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俺と彼女のミステリな日常  作者: こよる
第四章 俺と彼女のミステリな日常
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第四章―03

「らぶれたー……」

 自室に戻って、ベッドの上で改めて呟いてみた。普段見慣れているはずの天井が、何だか違う部屋の光景に見える。

 衝撃からしばらく経って、じっくりその単語と向き合ってみると、しっくりこないというのが正直な感想だった。異世界の言葉みたいに、自分の生活の中に理解が落ち込んでこない。

 まぁ、当然と言えば当然のこと。俺はあまり主体的に行動するということをしない人間だ。それ故に、誰かに好かれるとか、そういうのとは長いこと無縁だった。でも、別に好かれなくたって穏便に生活は出来ているし、楽しいならそれでいいやと思っていた部分があったから。

 それだけに、何だか動揺している。

 嬉しさとか喜びとか、そういう分かりやすい感情は湧いてこなかった。

「コウライさんのおまじない、ってか」

 そういえば、九枚目となる封筒は俺の部屋の中に置かれていた。どうやら昼のうちに母親が気付いて、ポストから俺の部屋まで運んできてくれたらしい。ナンバリングは『3』、中身は七夕に願い事を書いて吊す五色の短冊だった。 

 そいつを取り上げて、思う。

 いまだ知れぬ封筒の送り主が、何を思ってこんなものを俺に届けているのか。早季の奴はあんなことを言っていたが、常識的に考えればこれは俺に想いを寄せる女の子の手によるものと考えて間違いないだろう。とすれば、遠くない将来。

 告白、してくる気なんだろうか。

「なーんだかなぁ……」

 やっぱり、しっくりこない。誰かから告白されている俺の姿というのを想像できなかった。

 ベッドの上で、繰り返し寝返りを打つ。

 真結から電話が掛かってきたのはそんなときだった。

『きょ、きょ、きょーきゅん!』

 電話の向こうの真結は、何だかえらく慌てている様子だった。カミカミでもう誰のことなのか分からない。

「なにさ。どうかしたの?」

『どうもこうも……。わたし、大変な事実に気付いてしまったのです』

 真結はすっと深呼吸し一拍置いてから、

『きみの元に送られてきていた封筒って、ラブレターだったんだよ!』

「あー……」

 どうやら、真結は今さらその事実に気付いたらしい。俺も『さらら』事件に気を取られてすっかり気付かなかったとはいえ、真結はその上を行っている。さすがだ。

「俺もさっき気付いたんだけどさ。やっぱりラブレターだったんだな、あれって」

『うん……。どうしよう』

 真結は一転、気弱な声になる。 

「どうしようって?」

『だ、だってだって、きみにラブレターが送られてきたってことはだよ? きみのことを好きな人がいて、しかもその子が告白しようって思ってるってことじゃないですか!』

「まぁ……そうなるのかな」

『そんなの、一大事じゃないですか!』

「そりゃまぁ一大事だけど。ていうか、真結がなんでそんなに興奮してるわけ?」

『なんでって……。だって、きみがそんなことになったらさー……』

「さー?」

『なんか、わたしたちがちょっと、変な感じになるっていうかさー……』

「さー?」

『だから、変な感じに……』

 真結はそこで言葉を切り、しばらく無言になった。受話器越しに、かすかな息遣いが聞こえてくる。

「真結?」

『……やっぱ、いい』

「え?」

『何でもない。とにかく、わたし今から対応策を検討するから。また明日、学校でね』

 それっきりで、電話は切れてしまった。対応策って何の対応策なんだろうか。

 再びベッドに身を横たえ、そして思案。

 目を瞑ると、何故か頭にまだ見ぬ封筒の少女と真結の笑顔が同時に浮かんだ。その時、いくら鈍感な俺でもようやく問題の本質に気付く。

「そっか……」

 もし今後、このコウライさんのおまじないが成就した場合。

 もし今後、誰かから俺が告白されてしまった場合。

 その段に至っても俺と真結は、ただの友達としてただの幼馴染みとして、今までと同じような関係でやっていけるのだろうか。

 ただの気楽な、友達関係として。

 答えは、分からなかった。

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