうくんさんに考えていただかないと」

 真結はにやにやしながら俺を眺めている。その目が「藍ちゃんがいないと一人じゃ解けないでしょ?」と言っているみたいで、何だかむかつく。志ヶ灘がいなくたって、真結程度の頭で考えついた謎なら俺程度の頭だって解けるはずだ。

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