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俺と彼女のミステリな日常  作者: こよる
第三章 名探偵の憂鬱
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第三章―15

「つまるところだ、ワトソンくん」

「俺は奈須西ですが」

「きみはこう言いたいわけだろう。『さらら』さんが書くのはミステリばかりだった、と」

「まぁそうですが」

 放課後の図書室。俺は真結の探偵ごっこに付き合わされていた。

 先程から、真結は『さらら』さんの小説『ナイフ』と睨めっこしては、ああでもないこうでもないと俺に講釈を垂れている。一方の俺は、捜し物だ。

 伊吹さんから教えてもらった『太陽の尻尾』という小説。ひょっとしたら、それが図書室のどこかにあるんじゃないかと思って、来てみた。ただ、生憎と図書管理システムがメンテナンス中だったので、大量の蔵書の中から自力で探す羽目になっているのだが。

 ミステリ研の部室には、まだ行っていない。どうせ行ったら行ったで、志ヶ灘の奴に「なにしに来たんですか、せんぱい」とでも嫌味を言われるだけだろうし。

「しかし、とするとだよ。ワトソンくん」

「なんだい、名探偵」

「『さらら』さんは一年のときも二年のときも、ミステリを書いて文集に載せていた。それなら、三年のときも文集に載せたのはミステリだった、と考えるのが自然じゃないかな?」

「まぁ、そうかも知れない」

「でもね、ワトソンくん。この小説にはなんらミステリらしき仕掛けがないんだよ。ナイフを隠し持ち、『彼』を殺そうと付け狙う……。確かにホラー小説とは呼べるかも知れないが、これじゃミステリ小説とは呼べないね」

 真結に言われて、そういえばそうだと思う。あの『ナイフ』という小説は、最初から最後まで『彼』をナイフで刺そうと狙っている物語だ。ホラーならそれでいいが、ミステリというにはオチがない。謎もなければ解決もなしだ。

 とすると、これは確かに、何か変じゃないかという気になってくる。

「ミステリ小説……オチのない話……」

 テーブルに向かって、真結が何やらぶつぶつ呟いている。集中力のない真結にしては珍しい光景だ。いきなりバイオリンを弾き出したり、コカインを注射し始めたりしないといいが、と苦笑しつつ、俺は書架に向かう。『太陽の尻尾』。さっきから作家名をあいうえお順に辿って探しているのだが、なかなか見付からない。

 と、その時。

「これ――もしかすると」

 真結が不意に、そんな呟きを漏らした。それから、椅子を倒してがばっと勢いよく俺を振り返ると、

「お、おい。きょうくん。ついに謎が解けたぞ!」

 咄嗟のことで「ワトソンくん」が「きょうくん」に戻ってやんの。

「なに、どうしたって?」

「な、謎が解けてしまったんだよ……。まさかとは思ったが……でも、これで間違いない」

 こっちこっち、と真結が手招きするのでテーブルを覗き込む。どうせ真結の言うことだから、あまり期待していないのだが

「何が分かったって? 教えてくれよ」

「う、うん……」

 真結は躊躇いがちに頷いた。しかし、口をもぐもぐさせるばかりで、なかなか真相を話し出そうとしない。

「真結?」

「……時に、ワトソンくん」

「え?」

「いやね。名探偵が、こんな面白くない場所で真相を披露するのは、ちょっと無粋に過ぎると思わないかね?」

 真結は腕を組んで俺を見つめ、わざとらしく苦い顔をした。

「きょ……ワトソンくん。僕はつくづく思うんだよ。素晴らしい推理はしかるべき場所でしかるべく披露されてこそ、掛け替えのない価値を持ち得るのだとね」

 ……何だか面倒なこと言い出したぞ、こいつ。

「じゃあ、名探偵さんはどんな場所だったら満足されるんですか」

「それは、大衆の面前に決まっているだろう。きみに依頼してきたという文芸部の一年生、それに志ヶ灘くんを交えて、堂々と推理を披露しようじゃないか」

「間違ってたら目も当てられませんよ。それでもいいんですか?」

「なにを言うか。この我が間違っているわけがなかろう。ふっはっはっは!」

 何だかもう、演じるキャラが混ざりすぎて誰が誰なのか分からなくなっている。

 ……駄目だこの子。早く何とかしないと。

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